第31話 開戦
もう式典が始まる……王城前の演説台に歩を進め、王の到着を待つことにした。
貴賓席には各地の貴族が序列順に座り、その後ろに王都騎士団の精鋭、一般参賀と言った感じで人がチリビーンズのようにひしめき合っていた。
これだけ距離があれば、弓でも魔法でも届かないし万が一届いても叩き落せる。
「諸外国の来賓の方々、国民の諸兄!長きにわたる魔王軍との戦いの末にここで相まみえたこと、誠に喜ばしく思う。
さて、これよりマスマリワ・オーシスの名のもとに、オーシス王国建国祭を執り行うこととする。
まだ、魔王軍との戦いの傷が完全に癒えたわけではないが、取り敢えずの平和を楽しんでほしいと思う。
この祭りは功労者たるオーシス王国民並びに、共に戦ってくれた諸外国の民の慰労とともに、平和的な外交を執り行うための第一歩として……」
相変わらず話が長いが、これは様式美のようなもの。
演説は、いかに長回しでそれっぽいことを言えるかの建前を問われるものであり、きちんと王が健在で気丈であることを示せればそれでいいのだ。
王の演説を聞きながら、通信の指輪で各地の状況を聞いているが、今のところ警備上の問題もないのは幸いだな……。
「あーあー、レイショよ聞こえるか」
おっと、ポッドからの連絡だ。
聞こえていることを返すために、指輪を二回叩く。
「おぉ、すまんすまん。声が出せんかったのか。
いま王都外周を一周回りつつサーチをばらまいてみたんじゃが、今のところ魔族もガリヤも近場にはおらんようじゃ。散発的に居るのは地の物じゃと思うぞ」
もう一度指輪を二回叩き、数秒置いて三回叩く。
『了解。通信終わり』
そろそろ王の演説が終わるころだ──。
「それでは皆々様、心行くまで平和の祭典をお楽しみくださ……」
開幕の音頭が終わると同時に、四方の門から火の手が上がった。
「始まったか……」
王城に集まった人々は突然の爆音に困惑の声を上げた。
「なにが起こっている!」
「爆発音がしたぞ……」
「ママ、また戦争なの……」
そこで、事前の打ち合わせ通り俺が覚醒の魔法を使い王の言葉を城下町に伝える。
「さて、建国祭の一番の見世物として、我が国の最高戦力同士の模擬戦をご用意した。
地上に非戦闘員がいてはでは十全に戦えぬとのことで、地下の避難所に特設会場を用意しておるゆえ、皆々様は誘導に従って観戦室に移動をお願いする」
影武者を使えないと分かった時に決めた、俺たちの作戦だった。
王都を外から攻めてくるのは、事前にわかっていたので、それが陽動であることも計算済みだ。
兵を城壁に集めて王都内を手薄にしてから、転移などで王城を直接叩く陽動の可能性がある。
種々様々な可能性を吟味して、取った作戦が戦争のエンターテインメント化である。
隣国の使者などを監視しつつ、関係のないゲストへの被害を無効化するにはこれしかなかった。
ちなみに、エンタメ感の演出と非難の時間を稼ぐために、セイクリッドプリズンで各地の城門を覆い、非難が完了するまでは死者を出ないようにしているのが今のアルター・エゴの役割だ。
諸外国の要人が来ているさなかに内乱発生というのは外聞が悪すぎる。
国の安定性並びに国王の統治に問題があるとみなされ、諸外国から舐められる原因にもなるのだ。
だが、王都自体を舞台とした御前試合という事であれば格好は付くはずだ。
避難誘導開始から約一時間、要人の非難が完了し地下の避難施設でトルメが解説を始めた。
トルメの立つステージ上には、遠見の魔法が設置されており、会場のどこからでも王都の数カ所に設置された遠見の魔法の映像を見ることができるようになっている。
これらの魔法は数カ所にある庶民向けシェルターにも設置した。
トルメの今日の服装はうさぎのような耳飾り、足と背中を大胆に露出するコルセットのような布に、自作のミニスカートを合わせ、ガーゼ作成の際に作った若干肌の透けるストッキングを着用している。
トルメいわく、バニーガールらしいが、お前は今は男じゃないか……。
「はーい、皆様これからは戦況解説のドーレイン家メイド長名代のトルメにて仕切らせていただきたいと思います。
本日の対戦カードは『魔王を封印した当代の勇者レイショ・ドーレイン』対、戦場を共に駆けた人もいるでしょう『城塞砕きのヒトメッチャ・キルデス』の対戦です!
わー、ぱちぱちー。
過去に直接対決がほとんどない二人、どっちが強いのかは皆さん気になっていたところでしょう。
この度はなんと!なななんと!
オーシス国王、マスマリワ・オーシス陛下の発案により、戦火で傷んだ王都城下町を一回破壊して新しく建て直すために、いったん更地に居たいとの申し出がありまして、どうせ壊すならと最高戦力同士の対戦をマッチメイクするという特大のエンターテインメントをご提供いただきました!
はい、はくしゅ~ぱちぱちー」
何も知らない貴族たちからは歓喜の声が上がる。
つまらない式典に来たと思えば王都自体を破壊から復興するという、特大級のイベントに鉢合わせたのだから無理もないだろう。
「さらに今回は、後ほどどちらが勝つかを賭けていただけるように、ドーレイン騎士爵家のメイド達がお席にお回りして投票券をお売りしますね。
どちらか一方しか買うことはできませんので、賭ける側が決まったらお近くの赤いスカーフをしたメイドにお声をおかけください
時間いっぱいまでは買い増しも可能です」
この賭けに使われた鐘の多くは復興のために大いに役立たせる予定だ。
無論勝った人たちへの払い戻しもあるが、掛け金が大きくなれば手数料だけでもかなりの収益になる予定なのだ。
「はい、では皆様がどちらに賭けるかを決めている間に、まずはオーシス国王マスマリワ・オーシス陛下の賭け先と金額の発表です」
「改めて皆さま、我が建国祭のメーンイベントにご足労痛み入る。
さて、式典も二回目であるし賭けについても考えたい事であろうから、長々しい演説は省かせていただく。
早々に発表するぞ。ワシはポケットマネーより、レイショ・ドーレインの勝利にオーシス金貨五百枚を賭ける」
上級貴族のタウンハウスがキャッシュで買えるレベルの破格の賭け金に会場からはざわめきにも似たお声が漏れている。
「さらに、マッチメイカー……主催者のあるオーシス王国から金貨二千五百枚が勝者側の払い戻しに上乗せされる。
ドーレイン騎士爵があっても、キルデス騎士爵が勝ってもどちらでも上乗せされる。
少額でも賭ければかなりの儲けになる可能性のある試合となるだろう。
なお、ドーレインとキルデスは数か月前の御前試合にて実力が拮抗しており、かなりギリギリの勝利をドーレインが収めており。
しかし、それは制約のある戦いでの話。
ルール無用の対戦ではどちらが勝かワシでも読めぬ。これは完全に魔王討伐の名声への期待を込めた投票だ」
追加の発表で会場はヒートアップした。
掛け金次第ではあるが、既に金貨三千枚の大勝負が確定している。
しかもうち二千五百枚は勝った陣営で山分けなのだから、オーシス国王が大きく賭けているレイショ陣営に別途いても損はしないし、勝てればある程度払い戻されることが確定したのだ。
「ささ、皆々様、本日は祭りだ。ご自由に賭けてくだされ。
最終締め切りの一時間後までに賭ければ面白いものが見られるであろう」
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