第22話 戦火の兆し4

 スコットが口を割るとその足で家に帰り、ポッドと相談を始める。


「なんじゃ、今日はスレイのところに行って調査じゃなかったのか?」

「ちょっと予定が変わってね。スコットを捕まえてきた。それで、奴が言うには恩のあるヴィゾン騎士爵の遺体を盗んだのは謀反陣営で間違いないらしい」

「犯人が割れておるなら、取り返しに行ったらどうじゃ?」

「どうも話が大きくなっていてな。マヨコーン公国がスポンサーで、計画立案はガリヤらしいんだ」

「そいつは……なるほどな。取り返したところで別な英雄を盗むだけか……」


 そう……今の段階で叩いても、ゾーハンら実行犯を咎めることはできる。

 しかし、ハンゾウ公爵たちは直接指示をした証拠がないので咎めるのは難しい。

 なりを潜めて二回目の謀反を画策するだけだ。


「だから、奴らが武装蜂起するまで待って、メイン戦力のガリヤとキルデス卿を叩き潰す予定だ。

ガリヤとキルデス卿が居なくなれば、負ける要素もないだろう」

「となると、向こうには魔王軍と王国の二大戦闘狂がおるのか。

その二人を同時に相手とかお前さんでもキツいのではないか?」

「そこでお前さんだよ。ポッド」

「ワシをガリヤに当てるのか?魔力を取り戻したら奴隷紋を破壊して逃げるかもしれんのにか?」

「お前さんはそんな事をするようなやつじゃないよ」


 ポッドは髪をいじりながら後ろを向いてため息をつく。


「お前さんは魔王を何だと思っているんじゃ」

「ただのスキルマニア」

「……正解じゃ。」

「あと、娘」

「ふ……巫山戯るな! 独身貴族ごときが!そういうのは結婚出来てからにせい! 《ファーストキスじゃったんじゃぞ》 《ちっとは気を遣わんか》」


 これまでは穀倉派貴族を中心に騎士団を鍛えていたが、ここは実はあまり強くはしていない。

 この王国は王都から出てしばらく行くと、王都を取り囲むように穀倉地帯が続いていて、主に穀物生産を生業とする貴族を穀倉派と言った。


 逆に俺のいる外周部は、辺境派と呼ばれ主に外国と魔物退治が生業で、狩りで手に入れた肉や魚を加工して王都に運び、代わりに自領で食べる穀物を手に入れる辺境派貴族が多い。


 安定して食料生産できる俺が偉い VS 安心して食料生産出来るよう危険を排除している俺の方が偉いと言う確執が昔からある。

 どちらが欠けても国は成り立たないというのに、本当に貴族という奴は面倒くさいものだ。


 穀倉派を強くしすぎても辺境派との確執を生むから、ここら辺は粗製乱造の形で使える程度に強くするに留めた。

 敵の本体ではなく、サイドを叩く配置にするように指示する予定であるから、この位でも十二分に役に立ってくれることだろう。


 しかし、侯爵や侯爵などであれば本来は王家との結びつきが強く、王都の守護に立つ直系の家臣であるから、造反していないものに関しては王国騎士団並みに鍛えても問題ないのだ。

 ここからは数より質なので鍛える騎士団の数を絞り、スレイ男爵騎士団の隊長ショー達と、アルター・エゴを使って同時に三つの公爵家、侯爵家の騎士団を集中して育成していく。

 レイショ本人はスコットの影武者をやりながら敵戦力の分析と戦況の誘導、それと俺自身のレベルアップを中心メニューとした。



 ハンギャック辺境伯領某所、建国祭まで二週間を切った某日。

 ハンギャック辺境伯の配下にあるキキョウ男爵、ホムンク=ワダ子爵の腹心ラーギル騎士爵、ハンゾウ公爵の三男ゾーハン騎士爵、ヒトメッチャ・キルデス騎士爵、そしてスレイの秘書のスコットに変身した俺ことレイショが作戦会議をしていた。


