4話 物語の起源
テラー
はじまりの物語
そして、図書館
一体何の関係があるのだろうか――?
「それでは説明を再開しますね、アリスさん」
館内ということもあり、シュウメイは声を抑えて話し始めた。
「例えば――人類の起源ってご存知ですか?」
「確か……アフリカから始まったとか聞いたことがありますが……」
「そうですそうです、そこから様々な大陸に人類は広がり、現在の人々の営みに繋がっているんですよねー」
「えっと……それとはじまりの物語が、何か関係があるんですか?」
「はい! 『はじまりの物語』というのは、まさに物語の起源のことなのですよ!」
――物語の起源……?
――なんだか難しそうな話に聞こえるきども……
どうやら顔に出ていたらしく、隣にいたシュウメイは少し笑っていた。
「現在確認されている最古の物語は『ギルガメシュ叙事詩』なのですが――この作品、ちゃんと物語として構成をされているんですよ」
「それって不思議なことなんですか?」
「ええ、とっても不思議です。だって――『ギルガメシュ叙事詩』を書いた人は、一体どこで物語を構成する技術を身に着けたのか――疑問に思いませんか?」
鳥肌が立った。
確かに、どうしてそんなことが出来たのだろうか。
「『ギルガメシュ叙事詩』が成立したのが紀元前2千年紀……つまり、現在から3000年〜4000年前ですね。その時に既に『物語』は存在していたことになります。しかも、ちゃんとした形を成して――」
「それは確かに不思議ですね……」
「もう不思議なんてレベルじゃないですよ! これはつまり、もっと古い時代から人間は『物語』を生み出し、語り、伝えているということです! ということは、もっと古い時代から言葉を生み出していた事になりますし、伝える術を生み出していることになります……つまり、歴史学や人類学において、とてつもない発見がそこに眠っているということなんです!!」
ギリギリ館内に響かない声で、シュウメイは興奮しながら言った。
でも、確かに聞いていると、すごいことなのだと思った。
物語の起源を辿れば、コミュニケーションの起源、言葉の起源――果ては人類の起源にたどり着く。
そんな壮大でロマンに溢れるものを、おばさまは探していた――ということなのかな?
「だけども――」
セレーネのガラスのような透き通った声が聞こえてきた。
「一部の人間は異なる答えを見出したのよ」
「というのは……?」
シュウメイはニヤリと笑い、小さな声で言った。
「歴史改変能力です」
「…………はい?」
突飛な言葉に頭が混乱していると、セレーネは近くの係員に名刺らしきものを見せていた。
係員はその名刺を見るやいなや、慌てた様子で後ろにある重そうな扉を開けてくれた。
その先に見えたのは――階段だった。
セレーネとシュウメイが中へと入って行くのを、慌てて追いかけた。
「オカルトな話だと思いますか?」
階段を降りながら、シュウメイが問いかけてきた。
さっきの話だと気づいた。
「しょ、正直……」
「ですが、そうとも言い切れないのですよ」
シュウメイは話を続けた。
「物語の起源ということは、この世に存在する小説、映画、漫画、アニメ、噂話からただの会話まで、物語によって培われた感情や感性の全ての始まりということになります」
――うん
「もし『はじまりの物語』が存在し、それに何かを加えることができるのならば……どうなると思います?」
急な質問だった。
「私達は受け入れてしまうのよ、それをね」
前を歩くセレーネが答えてくれた。
だが、意味はよく分からない。
受け入れる――?
何を――?
「認識、常識、歴史が変わってしまうということです。それも、何も気づかないうちに――」
「だから、私達『国際ペンクラブ』はどこよりも早く『はじまりの物語』を探し出し、保護しようとしているの」
そう言って、セレーネは足を止めた。
眼の前には一枚のドア。
何の変哲もないドアに見えた。
「本当にここで合っているのね? シュウメイ」
「はい、訪問履歴にも名前がありました」
「じゃぁ、間違いないわね」
「あ、あの……一体何を……?」
不安そうに尋ねると、セレーネは言った。
「ここから本題よ」
「え?」
「貴方の養母、望月ソフィーの正体を教えてあげるわ」
セレーネはそのサファイアのように青い瞳でこちらを見つめ、話し始めた。
「望月ソフィーは――魔法使いなのよ」
「私達と同じ、ね」
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