第37話 後片付け1
王都の騒乱が粗方落ち着いたタイミングで、アルター・エゴの一体をスコットに変身させて、ゴブリンシャーマンがいたスレイ邸の裏山に転移させた。
これからここに集まった残存勢力も駆除せねばなるまい。
「おや、スコット様ではないですか。
どうされましたか?先ほどからガリヤ様の魔力も感じられないのですが」
「残念ですが、ガリヤさんはやられました。
我々人間の軍も壊滅しましてねぇ。ここがバレる前に全軍撤退するですねぇ。
その説明をするから、ここに残っているものを集めるですねぇ」
「かしこまりました」
バタバタと伝令が走り回っている間に、洞窟の外にいるトレントなどの動けない魔族を一体ずつ聖属性魔法で葬っていく。
監視役兼目隠し役だったのか、ある程度トレントを倒すとスレイの屋敷が丸見えになる。
「ここも気に入ってたんですがねぇ……」
みたいな演技をしつつ、スレイ邸を見ながらここを去らねばならぬ哀愁のようなものを演じておこう。
「スコット様、洞穴に残っているメンバーをすべて集めました」
「では、行きましょう」
洞穴の中には中級魔族を筆頭に百名ほど集まっていた。
まだこれほどいたんだなと感心していたが、メンバーの顔触れを見る限り、ほぼ戦闘力のない裏方部隊だろう。
その証拠にここにいるのはレイスやゴブリンニンジャなど、主に戦闘ではなく裏工作や隠密で使われる魔族ばかりだった。
「皆さんに集まってもらったのは他でもないですねぇ。
ガリヤさんの魔力が感じられなくなっているのは皆さまお気づきのことと思いますねぇ」
「あぁ、それは皆勘づいている。王都では一体何があったんだ?」
「ガリヤさんはレイショと戦い、そして破れました。
死に体のところを聖属性魔法で貫かれ、体ごと消滅したので復活も難しいでしょう。
我々人間の軍も彼奴等の策にハマりほぼ壊滅状態です」
現状最強格のガリヤが戦死したことで、会場はざわめいている。
ゴブリンシャーマンが悲しげな眼をしながら、全員に向けてこれからのことを話し始める。
「ガリヤ様がいないとなれば我々は速やかに魔族領まで撤退する必要がある。
次の魔王候補様が力を付けるまでは魔族領で……」
「その必要はありませんねぇ」
魔族の集団の真ん中迄つかつか歩きながら、レイショのアルター・エゴは大きな声を張り上げて注目を集めた。
「皆さんはここで死ぬのですから」
「スコット様?何をおっしゃっているのですか?」
返答も聞かずに今までは省略していた詠唱を最初からフルで行いつつ、魔力を練り上げ。
「ホーリー・エクスプロージョン!」
「て、転移……」
ゴブリンシャーマンには逃げられたが、それ以外のモンスターは転移が使えなかったようで爆発に巻き込まれた。
半径百メートルほどを、聖属性をエンチャントした爆発で包み込み、敵だけでなく地形ごと破壊する。
レイショのアルター・エゴ自体も爆破に巻き込まれて破壊され、スレイ邸自体が大きく揺れるほどの衝撃が周囲を襲った。
ここにいた魔族はその多くが巻き込まれて消滅したか、大怪我で動けなくなって次第に衰弱して息絶えることだろう。
翌日、メーンイベントとなる最強決定戦が終わった王都では、損壊を
建物が破壊された市街地では、急ピッチでがれきの撤去作業が進められ、王都内にあった広場の各所にレイショの用意していた傘型テント二式が設置されていき、損壊した住居の住人たちはそこに収容された。
また、レイショ家メイド部隊による炊き出しなども行われていた。
「何だ?このスープ。初めて食うが肉の味が濃いぞ」
「塩も強めに効いていてうまい」
「レイショ領で売り出し中のベーコンのスープとハムのフライなんだ。
ここには証人もいるだろうし、気に入ったら今度買い付けに来てくれよ」
「ははっ、元勇者様は商売上手だのう」
「あと、これも試してみてくれ。ジャーキーという肉を魚のソースに付け込んでから干したものだ。
兵士向けの携行食だからちょっと味つけが濃い目だが旨いぞ。軽くあぶって食べるといい」
「ジャーキーねぇ……お、これは固いけどうまい。携行食だけじゃなく、酒のツマミや肉体労働の後によさそうだ」
こうして、自領の新商品を宣伝しながら炊き出しを行っていった。
テントも食料もテントに吊るした虫よけのポプリもそれなりに高評価だったし、臨時で作った学校で子供たちに教育セットも布教できた。
避難民だけでなく、ここに物資を運ぶ商人相手にも商品を宣伝できたから、色々と商品の発注も入ってきているらしい。
炊き出しのメンバーにいたムセイとトルテは二人で料理をしてさらに仲が深まっているらしい。
さて、とらえたラーギル達だが、拷問をしても何をしても首謀者の名前を吐かなかった。
中々の忠臣ぶりではある。だからこそこいつらが実行部隊に選ばれたのだろうな。
そのせいで、ハンギャック辺境伯、ハンゾウ公爵に至っては子飼い貴族の教育不足と言う形で、しばらく権限を制限するという処分で済んでしまった。
これから先もっと証拠を集めて秘密裏に失脚を狙うことになるだろう。
しかし、今回のゾンビ騎士にはホムンクルス技術は確実に使われていたため、その技術を唯一持っているホムンク=ワダ子爵は、「禁止されているホムンクルス技術の無断使用」という罪で投獄され、爵位と領地をはく奪された。
ホムンク=ワダ子爵の管理していたロゼッタストーンについては、以降は国の管理とし秘匿技術の研究を引き継ぐことになった。
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