第23話 戦火の兆し5

「今回は皆様のご助力をいただき、ゾンビ騎士を合計七体用意できました。

ただいま全員の最終調整中でございます。

いずれも一騎当千の強者ばかりですし、筆頭戦力のヴィゾンはキルデス卿に近しい実力を備えております」

「流石ホムンク卿だ。短期間でよくそこまで用意できたな」


 主の名を呼ばれたラーギル将軍は深々とお辞儀をして報告を続けた。


「えぇ、計画立案の時点で肉体の用意は始めておりました。

それに、数体の遺体はまだ腐敗が遅かったこともあり、ホムンクルスに脳を移植にするよりは、腐った部分だけ新品の肉体に挿し替えてゾンビとして蘇らせたほうが良いと考えた次第です。

それにより欠損部位のみホムンクルス技術で補えば済はましたので、予定よりも多く用意できました」

「また、我がハンゾウ家に伝わる秘技により、魔剣の量産にも手を付けております。持つものにそれなりの激痛を与えますが、その分肉体を強化してくれる魔剣バーグです。

人間の使用には限界がありますが、ゾンビやホムンクルスであれば激痛のデメリット無く使いこなせるでしょう」


 実際にバーグを持つゾンビと斬り合ったキルデス卿が目を開いて立ち上がった。


「あのバーグとかいう嫌な気配のする魔剣か……あれはどういう理屈なのだ?」

「あぁ、はい。魔剣・バーグは切り刻んだ相手の魂を喰らい、己の糧とします」

「魂を」

「喰らう。ですか」

「えぇ、敵のスキルは食らうことできませんが、筋力や膂力、知性などの身体的な強さステータスを喰らいます。

喰えば喰うほど強くなれますが、その肉体と魂の乖離が起り、激痛が激しくなり並の人間では数人切った時点で耐えられなくなります。

ゾンビなら元より肉体と魂がリンクしませんので影響は軽微です」


 ふむ、それは本来であればかなり危険な代物だな。

 肉体的な限界がなく、さらに敵を斬り捨てるたびに強くなるなら、戦いが長期化するほどじり貧になる可能性が高い。


「なるほど、ホムンクルスや狂化戦士でないと扱えない魔剣ですな。

それは心強いですが、魂を食わせないと強くならないのであれば、予めいくらか喰わせる必要があると思われますが……?」

「あぁ、食わせる魂はある程度確保してありますよ。

囮依頼で呼び出した冒険者を捕えております。また、オークロードやオーガなどを用意していますので、魔物で無理矢理筋力を強化し、さらに知性などは奴隷や冒険者で補填いたします」


 ちょっとこれはマズいな……むしろ知性は減らしてほしいものだ。


「お待ちください。奴隷で得られるような知性では大した増強にはなりますまい。

オークロードやゴブリンシャーマン、はたまたレイスらの方が知力としては上ですし、そちらを使う方がよいのでないですか?」

「それもそうですな……。

レイスは厄介ではあるが取りつかせるのは実働部隊の将軍の数体でよい」

「では、あの奴隷はどのように処分しましょうか」


 よし、もうこれは貰ってしまうか。

 奴隷の命を救うにはこれしかないな。


「レイショめに送り付けてしまえばどうですか?

