3話 はじまりの物語

 広大な芝生――


 大きな池――

 

 所々に置かれたモニュメント――

  

 ここって、図書館?


 第一印象でそう思うのが、吹山市立図書館である。


 元は何かの施設だったらしいけど……何の施設かは忘れてしまった。


 最初にセレーネに案内して欲しいと言われた時、観光か何かかと思った。


 少し落ち着いた場所でおばさまの話をしてもらえるのかと思った。


 だけども、前を歩くセレーネからはそんな雰囲気は見られない。


 どうやら違うようだ。


 さて、図書館の入口に近づいてきたけど――


 まさか、中へ入るの……?


 ますますよく分からなくなってきた。


 すると――


「お待ちしていました、セレーネ様!!」


 なんとも元気な声を上げながら、女性が近づいてきた。


「まさか、あのご高名なセレーネ・ルイーズ・クレア様にお会いできるなんて、感激ですよ私! あとでサインくださいね!!」


 その女性はセレーネの手を握り、ブンブンと上下に腕を振った。

 

 セレーネは、めちゃくちゃ嫌そうな顔をしていた。


 疲れそう。


「……貴方がジュウ・シュウメイ?」

「はい、祝・雪梅です! シュクでも、ユキウメでもお好きなようにお呼びください!」

「……じゃぁ、シュウメイで」

「わわ!! 本名をそのまま呼んで頂けるなんて……! 感激ですよ私!!」

「……さっきから感激ばっかしてるわね」


 確かに。


「ところで……」


 と、シュウメイは私の方に視線を移した。


「こちらの方は……?」

「望月アリス……望月ソフィーの養女よ」

「ソフィー様のお娘様でしたか!!」


 と、シュウメイが近づいてくると、深々と頭を下げてきた。


「この度はご愁傷様でございます。心よりお悔やみ申し上げます……」

「え……あ……そんな、そんな……」

「ソフィー様は、我々国際ペンクラブの中でも突出したテラーでして、あまりにも大きな損失です……」


 聞き慣れない単語が並びだした。


「……テラーってなんですか?」


 ちょっとした質問のつもりだった。


 だが、シュウメイは『しまった』と言わんばかりの顔をし、セレーネに目配せをした。


 『私、やっちゃいました……?』


 そう言いたげな顔だった、

 

「……別に良いでしょ、身内なのだから」

「で、ですよねー!? あっぶなー!!」


 まるで崖から危機一髪で生還した人、みたいな顔をシュウメイはしていた。


「ではまず――そうですね、我々の目的をお教えしますね」

「は、はい……!」

「私達は――『はじまりの物語』を探しているんです」

「はじまりの物語……?」


 初めて聞く単語だった。


 ――なんだろう。


 ――物語というのだから、本かな……?


「あはは、急に言われても分からないですよねー。はじまりの物語というのはですねー……」


 シュウメイはなんだか楽しそうな様子だった。


 だが、隣にいるセレーネは真逆のようだ。


「ちょっとシュウメイ、その話は歩きながらでも出来るでしょ? 案内しながらしてちょうだい」

「あ、すみません……それでは、こちらに」


 と、シュウメイは先生に怒られた生徒のようになりながら、図書館の中へと入っていった。

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