 ここにいる辺境派の謀反陣営の実行部隊のメンバーだが、どの実態はそれぞれ仕えるべき家や上級貴族に直接嫌疑が及ばぬように捨てゴマとされている小間使いたちである。


「えー、では僭越ながら司会進行兼書記は、私スコットが執り行わせていただきます。さて、レイショの部下であるメイドがキルデス騎士爵以外のすべての屋敷に配属されているようですが、これは偶然とは思えませんね」

「まぁ、密偵でしょうな。それ故に彼女らのいる場所では、この集まりについては話しておらん。重要な書類も隠しておる」

「しかし、相手はあのレイショです。完全に隠すのは無理と考えてフェイクの情報も流していますよ」

「俺はメイドを断ったが、皆受け入れておるのだな?」


 唯一受け入れを行っていないキルデスが、他のメンバーに対して疑問を口にした。


「えぇ、密偵というのは気が付くまでは厄介ですが、気付いてしまえば逆に利用する程度がちょうどよいのですよ。ねぇ、ラーギル卿?」

「まさにその通り。あれほど露骨な密偵であれば偽情報で敵陣営をかく乱させるに限りますな。ゾーハン卿」


 貴族特有の長い謙遜合戦が続きそうなので、早めに切り上げて本題に入ろう。


「コホン。さて、それでは本日の議題ですが……建国祭にどのように王都を攻めるかでよろしいですかな?キキョウ男爵」

「えぇ、それでよろしいですよ。皆様、何かしらの案はございますか?」


 一応、本会議のホストであるキキョウ男爵は流石の落ち着きを見せていた。

 ここにいるメンツは基本的に北の辺境では戦上手と言われるメンバーである。


「そうですな。建国祭では貴族が多く集まるだけあって、王都内外に多くの兵士が配置されるのが通例になっています。

穀倉派の貴族は王都外部の守り、王国騎士団は城壁内の守りですな。

我々辺境派は例年通りだと外国から王都までの街道警護を続けると思われております」

「そこで考えるべきは、外を無視して内を攻めるか、外から攻めて内側の兵士を外に釣るかになりましょう」


 王都だけはいわゆる城塞都市の状態であり、跳ね橋を上げることで外部から攻めにくい作りとなっている。

 定石とすれば内側に相当数の兵士を潜ませて置き、どうにかしてはね橋を上げさせて外部からの支援を絶って王都内で暴れるといった形になるだろう。


「定石は外部に兵をおびき寄せてから跳ね橋を占拠し、王都内だけで暴れるといったものですが、今回はあえて外から攻めようと思っています」

「ラーギル卿。敢えてそうするからには勝算があってのことだろうか」

「えぇ、建国祭は国内外から多くのゲストを呼びますので、跳ね橋は下りたまま状態です。

攻め込んだ際に急いで橋をあげようにも、人が渡りきるまでは作動させられません。

そのために橋を上げさせないために囮の下級貴族を雇いこみました」

「雇ったのか?そこから計画が漏れはしないのか?」

「ご心配なく、借金で首の回らない貴族の名誉挽回のために宝物を一部分け与え、跳ね橋の上で王家への献上品の受け渡しをするという話しかしておりません。

王家へのお目通りができると目がくらんだ貴族は深く考えずに応じたようですな。

伝言役には借金のある年金貴族を間接的に使い、金の流れを追いにくくしてあります」


 人を人とも思っていない、本当にゲスなやつらだ。

 無関係な貴族をただの重しとして使ってついでに処分するつもりなのだろう。


「また、我が主のホムンクルス技術を使い戦力を増強しています。

そのために各地の墓を暴き、一騎当千の男たちの肉体を手に入れました」


 これはたヴィゾン騎士爵らのことだろう……。

 いったい何人盗んだのだろうな、フェイクとして無関係な墓を荒らした記録もあるしこれも借金貴族を使ったらしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る