6話 おとぎロワイヤル

「全く……急すぎますよセレーネ様」


 シュウメイは呆れたように言った。

 しかし、セレーネは意に介していないようだった。


「『物語の起源は物語の中にある』……テラーの基本じゃない」

「そうではなく……アリス様はどうするおつもりですか?」

「全部終わったら説明するわよ。どうせ、外の時間は止まってるんだし」

「そうかもしれませんが……」

「そんなに心配ならさっさと終わらせればいいじゃない」

「一筋縄じゃ行かないって知ってるじゃないですか……もう」


 と、シュウメイが困り果てていると――

 声が聞こえてきた。


「こ、ここは……? さっきまで書庫にいたはずじゃ……?」


 シュウメイとセレーネは驚き、振り返った。


 そこには、アリスがいた。


「ア、アリス様!? どうしてここに!?」

「……ただの一般人がどうしてナラティブに入ってこれるの?」


 ――ナラティブ……?

 ――またよく分からない単語が出てきた……


 だが、二人の慌てぶりをみるに、自分は相当変なことをしたようだ。


「そ、そりゃ当然、アリス様はソフィー様の娘様なのですから、テラーの素質があって……ソフィー様から手解きなどを受けていたり……とか?」


 シュウメイは慌てながら、こちらに目配せした。

 だが、残念なことに――


「し、知りません! 私はおばさまが魔法使いだってことすら知らなかったんですよ?」

「じゃ、じゃぁ……一体これはどういう……?」


 シュウメイは頭を抱えていた。

 多分、おかしなことが起きているのだろう。

 

 ――なんだろう……ごめんなさい


 別に悪いことをしたつもりはないが、良心の呵責みたいなものがジクジクした。


 と、突然、セレーネが顔を上げた。


 そして、空を睨んだ。

 

 絵本のような星空を睨んで、小さな声で言った。


「……来る」


 何が?――


 そう言おうとしたと同時に――

 

 轟音が空気を切り裂いた――


 そして、爆発音が響いた――


 煙が晴れると、大きな穴が、そこに開いていた。


 私は、呆気にとられていた。

 すると、シュウメイの声が近くで聞こえてきた。


「大丈夫ですかアリス様……?」

「あ、ありがとうございます……」


 私はいつの間にかシュウメイに抱えられていた。


 って……


「そ、空飛んでません……?」

「え? あーまぁ……ナラティブ世界ですからね」

「その、ナラティブ世界というのはどういう意味なんですか……?」

「うーん、ちょっと話すと長くなんですが……」


 と、説明を始めようとするシュウメイを、セレーネが止めた。


「遊んでる暇ないわよ」

 

 セレーネが鋭く睨んだ先は、大きな穴ではなかった――


 その上。

 

 拍手がどこからともなく聞こえてきた。

 そして、どこか貫禄のある女性の声が聞こえてきた。


「さすが、セレーネ・ルイーズ・クレア。この程度は造作もない……ということかしら?」


 セレーネが睨んだ先から、その人影が近づいてきた。

 階段を降りるように――

 優雅に――

 気品を纏いながら――


「それとも……月の下僕と言ってあげたほうがいいか?」


 その女性は、ニヤリと笑って見せた。

 そして、シュウメイは驚いたような様子で、言った。


「マルグリッド・モラン……! どうして貴方がここに!!」

 


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