第34話 王都外乱闘2

「ゴッハアアアアアア」

「どうした、ガリヤ。威勢がいいのは口だけか?」

「てめぇ、さっきまで封印されてたくせになんで前より強いんだよ」

「貴様が弱いだけだ。ガリヤ」


 ポッド対ガリヤは終始ポッド優勢のまま戦いが進められた。

 いくら強化したとはいえ、数ヶ月前までは魔王軍第八位のガリヤが、現役魔王に優位に立てるはずはなかったのだ。


「アンブローシアの過剰摂取で魔力とキンニクだけブクブクと肉肥りしおって!

スピードも柔軟性もないただの筋肉ダルマがワシに敵うと思うてか!

最後に手合わせした一年前よりも弱いではないか!」

「うるせぇ!一発でも当てれば俺の勝ちなんだよ!

ちょこまか逃げるな!正々堂々戦え!」

「五月蝿いわこのタワケ!」


 ポッドは目にも留まらぬ速さの踏み込みで鳩尾に一撃を加える。

 苦悶に歪むガリヤは、殴られた勢いのまま距離を取った。


 息も絶え絶えなガリヤは頭に血が上り血管が浮き出ている状態になる。

 懐にあった残りのアンブローシアを無茶苦茶にかじり、その体内に取り込み始めた。


「ふぅ……魔力全開だああああああこれでお前に勝てるぜ!消えろおおおお」


 今まで肉弾戦メインだったガリヤが掌に魔力を集中させ始める。

 これは闇属性の魔法の中でも威力が高いあの技ではないか


「オーバーロードダークネス」


 レイショは魔王討伐戦でポッドが放つオーバーロードダークネスをまともに食らったことがある。

 韓信の防御魔法がなければ命が危ないほどの重症を負った技だ。

 魔王としての力を取り戻したポッドとて、まともの防御せず直撃すればただではすまないだろう。

 ガリヤの体よりも太い黒い光線がポッドに向かって放たれた。

 後方には東出入り口の門があり、直撃すれば多くの命が失われる。

 ポッドに避けることはできなかった。


「ポッド!」


 ポッドはオーバーロードダークネスを避けることもなく、右手をかざして魔力を全開にする。


「アイギス!」


 聖属性最強の防御魔法で打ち消した。

 本来であればカウンターで聖属性魔法が発動するのだが、今回はそれを出すことはなく盾が霧散する。


「あぁ?なんで魔族の王が聖属性魔法なんか使ってんだよ」

「隠し玉というのは最後の最後まで隠して置くのが常道じゃろうが」

「だからって、普通そんな技は習得できねぇだろうて」


 そしてガリヤの後ろに短距離転移してからとどめの一撃を放とうと魔力を練る。


「トール……ハンマー」

「聖属性の打撃魔法か……や、やめろおおおおおおお」


 トールハンマー……ミョルニルともいうが、こちらも聖属性の特大魔法の一つだ。

 物理的なダメージも与えられる魔法を使って地面にガリヤをたたきつけ、力を制御する機関である角をへし折る。

 範囲攻撃だから余波で他の魔族も消し飛ぶがお構いなしの最高出力だ。


「ばかな……」

「バカはお前じゃ……我が兄よ」

「だまれ……俺はお前を……妹とは認めな……」


 ガリヤは動かなくなったがまだ生きているようだ。

 空中から降りてきたポッドに向かってガリヤの処遇を確認する。


「ガリヤはどうする?」

「こんな物でも我が兄じゃ……この手で殺すのはちょっとな」

「だろうな。封印でもするか?」

「いや、お前の手で終わらせてやってくれ」

「心得た。『グングニール』」


 グングニールは、トールハンマーと同じ聖属性魔法最強格の一つだが、こちらは一点突破で威力を上げている技だ。

 一突きすると光に包まれた部分からガリヤの体が消滅をしていく。

 今度こそ、ガリヤの体は消えてなくなった。


「ありがとう。ちょっと疲れた。ワシは寝るから背中を貸せ」

「あぁ、分かった」


 ここは俺たちが暴れたおかげでほとんど魔族がいなくなっているから、あとはその場にいる騎士たちに任せてポッドを自分の屋敷に取れ返って寝かせておいた。


「すまぬな……レイショ。ちょっと休んだら避難所の作業に行くよ」

「あぁ、まだまだゆっくりしておいていいぞ。俺の本体はまだキルデスを倒していないみたいだからな」

「ありがとう……よければ何か飲み物を頼めるか」

「わかった、お湯を沸かすから十分くらいかかるぞ」

「それでよい」


 レイショが寝所から撤退した後、ポッドはまくらに頭を埋めて声を殺して泣いているのだろうか……。

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