第28話 ハム・完成

 レイショ領に戻り、服飾・調理班長メリノ、メイド長ポッド及び狩猟班長アズサを招集してハムとベーコンの改良について議論している。


「血抜きか……確かに俺達は吊るして自然と出る血だけを出し尽くしたら、それで終わりだと思っていたからなぁ」

「すぐに焼いて食べるならそれでもいいんですけどね。調理班で作った料理は臭くないですし。

でも、加工肉は味が凝縮されるから臭みとエグ味になると……。

加工工程で血をさらに抜くとなるとお肉の加工に工数がかかりますね……」

「いや、そこは狩猟班が一番人数多いからそこで負担しよう。

狩りに行くのを四人、加工に八人、残りは輪番で休みと」

「そうだな。それがよさそうだ。

幸い肉はそこそこ吊るしてあるから、明日からは森に入る人数を減らし加工に回していこう」

「そうなると安全のためにあまり森の奥には行けなくなるな」


 狩猟は複数人制で行っている。

 複数人制は安全に狩りを行うために周辺警戒と処理を分散させるための物で、今はフォーマンセルで狩りと警戒をさせている。

 慣れていけばスリーマンセルを複数部隊で十分だとは思う。


「狩猟編成については、血抜き作業に慣れるまでの間だ。

慣れて血抜きがスムーズにできるようになれば本格的な増産にはいる。

狩猟数を増やして血抜き班の人数を減らし、メリノ班の人員を混ぜる予定だ」

「では、ワシは土木班に乾燥小屋の追加を頼んでおこう。

この寒い風で十分に乾燥させられると言っても、雨に撃たれては台無しじゃからな」


 実話祭は表面が濡れて乾燥が遅れるだけで、中までは染み込まないが避けられるなら避けたい。


「あぁ、頼む。ついでに風通しがいいように金網が必要だな……鳥なんかが狙ってくるかもしれないし」

「心得た、服飾班の包帯作りもかなり進んでいるから、別な加工もさせてみようと思っておったところなんじゃ」

「では、金網を作ってほしい。確か木枠に細い金属ワイヤーをセットして織り込めば作れたはずだ」


 そこの会議で決まったことをそれぞれ持ち帰り、班のメンバーに指示出しを行った。

 まずは土木班が金網の型枠を作り、それに服飾班では一メートル四方の枠に金網を六角形になるよう編み込んでいき、枠ごと土木班に納品してもらった。

 土木班によって加工専用小屋を作り、その横に鶏小屋のようなものを建てて、これを食肉の乾燥室とすることになった。


 十日も訓練すれば、丁寧な血抜きを出来るようになり、狩猟班を八人に増やし、四人を指導に回して調理班の応援メンバーでも十二分に血を絞り出せるようになってきた。

 血を抜いた肉は表面の汚れや悪い部位を切り取り重さ重さを量る。

 肉の重量の約一割の塩を塗り込み、約十日ほど塩漬けをし、約一日ほど真水に漬けて塩抜きを行ってから、乾燥室に運び込んで梁に吊るした。


 その他に肉の種類と調味液の相性を知るために、塩以外の色んな漬け込み液を用意してテストをした。


 脂身の多い所はベーコン用にブロックを切り出し、作っていたコーンのお酒と塩などを混ぜた液体に漬け込んだ。

 薄めにスライスした猪肉はスレイ男爵領で使われているフィッシュソースという魚を内臓ごと塩に漬け込んだ調味料に漬け込んだ。

 ハムは余計な調味料を減らして、塩とちょっとのハーブで浸けたものが食べやすくて脂の味も良かった。

 数日干して乾かしてから燻製にしたもの、塩抜き後干しっぱなしで熟成させたものを作り、出来上がったものを、屋敷の奴隷や村の住人たちに食べてみてもらった。

 その結果、力仕事の多い男たちから塩味の強いはベーコンとフィッシュソース漬けが、奥様方からはハムが特に好評だった。

 フィッシュソース漬けは酒に合うと思われるとの感想ももらった。


 どれの味が良いかをクラーラ伯爵領の親方達に食べ比べてもらった。


「ほう、ハムやベーコンはこのまま店頭に並べてもいいほどだ、この短期間で一人前の物を作りおったなレイショ」

「お褒めにあずかり光栄です」

「それにこのフィッシュソース漬けの薄い干し肉は、濃厚な赤ワインに滅茶苦茶合うなぁ……。

若干癖はあるがこの濃い酒の味に負けない濃厚な味はまるでお肉のロックチーズのようだ」


 やっぱり酒に合うよな。

 保存食として遠征にも持っていける味の濃い肉を狙っていたのだが、これだと普通におつまみ需要を狙えそうだ。


「えぇ、その薄切り肉は濃い目でそのままかじれるようにしたので、遠征用の携行肉とかにどうかなと思っていたのですが、晩酌用にも使えそうですねぇ」

「あぁ、そうだな。レイショ、このフィッシュソースちょっともらえんかね。うちでも研究してみたい」

「えぇ、そういうと思って小樽で持ってきていますよ。多分普段の料理に一回しひとまわししただけでもかなり味が変わるくらいのいい調味料だと思います」


 そういってフィッシュソースを二人に一樽ずつ渡した所、料理長らはすぐに小皿にフィッシュソースを出してテイスティングを始めた。

 やはり料理人というのはみんなこういう感じなんだと思っていたが、俺もなんでも口にしてみるから似たようなもんだな。


「おぉ、癖はあるがやはりうまい。

そうだな、これは肉料理にもだが、魚料理に深みを出すのに使えそうだな」

「魚の塩漬けをソースに使うことがあるが、これだと保存も楽で似たようなうま味が足せる……素晴らしいな」


 いい感触で試食会は終わった。

 その後、クラーラ伯爵夫人にも食べてもらったが、似た感想だった。

 献上品にはできないが、軍に卸すと喜ばれそうだと。


 これで今まで食品産業のなかったレイショ領邑での新しい産業がスタートできそうだと思う。

 自領だけでなく近隣の村からも猟師や加工産業への志願者が出てくれば、本格的な基幹産業として扱ってもよさそうだ。

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