第35話 不二流という流派

 王城前広場のレイショとキルデスは……。


「ゲン!魔法来るぞ!セイ、ゲン!前へ!」

「おっと、速度は出ているけどまだまだ軽いな。

そんなんじゃ四人合わせても王都騎士団の中隊くらいしか倒せないぞ」

「そのレベルの攻撃を耐えているお前らが異常なんだよ」


「アースランス!」

「なんの!アローレイン・ダイン!」


 それぞれの大技が衝突するもなかなか決着がつかない。

 それもそのはず、韓信がセイクリッドプリズンの元となった呪法「領域内不死」という技を発動しているからだ。


「ふぅ……この人達は数何回死んだ判定なんですかねえ。

あれだけあった呪力がゴリゴリ削られていくんですけど」

「もう少し耐えてくれ、そろそろ人数減るから」


 ここに移動してから俺とスレイで前衛三人を押さえつつ、魔導士のドロシーの魔法攻撃、ケミーの錬金術によって作られた薬品で四天王の動きを鈍らせていく。


 これで約一時間ノンストップで斬り合って、シュー以外の四天王の動きが鈍ってきている。

 キルデスは四天王を信頼しすぎているのか、まだ動かない。


「そろそろ、お前らも疲れて来たんじゃないか?」

「ほざけ……たかだか一時間ノンストップ位……」

「息も絶え絶えじゃないか。パラライズ!」


 パラライズで麻痺をさせて、キルデスの前衛三人を拘束した。

 中級スキルだから、体力が回復する間の一時間くらいは動けなくなるはずだ。

 それと同時にスレイが踏み込み、大弓から放たれた屋を斧で防いでシューを体術で拘束する。

 これで敵のメンバーはキルデスだけになった。


「四天王が敗れたか……」

「あとはお前だけだぞキルデス」

「では死合うとするか」


 レイショとキルデスがお互いの剣を抜いて構えを取る。

 レイショの仲間は何かを察したのか、韓信以外は舞台を降りた。

 呪法「領域内不死」を展開している韓信は体力回復用の丸薬を飲んで呪法をかけ直す。


「すまないがみんな手出し無用だ。

四天王を拘束したまま下がってくれ」

「あいよ。楽しそうなことは取られたくないのは変わってないんだな」

「言うな、俺が子供みたいに聞こえるだろう」

「大人になったつもりかよ、まだ中身が子供じゃないか。

なぁ、レイショ」


 こいつら人の秘密を大声で……。

 全員が退避できた状態を確認してから、フーっと深く息を吐いてから剣を握り直し、二の打ち「赤不二」で切り込んでいく。


「赤不二から入るのは師匠と同じだな。

だがこれはもう見切ってある」


 それからキルデス相手に一の打ちから五の打ちを繰り出すもいずれも防がれてしまう。

 それどころか、隙を見て反撃されているものが不二流の防御術の流し術でも防ぎきれず、レイショは次第に手傷を負いはじめた。


 その証拠に、会場にはキンッキンッと甲高い金属の音が響きはじめている。

 神剣・音無で切り終わらなかった斬撃音や、防げずに鎧などに当たった攻撃が増えてきたということだ。


「どうした、魔王討伐の実力はその程度か」

「あいにく、魔王とも引き分けした程度でねぇ。

その時でもさっきの四天王みたいに奇策で隙を作って封印したに過ぎないのさ」

「では、お前に勝てば魔王を超えたことになるな!そこだ、城塞砕き!」

「なんの!四の流し「不二山」!」


 城塞砕きを完全に受けきると、キルデスがいったん引いて体勢を立て直そうとしてくる。


「四の流しだと……俺は知らんぞ、そんな技」

「あぁ、知らないのも当然だろうな。

これはヴィゾン騎士爵が死後に完成させた技だ」

「はぁ……はぁ……死後に完成させただと?戯言を」

「戯言ではないさ」


 久々にかいた額の脂汗をハンカチで拭ってから、疑問に思っているキルデスに答えた。


「お前との修行の中で完成させたんだろう。

二子相伝の不二流の新技を──そして真の後継者となったのさ」

「なに?二子相伝?一子相伝ではないのか?」

「あぁ、一子相伝と思われているが、そうではない不二流というのは若干複雑な剣術でね」



 ──

 ────

「ヴィゾン!どちらが後継者にふさわしいか決める日だな」

「あぁ、未完成とは言え新技を編み出してきた。

レイド、お前に今日ここで完全体の技を見せてやろう」

「それは楽しみだ。じゃあ行くぞ、ヴィゾン。

手加減はするけど死ぬなよ。仮・六の打ち」

「仮・四の流し」


 二人の不二流後継者候補は、免許皆伝の後二年の武者修行を終わらせてお互いの技量を比べ合っていた。

 不二流は二という数字にまつわる規律が多い剣術で、二人の候補者が二年の修業ののち、修行で生み出した技と技量を比べてより強かったほうだけが、不二流の後継者を名乗れるのだ。


「そこまで、技量ではやはりレイドが上だ。

十代目不二流を名乗るがよい」

「はい、謹んでお受けいたします」


 ここで後継者に選ばれたのは、レイドであった。

 ヴィゾンは四の流しを完成できていれば結果は違ったかもしれないが、この段階で六の打ちをほぼ完成させていたレイドに勝つことはできなかった。


 その後、レイドはとある事情により借金奴隷に身を落とし、各地で戦闘職として名を上げることになった。

 魔王軍との戦いが激化していくうちに、二人は再び戦場で出会い、オーシス王国の剣レイドとオーシス王国の盾ヴィゾンの名声は王国中に轟くことになった。


 レイドがガリヤに殺され、不二流の後継者がヴィゾンに移ったころから、彼は若干変わったようだとも言われている。

 騎士爵位を得るために、我武者羅に敵を倒し、得た報奨金で奴隷の男の子を買い集めたとか。


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