第25話 貰った奴隷の教育2

 奴隷たちに実力を見せつけてから、なんだかより一層奴隷たちと距離ができた気がする。


「勇者だと?あの百才か……いや、若くねぇか」

「とてつもない強いジジイだと聞いてたんだが」

「あれが勇者……」

「とんでもねぇ奴に拾われたもんだ」


 狩猟班は口々に驚きを口にし始めた、失礼なものもあるが敢えて咎めることはしない。


「まぁ、知らんのも無理はないよな。

俺の百才は年齢じゃなくて、Aランク以上のスキルがそれくらい多いという事だ。

沢山才能があることを百の才能という二文字に縮めたものだ」

「するってぇと、本当は百もスキルはないのか?」

「いや、魔王討伐時で百八あったからなぁ……最近見てもらってないから分からん」

「今は……百と四十程じゃの。相変わらずの化け物勇者っぷりよ」


 そう言って指を折り数えながら後ろから現れたのは、メイド長ことポッドだ。

 彼女の担当班で作られたものが必要だからと、用意が出来たら運んでもらう手筈にしていたのだ。


「ほれ、お望みのもみ殻やらコーンの搾り滓じゃ」

「ご苦労さま。これで罠用の餌も確保できたな。

さて、狩猟班の最初の演習だが、弓の弦の張り方が分かるものは居るか……?

手を挙げたのはアズサだけか。取り敢えず、班長アズサは皆に弦の張り方を教えてやってくれ。

俺はこの餌を小屋に保管したらすぐ行くから」


 奴隷たちに指示を飛ばすと、俺はその間に飼料を狩猟班の道具を置く狩猟小屋に移動させた。

 これは今後狩猟するためのイノシシなどをおびき寄せるためのエサとなる。

 鍵をかけて保管をしたら奴隷たちの元に戻って訓練を開始した。


「さて、弦が張れたら次は射撃訓練だ。狩猟班は特に命がけだから可能な限り安全に狩猟できるよう入念に訓練させてもらう」


 そして二十メートル先に的を用意した、猪の体を模したもので実物より少し大きめの的にしている。


「これは君達に狩猟してもらう鹿や猪の胴体を模したものだ。

本番では俺が仕掛けた罠にかかった獲物を狙撃して弱らせてから近づき安全に肉を取ることを目標とする。

山を駆け回って動物を追いかける猟はしない予定だ」

「罠はくくりですかい?」


 アズサは元々猟師だったのか、その辺の知識もありそうだ。

 くくり罠とは餌場にロープで作った罠を設置しておき、罠を踏み抜いた足に縄をかけその場に拘束するものだ。

 ロープ長さの範囲だけ動き回れるが、遠距離から安全に狙撃できるので追いかける。

 追いかけて探し回る手間がいらず罠を張る場所さえ理解していれば、狩猟としては安全にやりやすい分類にはいる。


「そうだ、くくり罠とその周辺への餌付けでおびき寄せてから狩ろうと思う」

「それなら魔物よけを森の奥の方に施して置かねぇと、罠にかかった獲物につられてオーガなんかが来ますぜ」

「そうなのか……ご忠告ありがとう。餌付けの前に手配しよう。

こういう事は経験者のほうが詳しいな」

「あと、鹿や猪は売る用でしょう?大物は弓撃ちに慣れた数人から初めて、その他の完全など素人はうさぎなんかを狙って血に慣れさせてからの方がいいと思いますぜ」

「ご忠告痛み入るよアズサ。俺は狩りに関してはスキルを持ち合わせているが、罠猟の実践経験少ないから詰めが甘いのだ。

今までは自分の身体能力にものを言わせて一撃で仕留めていたからな。

すまないが、うさぎの捕り方は用意してないから必要なものを含めて教えてくれると助かる」

「ようがす」


 その後は午射撃指導、午後は罠の仕込み方の練習をしてもらう。その間に俺は対魔物用の結界を施した。

 魔物よけの結界は魔力のあるものが触れると背筋がゾクッとする程度の不快感を結界から抜けるまで感じさせ、自発的に追い返す程度のものだ。

 稀に突破されるが、敵が強ければ強いほど強敵の気配と勘違いして引き返してくれるので、余程血に飢えたバーサーカーでなければこちらまでは来ないはずだ。

 これで魔物は居ないが魔力の少ない動物がいる空間を確保できたので、罠を仕掛ける所に餌を撒いておく。


 念の為、村と森との境にはもっと強力な結界を張り、魔族は侵入すら難しいレベルにしてある。

 これでもう遺体も盗めないはずだ。



 数日の訓練を行った後、全員の練度を確認するが、的あては完全にできているし、罠も不格好だがちゃんと動作するようになった。

 アズサの教え方がいいのだろうな、俺はいい拾い物をしたものだ。


「よし、今日はここまで。道具を小屋に収納して鍵をかけて置いてくれ。

合鍵は班長のアズサに預けておく」

「奴隷に鍵を預けていいんですかい?」

「いつまでも俺がついて狩りをするわけにはいかないから、今のうちから管理してもらうよ。

責任重大だぞ、班長」

「ありがとうございます。奴隷にここまで信頼をよそてくれたのはあなたが初めてです。レイショ騎士爵」

「そう固くなるな。今の俺は領主ではなく猟師だ」


 ほら、ここは笑うところだぞ。


 ここからの数日は午前中に弓と剣の練習、午後は罠の作り方や設置方法、獲物がいそうな場所の推定方法を教えたり、俺がとらえてきたシカやイノシシの加工法を習得したりと演習に当てた。

 最初は血抜きやナイフの使い方もおぼつかない面々だったが、三日も経つと皮と肉を分離できる程度に成長した。


 切り分けた肉は調理班の小屋にある加工場に運び、熟成の後加工することになる。

 主に塩漬けにしてから燻製を施してハムに加工する予定だ。

 海が近いから塩なら割の簡単に手に入るので、燻製肉に手を付けられるのだ。

 貴族邸なら地下に低温の貯蔵庫があるから、そこに入れれば半年くらい楽しめるだろう。



 それに加えコーン油、それとフルーツの皮から香料を取ることで石鹸まで作れる。

 魔物素材と肉以外何も無いと思っている穀倉派貴族に、北辺境であろうと平和であればこのくらい作れるのだと知らしめるのだ。

 高品質で既存の食料を消費しない石鹸が安定供給されたら、使わないものは居ないだろうし、戦争が始まればこれらを手に入れることができなくなると忠告しておく。

 石鹸の魅力に取りつかれれば安易に戦争しようとは思わないだろう。


 さらに、領内で作る特産品たちは、輸出資材にもなる。

 ここより北にあるマヨコーン公国では、雪が深くなりアルファルファやコーンも作れないので、放牧用の飼料輸出も狙える。


 マヨコーン公国は酪農と金や宝石の産出が多い代わりに、小麦やそばの実、ワイン用のブドウくらいしか小作はしていないのだ。

 だから、北の辺境派に内乱を起こさせ、オーシス王国の弱体化をさせたうえで、この肥沃で冬も雪に閉ざされない農地を乗っ取ろうとしたのだろう。


 そんな事をしなくても貿易をすれば良いだけなのに。

 ちなみに俺はそのワインと宝石、金、牛肉を輸入し、代わりに牧畜用の飼料、石鹸、小麦、果物などの作物を交易することで、双方に理のある関係を結ぶことで相互関係を築き安易に攻められないようにしたいと考えている。

 この和平交渉が上手くいくといいな。

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