第33話 王都外乱闘1

 城壁外を走り回りながら通信を受け取ったポッドは、レイショから許されている能力の制限解除を行っていた。

「東か!十五分だけ本気を出してもいいと言われているからな!やるか!」


 ヘッドドレスを外して、ポケットに仕舞っていた特性のアンブローシアを齧る。

 これはレイショの魔力を込めた特別製で、封印されているポッドの魔力の封印介助を行わずとも、封印前と同じ出力で戦闘とスキルの行使ができるという特別製だ。

 齧ってすぐにポッドの体が少し大きくなり始める。

 普段はスカーフなどで隠している首元や手首足首に赤い鱗が広がっていく。

 それと同時に背中の羽根と尻尾が生えてきたのだ。


 ドラゴニュート、それが当代魔王の真の姿であった。

 身長が少し伸びたおかげで、ロングスカートだったものが、膝丈のメイド服に変わってしまう。


「これでは不格好じゃな……」

 指をパチンとならすと、先ほどまでのメイド服から深紅のドレスに着替えが完了する。

 これが魔王討伐隊と序列一桁の魔族だけが見たことのある、プリンセス・オブ・ダークネスの完全体の御姿であった。


「待っておれよ。ガリヤ」



 各地の戦場の対戦カードが決まったそのタイミング──地下では。

「さぁさぁ、賭けの締め切りまであと五分皆様はどちらの陣営に賭けますか?

ちなみに、ただ今のオッズは……ジャカジャカジャカジャカジャン!

レイショ四六対キルデス五四!

おぉ、キルデス騎士爵の方が面識のある貴族様が多いだけあってか、こちらに賭ける方が多いですねぇ。

あっ!もしかして、王様が大きく賭けてるから、キルデス騎士爵が勝った時にリターンが大きそうだからですか?

そういう理由で賭けてもらっても、もちろんオッケーでーす!」



 暫定ではあるが、ここまでで合計金貨一万と五千枚ほどがベットされている。

 そして掛け率は半々だが、胴元がきちんと手数料として四千枚強の金貨を取るため、最終的な還元率だいたい一.五倍に程度だ。

 ここまで来た時点でこの場でのイベントの成功はほぼ確定した。


「はーい、それではこれで締め切りとさせていただきまーす。

なんとぉ!?最終オッズは五十対五十!総金貨の枚数は一万と六千枚です!

どっちが勝ってもかなり多くのリターンがあります、勝てれば大儲け確定!

これは熱くなってきたあああああ!

それでは、遠見の魔法をレイショVSキルデスの会場に移しましょう!」



 王都中の注目が王城にいるレイショ達に向かっているその裏で。


 ガリヤたちのいる東門以外は、レイショのアルター・エゴがゾンビ騎士二体を抑えつつ、残りの騎士で中級以上の魔物を押しとどめていた。


 だが、東門では──

「くっ……ゾンビ騎士二体だけでも手一杯なのに、よりによってヴィゾン騎士爵……師匠とガリヤとはやりにくい」

「だろうなぁ!お前が一番やりにくいと思って、この人選を行ったのは俺だからなぁ!」


 裏でそんなことしていたのかコイツ……。脳筋だと思ったが割と頭を使うじゃないか。


「ガリヤ……お前実は知能がそこそこあったんだな」

「あぁ?舐めんじゃねぇよ!俺は頭の先から足の先まで筋肉が詰まっている!全身でものを考えるインテリジェンスマッスルだ!」

「脳みそ迄筋肉ってのは普通は悪口なんだぞ?」

「んだとゴルァ!うるせえよレイショ!

この新魔王様の新技……ジャージンコンビネーションで消し飛べ!」


 そういってガリヤが技の仕掛けである右ストレートを俺に向けてきたその時、空から赤い流星が落ちてきた。


「調子に乗るなよ。ガリヤ……新魔王だと?笑わせてくれる」

「誰だあああ!なんだてめぇは!死にてえなら相手してやるよ」


 巻きあがっていた砂埃がはがれ、その者の正体が現れた。


「余の顔、見忘れたか?ガリヤ」

「き、貴様は」

「プリンセス・オブ・ダークネス!

