第36話 王都決戦決着

「正しい手順で後継者になれず、奥義も完成させられなかったヴィゾン騎士爵。彼は不二流後継者として自分がふさわしくないと思い、自分の代で終わらせようとしたんだ」

「だが、レイショ。貴様を育てたと」

「あぁ、俺が勇者スキルを持っていたことと……俺がレイドの息子だったからだろう」


 そう……レイショはレイドが奴隷商人のキャラバンにいたころに、他の奴隷女性との間に設けた子供であった。

 レイドは各地を飛び回っていたため、ひと時のロマンスを共にした女性と離れ離れになってしまったが、借金奴隷を脱してから彼女を探し回っていた。

 だが、彼女は赤ん坊を生んだ後に亡くなってしまい、キャラバンの赤ちゃんに紛れたレイショは見つからなかったそうだ。


「ヴィゾン騎士爵が報奨金の多くを奴隷の少年を買うことに使ったのは、俺を探すためだったそうだ……」

「へぇ、レイショの出自とか初めて聞いたな」

「あいつ過去のことはあんまり話さないからね」

「それよりも呪力持たないんで早くしてください」


 韓信め……また早めに音を上げたのか。

 呪力が半分切るともうだめだ~とか言うんだよな、コイツ。


「まぁ、そういうわけで本来必要な二人の後継者候補がどの道足りなかった。

だから、ゾンビとして復活したついでに、キルデスも不二流の後継者として鍛えられたというわけだ」

「俺が不二流後継者に……」

「あぁ、八大奥義は見切るだけじゃなくて全部使えるだろ?」


 自分の動きを確かめるように、俺に向けて八大奥義をいくつか打ってきた。

 軽く流すためのものだからかあまり力は入っていなかったが、いくつかの奥義は完璧に使えていた。


「本当に使えるな」

「って、ことで今日の戦いは今日の戦いとして、二年後にまた新奥義を開発して戦わせよう」


 そういってキルデスの破砕・黒龍を跳ね上げると俺は距離を取った。


「他の戦場も決着が尽きそうだし、俺たちもそろそろ決着をつけるか」

「望むところだ」


 お互いがお互いの最大限の奥義を持って、一撃で勝負を決めることを選択する。

 奇しくもお互い上段に剣を構え、その状態で静止していた。


 俺の頬を伝う汗が地面に落ち、小さく音が鳴ったタイミングでレイショが突撃した。


「これでとどめだ!六の打ち「映し不二」」

「正面からくるとは笑止!くらえ国砕き!」


 キルデスの国砕きはレイショの頭を二つに割り、その背後にあった王城自体もその破壊的な衝撃波で打ち砕いた。

 これで決着かと思われたが、キルデスはあり得ない物を目撃した。


「──もう一人のレイショ」

「あいにくこっちが本体でね!」


 レイショの強力な一撃が、キルデスの左肩から右の腰へと斜めに走る。

 映し不二は強力な踏み込みによって高速移動をし、相手の目の前で一瞬止まって攻撃を誘ってもう一度再加速、後ろに回り込み一撃を加える緩急の付いた攻撃だ。

 攻撃を始めた相手は目に映った幻を斬り、本体に切られる騙しの奥義だ。

 次の瞬間にはキルデスは大量の血を吹き出し、膝をついてその場に倒れた。




「決着ぅーーーーーーー!勝者!レイショ・ドーレイン騎士爵!キルデス騎士爵は大量に血を噴いたまま動けません!」


 今回の建国祭のメーンイベントと言われたドーレイン騎士爵対キルデス騎士爵の試合は終わった。

 賭けはオーシス国王含むドーレイン派の勝利として会場は沸いた。


 ある者は大きな負けに泣き、ある者は降ってわいた大きな儲けに喚起し、ある者は借金を打ち消せると喜んだ。

 王国側のもうけとしても非常に大きく、国王のポケットマネー及び賭けの手数料だけでも城下町の建物をすべて作り直しても足りるほどの大きな儲けを手に入れた。



 それと同時に、キルデスが敗れたことを王国中に喧伝することで、謀反陣営の士気をそぐことにした。


「決着ぅーーーーーーー!勝者!レイショ・ドーレイン騎士爵!」


 王都の下町に追い込まれた謀反軍は、その知らせを聞いて背走を始める者、自棄を起こして命知らずな反攻に出る者、その場で震えて命乞いをするものなどに別れて混迷を極めていた。


「撤退~撤退~」

「バカ野郎転移術者はもういないんだぞ。どうやって逃げるんだよ」

「死にたくない死にたくない死にたくない……」


 首謀者の貴族たちももはや指揮どころではなかった。

 いかに敗残処理をするか、それだけに意識が向き始めていた。


「逆賊キキョウ男爵以下、首謀者一行!大人しく縛につけば命までは取らない!投降しろ!」

「ここまでのようですねぇ……」

「あぁ、だが捕まってしまうわけにはいくまい」


 キキョウ男爵やラーギル騎士爵らは、懐から何らかの薬とをりだして飲みこんだ。


「ただでは捕まりませんねぇ……グフッ」

「これで秘密は守られ……る」

「い、いかん。自決の薬だ!衛生班!早くこっちへ」


 しかし、ラーギルらは不敵に笑う。

「もう遅いですねぇ!」

「はーはっは、国崩しは失敗したが我々の秘密は誰にも……」


「セイクリッドプリズン!」


 空からレイショのアルターエゴが降ってきた。

 落ちると同時にセイクリッドプリズンを展開し、自決の阻止と拘束を同時に行う。


「間に合ったようだな。これで事件の真犯人を明らかにできる」

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