第30話 ~建国祭開幕

 謀反陣営にも当日の警備計画が渡され、各々頭を抱えていた。


「街道警備だと……」

「王都から辺境までの道を等間隔で警備して、モンスターの脅威を排除せよ」

「これでは騎士団を主戦力として生かすのは困難かもしれませんな」


 街道警備で超長距離に渡って警備する必要があり、全軍を持って王都を攻めることが難しくなった。

 国境線から王都までは頑張っても十日ほどかかる。

 早馬であっても一日かけて数十キロしか走れないため、馬を変えながら不眠不休で走ったとしても到底王都攻めに間に合うとは思えないのだ。

 レイショのように転移でもあれば話は変わるが、全軍を移動できるような魔術の行使はレイショですら難しい。

 転移の魔道具もあるが使い捨てかつ、高価な関係で用意すれば足がつくし、今からでは十分な量の確保も難しいのだ。

 王国広しと言えど、貴族騎士団レベルの転移を行使できるのは王国魔術師団長ただ一人であろう。


「そうなると王都を攻めるのは一部の軍とモンスター軍団がメインと言うことになりましょうか」

「可能な限り招集はしますが、そうせざるを得ないでしょうな」


 作戦の修正を余儀なくされた作戦指令室に、いやらし笑い声がこだました。


「カカカ……。そんなに悩むことはないんじゃねえか?」

「ガリヤさんですかな……。悩む必要は無いとはいったい?」


 新魔王と名乗っているガリヤは、アンブローシアと呼ばれる果実を食べながら人間たちをあざ笑う。

 それもそのはず、この場でガリヤを倒せる者スコットに化けている俺以外は居ない。

 キルデス卿がいれば違ったかもしれないが、反発した瞬間に全員死ぬであろう圧倒的な差があるのだ。


「お前らの中に転移使いが一人くらいいるだろう?そいつにレイスを憑依させる」

「しかし、それで上がる能力はせいぜい一段階では」

「あぁ?誰が一体っつったよ?スキルがカンストするまで十体でも百体でも憑依させりゃいいんだよ」

「それでは貴重な転移使いが耐えられずに死んでしまいます」

「ペッ」


 食べ終わったアンブローシアの種を吐き捨てながら、ガリヤは机をたたきながら恫喝した。


「お前らそれでも国盗りやってんのか?

死んでしまいますじゃねぇ、死んでも作戦を成功させるんだよ!

一回持てば十分だ!あとは分捕った王国魔術師団からでも補充すればいいんだよ」

「しかし」

「しかしもお菓子もねぇよ。

死ぬ覚悟もねぇのに相手をぶちのめしてぇのはムシがよすぎらぁ!

やるなら命を賭けろ!いいな!」


 それだけ言うとガリヤは窓から飛んでいってしまった。

 実際、ガリヤの言うことは理にかなっていた。

 転移には二種類あり、転移使いがマーカーに飛んでいく方法が一つ、マーカーを付けた相手を転移使いの元に召喚するのが一つだ。


 一回の転移で命を使い切る代わりに全軍を万全の状態で前線に送れるというのは、城攻めにおいてはかなりのアドバンテージとなると思えるが……。


「失敗した時のことは考える必要もないな。成功させるためには戦力の減少は避けねばならん」

「ああ、幸いキルデス卿は王都周辺に元々配置される。

ガリヤも王都付近に潜伏することだろう。転移させるのは我々の軍だけでいいのだ」

「あぁ、もうあの糞野郎のせいで作戦も一から練り直しですかねぇ……。

さてさて、どうすればいいですかな」

「最早、往生を直接攻める手もありますが……」

 それに対応する策も用意させないとな。死ぬなよムセイ。

 各々の思惑を胸に、建国祭はあと数日のところまで迫っていた。



 建国祭当日

 数日前から続々と国内外の貴族が到着している関係で厳戒態勢ではあったが、久々のお祭りと言うことで王都は大賑わいであった。


「これでは何が潜んでいてもわからないな」

「あぁ、だから王国自慢のサーチ魔法使いたちが定期的に全域に怪しい魔力がないかサーチを行っているのさ」

「それでも漏れやすい入り組んだ場所は、俺達が徒歩で巡回ってことだろ」


 王都内はそういった配置にして、基本は目視で巡回しつつ、怪しい魔力が無いかを不定期にサーチして警戒することでいろんな事件を事前に察知できるようにした。

 別途、王都に入る際に城壁の門でサーチを実施し不審者の侵入事態を防いでいる。


 さて、王城で警備に当たっている俺はというと……。


「どうしても影武者は無理ですか」

「レイショ……。

我が王の身を案じておるのは理解いたします。

しかし、諸外国の重要貴族も来る式典で影武者を使うことは外交問題になるのです」

「それは理解しているつもりです。

しかしながら」

「しかしではありません。

これは決定事項なのです。」

「承知いたしました。宰相殿」

「式典は予定通り行う。

確実に我が王を暗殺から守り切るように」

「御意に」

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