彼奴は極度の奴隷贔屓ですし、送り込んだ奴隷を殺しはしないでしょう。

それどころか使用人として迎え入れたりすることで、備蓄食料などを食らいつくすのでレイショの力を削げましょう。

それに奴隷達が墓荒らしをしたことにすれば、我々への疑念を別に向けることもできますやも」

「そうだな。遺体を盗んだ相手は見つかっておらんはずだ。

濡れ衣を着せるのに奴隷は最適だな」

「しかし、遺体は引き渡せないぞ?」

「副葬品の鎧などがありましょう?それを手土産にすればなんとかなります。

遺体は……捨てたか燃やしたことにしましょう。

輸送はスレイ男爵経由で行わせます。元々はレイショめの腹心ですからスレイからの引き渡しなら疑いますまい」


 よし、これで無駄な命を消費せずに済みそうだ。

 その後、王都を攻めるための布陣などの打ち合わせを行った。


 まずは重し貴族に跳ね橋を止めさせるために、非常に重い物資を渡す。

 人員を分散させるために跳ね橋のない堀から土魔法で橋を架けて同様に攻め込むため、ゴブリンシャーマンなどの魔法部隊はここに配置される事になった。

 混乱した市民が王都に逃げ込もうとして、跳ね橋を上げることができなくなる。

 その後王都に繋がる跳ね橋を早々に占拠して四方向から攻め込んで王城を襲撃がメインプランとなるようだ。

 また、主力部隊の側面が叩かれないよう、時間差で叩く部隊が魔物部隊を投入しさらに混乱を誘い指揮系統を麻痺させる。


 逆に俺は跳ね橋を守るが、守りすぎるとハンゾウ公爵などが出てこないから、跳ね橋部隊と拮抗して主力部隊の将軍を引きずりだし、その上で本体を叩かなければならない。

 ある程度誘い込む必要がある難しい戦争になりそうだ。


「クローン兵士とゾンビ騎士とキルデス騎士爵の配置はどうしますかな?」

「それに関しては情報が漏れないようにキルデス将軍が自らの出兵位置を選出し、攻め入る直前にハンゾウ公爵にお伝え頂く予定です。

それに併せてゾンビ騎士軍団を分散させます。我々の屋敷にはレイショの密偵が居りますからな。

全員に別々の情報を渡してレイショめを混乱させる予定です」

「彼奴なら偽情報からも読み取るやもと思いましたが……ふむ、ハンゾウ公爵とキルデス騎士爵しか知らないとなると、流した情報から逆算させること自体が時間の浪費となりましょうな。

流石の戦上手ですな、キキョウ男爵」


 あとは武器の準備や資金調達などの話をして、その日はお開きとなった。



 後日、スレイ男爵領の某所に奴隷と副葬品が届けられ、これをレイショの館まで運んでいくことに成功した。


「突然の訪問を失礼する。レイショ騎士爵はおられるか?」

「これはこれは、スコット氏。今日は何用ですか?」


 自分のアルター・エゴとはいえ、鼻につくほど居丈高だ。


「いえ、我が領内の武器屋からヴィゾン騎士爵の紋章入り武具が流通しているとの噂がありましてな?

調査したところ確かにヴィゾン騎士爵の武具でございました、さらにお宅の領墓が墓荒らしにあったと聞き及びまして、もしやと思いヴィゾン騎士爵の武具を売りに来た下民を捕らえましたところ……墓荒らしを自白したのでお連れした次第ですよ」


 そういいながら鼻毛を抜きつつそこら辺に捨てるスコットことアルター・エゴ。

 そこまで忠実にしなくてもいいのにな……。


「そうなのですね。こちらでも調査はしていましたが、なにぶん領墓周辺は森に囲まれておりますゆえ足取りが途絶えて難儀していたところです。

残りの取り調べと罰則についてはこちらで行わせて頂きます。

ポッド、騎士様たちを裏庭の牢の入口に案内して差し上げろ。ささ、スコット氏は中へどうぞ」


 そう言って書類手続きを済ませて手間賃と特産品それとスレイ男爵への書簡を渡しお帰り願った。

 自作自演なのだから無くてもいいのだが、下位の貴族のマナーとして袖の下を渡すところをメイドたちに見せておくのも教育なのだ。

 本物のスコットなら着服しただろうが、俺のアルター・エゴは素直に帰るだろう。

 屋敷の裏にはスコットを幽閉したのとは別の小屋型の牢屋を建ててあるからそこに奴隷たちを入れておくことにしている。


 あとは今後の状況をムセイと打ち合わせして、王家に許可を取り穀倉派との打ち合わせか。

 果てしなく忙しいな。

 隠居して……スローライフなんて望んでもなかったが、魔王討伐方が考えることが少なくて楽だったぞ。

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