第29話 それぞれの思惑

「キルデス将軍、またヴィゾン・ゾンビを壊したのですか?」

「あぁ、今回も死闘であったが俺が勝った」

「これで上限まで強化したヴィゾン相手に六十戦三十五勝……もうこれはヴィゾンを超えたと言っても過言ではありますない」


 この数か月キルデスはひたすらヴィゾン・ゾンビと戦いを繰り広げていたのだ。

 負けたら己の太刀筋を修正し、勝てば強化したヴィゾンを作り、さらに強度の高いトレーニングをする。

 この日遂にキルデスの目指していたヴィゾン騎士爵越えを果たしたのだった。


「不二流の型と八大奥義はすべて見切ったと言って良いだろう……あとは、これがレイショに通じるかだな」

「おそらく大丈夫でしょう……レイショはここ数ヶ月まともに実戦はしておりませんから、手練れと剣を交えて鍛えたキルデス将軍にはかないますまい」


 キルデスが斬りあったヴィゾン騎士爵は、約五十年に及ぶ生涯を辺境警備と対魔王軍の闘争に明け暮れた手練れの剣士である。

 相棒とともに戦場を駆け抜け、晩年にはオーシス王国の盾と呼ばれた大人物である。


「キルデス様も仕上がったことですし、そろそろ戦術の打ち合わせと行きましょう。王都襲撃まであと二週間と言ったところです」

「そんなに経っていたか……ふむ」


 キルデスは目を閉じて耳を澄ます。四天王や部下の兵士たちの筋肉がとても仕上がっているいい音がする。

 剣の振りも鋭くて無駄な力を使わずとも、演習用の的をサクサクと切り裂いていた。


「部下たちも十全に仕上がっておるようだ。これなら後れを取ることもあるまい」

「それはようございました。

では、東西南北いずれの出入り口を攻めるか決めてくだされ」


 キルデスはマジックバッグから一振りの剣を取り出し、地面に突き刺した後に破砕・黒龍を構えると一呼吸おいてから城塞砕きを叩きこんだ。


 金属が砕け散り、バラバラと地面に破片が転がる。

 それを見てからキルデスはこう答えた。


「破片が一番多い場所……俺は北西に位置する」

「北西ですか……確か他より僅かに彫りが狭いところですな。

して、どの跳ね橋を使うので?」

「跳ね橋は攻めぬ。跳ね橋をおとりとして、掘りを渡り王城に近い塀を城塞砕きで破壊する。その後、最短距離で王城を攻め落とす」


 通常であれば堀に橋をかけても渡りきる前に、城壁を破壊する前に叩き壊されるだろう。

 しかし、この男たちキルデス騎士団であればどうか……。

 シュー様の超遠距離アローレインで城壁の兵を一掃、ゲン様の大盾で敵の矢を防ぎ、ハク様とセイ様で迫りくる援軍を切り伏せる。

 それらで隙を作らせてからまた一段と強くなった城塞砕き……いやもう城壁砕き……国砕きと言っても過言ではない最強の一撃を叩きこむことで最速で壁を破壊。

 キルデスさえ壁についてしまえば五秒とかからず壁に穴が空きましょう……。

 あとは混乱に乗じて王城の門すら破壊し、気圧された王国軍を蹴散らして全軍を持って突っ込む。

 荒削りだができなくはない。

 そう判断したゴブリンシャーマンはそれをハンゾウ公爵に伝え作戦の修正案をまとめる作業に移ったのだ。



 時を同じくして、ムセイとレイショそれとトルメは王城の政務官執務室で建国祭の警備プランを練るという作業を行っていた。


「レイショお前はどう見る?一応今回の警備をしやすくするために、謀反と関係ないお前が鍛えた騎士団たちを城下町に配置することにしたんだが」

「一先ずはそれでいいと思う、それぞれの領地に近い城門を守らせれば大きな問題もないだろう」

「で、ここからがお前の案だが……なんで謀反に関わっていそうな騎士団を王国の街道警備に当たらせるんだ?」


