2話 沈黙の再会

 セレーネは、ソフィーの仏壇に向かって手を合わせていた。


 線香の煙が、ゆらゆらと揺らぐ中、ただ静かに祈りを捧げていた。


 そして、目を開けた。


「まったく……最後まで説明が足りない人だったわね師匠は……まさか、自分の死期まではぐらかすなんて」


 そういうセレーネの言葉を、アリスは、親しい間柄の皮肉のように聞こえた。


「で」


 突然セレーネは、アリスのほうに向き直った。


「貴方が師匠の娘?」

「師匠……というのは、ソフィーおばさまのことですよね?」

「……私回りくどいの嫌いだからスパッと答えてくれる?」


 そのサファイアのように青い瞳で、セレーネはギロリと睨んできた。

 一応私20歳なのだけど……明らかにあっちのほうが年上みたいな雰囲気ある……


「そ、そうです……養子ですけど……」

「いつ頃から?」

「えっと……半年前くらいですかね……?」

「素性については聞いてた?」

「いえ、あまり詮索するのは悪いかなと思って……」

「……まぁ、詮索しても答えられないだろうけどね」


 その言葉に、多くの意味が存在するように感じた。


「あの……おばさまとはどのような関係なのでしょうか……?」


 セレーネは、再びその青い瞳をこちらに向けた。

 しかし、先程のような鋭さはなく、何かを見定めるような――そんな目つきだった。


 と、どこからか着信音が鳴り響いた。

 セレーネはスマートフォンを取り出し、何かを確認すると、小さくため息をついた。


「……まぁ、貴方は一応娘だし、知る権利はあるわね」


 そう言うと、立ち上がり――


「着いてきなさい」


 セレーネは軽やかに部屋を出て行った。


 私は突然の事に何が起きたのか理解出来ていなかった。


「早く来なさい、置いて行くわよ」

「あ、はい!!」


 私は、慌てて部屋を出た。


 本当にいろいろ急な人だ。

 あと、ちょっと怖いし……


 でも、これで分かる。


 おばさまの事が――

 

 私を助けてくれたおばさまの事が――


 いろいろ聞きたいことがあった――


 でも、聞けなかった――


 そして、お別れすることになって……


 後悔しかなかった。


 だから今度は――


 このチャンスは、絶対に逃さない……!!


 色々なことを思いながら外に出ると、セレーネが立ち止まっていた。

 

「どうしました……?」

「……案内して」

「え?」

「吹山市立図書館に行きたいんだけど、案内して貰える?」

「えっとー……」

「初めて来た土地なんだから知らないのは当然でしょ?」

「いえ、そうだとは思うのですが……」


 めっちゃ気まずい、

 だって――


「眼の前です……」

「え?」


 セレーネは恐る恐る振り返った。


 その広大な土地に佇む大きな施設。

 

 それが、吹山市立図書館なのだ。


「…………ああ、なるほどね。それじゃ行きましょうか」


 そう言ってセレーネは歩き出した。


 だけど、私知っている。


 セレーネの耳が真っ赤になっていた事を。

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