業腹じゃが、そこのレイショに一時封印を解かれた現魔王よ!」

「ハッハー!レイショごときにやられた元魔王様じゃねぇか!

その程度の腕で俺に勝てると思ってんのか?」

「無駄口はよい……来い」

「予定とは違うが、ここで俺が魔王にふさわしいと証明してやらぁ!」


 ガリヤとポッドはそのまま空に浮かんで格闘戦を始めたので、俺は目の前に居るゾンビ騎士に正対した。

 ヴィゾン騎士爵ゾンビは剣を抜こうともせずに後方で眺めているだけだったが、もう一人は勢い良く切りかかってきた。

 過去の英傑とは言え、ヴィゾン騎士爵やポッドに比べると見劣りがするレベルだ。

 だが、キルデス四天王レベルとは互角の勝負ができるほどの腕はあるので、複数体で来られると厄介なことに変わりはない。


 しばらく斬り合っていたが、ヴィゾン騎士爵が動かないのが本当にありがたい。

 五分ほど斬り合って、こちらのゾンビ騎士とはあっさりと決着がついた。

 いかにゾンビと言えど、首と体を切り離して動けなくしてから聖属性魔法を当てれば動かなくなる。あとは埋葬するだけだ。


「さて、お仲間がやられましたよ。ヴィゾン騎士爵?」

「仲間ではないさ……お前の仕上がりを見るのに彼奴が邪魔だっただけのこと」

「お師匠ならそういわれると思いましたよ」

「では試合うとするか」


 おっとその前に……。一つ渡し忘れていたな。


「では、この剣をお返ししますよ」

「我が愛剣の神剣・零度ではないか」

「えぇ、バーグよりこっちの方がいいでしょう?」

「あぁ、これを手にしたからには……一切の手加減は無しだ……」

「当たり前ですよ!師匠!」


 レイショは斜め下から顔面に向かって切り上げてから剣を返し、逆側に切り下げる、不二流・二の打ち「赤不二」を繰り出すも、ヴィゾンはそれをやすやすといなしていく。

 それから続けざまに、一の打ち「逆さ不二」、三の打ち「金剛不二」、四の打ち「裏不二」、五の打ち「黒不二」を繰り出すも、そのすべてをいなされた。


「ふむ、技の切れ味、太刀筋どれをとっても全盛期の俺と遜色はないな。

だが、ゾンビ化してから鍛えたキルデスとか言う男と互角程度ではないか?」

「お師匠とキルデスが特訓していたんですね。いいなぁ、キルデス。

修行中はどんな様子でした」

「奴は素直に強さだけを求めておったよ。

必死の形相ではあったが、久々に人を鍛えたのは楽しかったぞ。

キルデス本人は国崩しなど興味がないのではないか?」

「そうですか、やっぱりそう思いますか。

さて、そろそろウォーミングアップは終わりました。

最後は私が開発した不二流・六の打ちの完成度を見ていただけますか」

「よかろう……」


 そこで俺は息を整え……ヴィゾン騎士爵に正対し直す。

 不二流では、お互いの距離は仕切り直すたびにきっちり二メートルとってから踏み込むことになっている。


「では行きますよ!」

「よかろう、俺も未完成であった、四の流しを試してみたかったところだ」

「生前に練習してたけど教えてくれなかった奴ですね?

見て盗みますね。いいですか?いや、いいですよね。

弟子ですもんね、いやぁ楽しみだなぁ」

「本当に変わっておらんな……行くぞ!」


 お互いの新技が交錯する。

 四の流しの効果で、完璧には決まらなかったが、ヴィゾン騎士爵の左腕を切り飛ばすことには成功した。

 ついでに巻き込みで上級魔族が二十体ほど消えたが、それはただの余波だ。


「うむ、いい技だ。俺の四の流しで少しは弾けたが、完全にいなすことはできなかった」

「ありがとうございます。それでは、改めてここと安らかにお眠りください」

「うむ、頼む……」


 各地にいたゾンビ騎士たちはこれにて完全封印された。

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