 俺のプランは謀反に関わっているキルデス含む騎士団たちを、敢えて警備に当たらせることで相手の用意したプランを破壊することにした。

 謀反を起こすまではあくまで王国の臣下として振る舞うだろうし、騎士団単位の転移ができる術者は多くない。

 仮に転移を成功させたとしても、攻撃に使える魔術師を相当数無力化できると考えてのこの配置だ。

 相手が誘い出してくるのは分かっているのだから、こちらは橋の上でひたすら耐えて近寄らせなければ勝てる。

 と言うのが表向きのプランだ。実際は避難が完了したら一箇所ずつ敵を誘い込み城下町にいる兵と囲んで各個叩く予定だ。


「キルデスはなんで北西に置くんだ?

確かに跳ね橋から攻められると厄介なのはあいつだから、一番跳ね橋から遠いこの配置にするのはわからんでもないが……万が一でも最短距離で城壁をぶち破られたら王城まですぐだぞ」

「まあ、あのあたりは遠見のできるものを多めに配置するし、俺も王城で警備しているから何かあったら通信の魔道具で連絡をくれれば飛んでいくさ」

「はい、それに我々レイショ家のメイド隊も居りますのでバックアップはお任せください」


 メイド隊には武器や薬の補給や傷病者の手当てなどを頼んでいる。

 また、王国の地下には下水道のほかにシェルターが作られており、有事の際には非戦闘員を収容することになっているので、メイドたちにはそこの管理と避難誘導を頼んだ。

 また、秘密裏に王様も避難してもらって、トルメが変身で王様の代理として式典に出てもらうという提案もしている。


「問題は実際の警備プランじゃないんだよ。

攪乱のために謀反陣営に伝える内容と、本来の警備内容を変えなければならない。

その上、実力が拮抗か圧倒できるように騎士団の練度と数を調整することなんだ」

「ハンゾウ公爵たちも戦力を増やしているだろうからな。

どの程度強くなっているかが全く読めん」

「一応、王都近辺で警護できる貴族の騎士団は多くても一万と言ったところだ。王国騎士団の予備兵を入れても一万二千」

「現状で把握できている北辺境騎士団の数は三千。うち、スレイ騎士団はこちら側だから実質二千九百として、普通に考えたら負ける公算はない」

「だが、ゴブリンなども関わっているし、ガリヤもいるから魔族がどれだけ出てくるかだな」

「ポッド様の言では、ガリヤの動かせる人数は多くても二千。

ただし、多くは戦闘に特化した中級魔族で、別途上級魔族が百弱。

人間換算で言うと四千人相当ですね」

「つまり、一万二千対実質七千の軍団の攻城戦だ。

キルデスさえいなければ、立てこもることで圧倒できるはずなんだが、ガリヤにキルデス、お前ら魔王討伐隊の面々と異常戦力が多すぎて計算が狂うぜ」

「そこを何とかするのがムセイ様の腕の見せ所だろ?」

「気軽に言ってくれるなぁ。当日はトルテちゃんと地下に市民を誘導したら引き籠もるからな。戦闘は任せたぞ」


 ムセイから私信がたくさん来ているとは聞いていたが、いつの間にかそこまで進んでいたのか。

 これでこいつはもう俺から逃げられないな……。


「あぁ、そっちも頑張れよ。

トルテも結婚適齢期だから、そろそろ相手が欲しいんじゃないか」

「いや、俺はそういうつもりで言ったんじゃ……」

「うちでも飯を作ってるが、トルテの飯はかなり美味くなってるぞ。避難所でトルテも飯を作ると思うんだよな」

「それは手伝わないとといけないな」


 分かりやすい奴だな。だから気に入っている。

 当日の警備計画については、ムセイをはじめとして王国騎士団に一任することにしたが、東西南北の出入り口に俺のアルター・エゴを配置することだけは確約させられた。

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