第21話 戦火の兆し3

 俺は警吏に通報の後、墓守に話を聞くが警備魔法も光魔法も解除や改竄された形跡は見当たらなかった。

 しかし、警備魔法は地上がメインであるため、地面の下は五メートル程度までしかカバーできていないとのこと。

 念の為、墓を掘り返してみると本来棺のあるスペースよりさらに下に進む穴があり、そこから横穴が続いていた。


「横穴か結構遠くまで続いているな……。計画的に地上でマーキングしてからそれを頼りに地下から盗んだようだ」

「陥没したということはそれなりに時間も経っていますし、穴の先にも証拠もないと思われますが、追われますか?」

「念の為な。ちょっと行ってくるから、墓石と墓穴に帆布をかけてこれ以上風雨にさらされないようにしておいてくれ。

あと、遺族に遺体が盗まれたとの連絡を」

「仰せつかりました」


 横穴はレイショ領のはずれの洞窟につながっていた。

 アルター・エゴを出して穴の中を捜索したところ、ゴブリンらしき毛と動物の骨が散乱したエリアを見つけた。

 出口の近くには焚き火のあともあったことから、魔物を使って遺体の運搬をしたものと考えられた。


「ここからだと近いのは……森を抜けた先のスレイ男爵屋敷か。

なら、スコットと接触していたゴブリンシャーマンが怪しいな」


 ここに転移紋は見当たらないから、いったん拠点に持ち帰って移送させたと見るのがよさそうだ。

 スレイの屋敷にあった隠し通路には転移紋が付けてあるから、今夜にでも聞きに行こう。

 一旦ヴィゾン騎士爵の墓の前で作業しているメイドのところに戻り、一緒に作業をしてから、慰霊墓の管理をしているシスターカルネに一時的に墓への出入りを禁止した旨の報告を行った。


 さて、暗くなってから変身を使いスコットに化けてから転移を使ってスレイ男爵地下通路に潜り込む。

 変身ができるようになってからは、メイクをする手間が減って非常に便利だ。

 ただトルメの言う通り、自分より小さくなるのは無理があるのか全身がきしむ感覚がある。

 三面六臂で異形化に慣れている俺は大丈夫そうだが、長時間の使用は控えねばなるまい。

 念のため、継続回復魔法で体へのダメージを減らしておくことにした。



「貴様どこから出てきた!怪しい奴め……って、ワシ?」

「いきなり出てくるんじゃない!」


 転移した瞬間、スコット本人と鉢合わせした。

 どうしようとか考える前に、取り敢えず当て身で意識を奪い縛り上げると、転移を使って俺の屋敷に誘拐した。

 地下室に作った簡易牢屋に光魔法の結界と土魔法による堅牢化を施してから尋問をする。


「すまない、流れでこうなったが、お前がゴブリンシャーマンと通じて王国に謀反を働こうとしていることは突き止めている」

「な、何を証拠に……」

「お前、今日はヴィゾン騎士爵の遺体が盗まれたことがバレたと報告に行く予定だったんじゃないか?」


 顔に出さないようにしているのだろうが、下唇を噛んでいるのは誤魔化しようもない。


「証拠も掴んでいると言っただろう。

それに、これを話すということは、お前はもうここから出られないと言うことだ。

素直に従わない場合、死霊術を使って従魔にもできるんだ。大人しく話せ」

「証拠だと?そんなもの有る訳ないだろう」


 俺は変身を使用してスコットそっくりの顔と背格好に変身する。


「俺はこの顔でゴブリンシャーマンと会話し、お前がスレイ男爵に何かしようとしている計画を知っている。

それ以降は、メイド達にお前の動きとスレイの変化について探りを入れさせている」

「あのトルメとか言うチビが密偵なのは気付いておったが、メイド達だと?」

「あぁ、三ヶ月ひたすらメイドに徹してもらったが、本命はラフィットの方だよ。

油断して書類の管理が甘くなったようだな」


 そう言ってマジックバッグから書類の束を取り出す。

 ラフィットから連絡があって先日受け取りに行った証拠書類の写しだ。


「王権奪取計画か。

大それた事をする予定なんだな?ハンゾウ国王か……笑わせる。

それにマヨコーン公国が関わっているし……驚いたな。

ガリヤの名前もあるじゃないか」

「くっ……そこまでバレたら計画は破綻したも同然……かくなる上は」


 そう言って奥歯を強く噛みしめるスコットであったが、何も起こらない。

 何度も何度も奥歯を噛み、舌を噛もうとするスコットだが、そのいずれもしっかりとした痛みだけを体に残したものの、失敗した。


「なぜ毒薬が効かない……それに舌も嚙み切れない」

「無駄だ。この牢屋にはセイクリッドプリズンを施してある。自害を封じるための光魔法だ。

暗殺ギルドのメンツはすぐに自害したがるから、この技術を開発した。

ちなみに」


 剣を取り、スコットの首を刎ねるが、刃が通り痛みを与えるものの、首は飛ばない・・・・・・


「死ねなくなるメリットを使用して、延々と拷問にも使用できるんだ。

王都の元老院には伝えてあるからいずれ取り調べで使われるだろう。

如何なる拷問でも何時間でも続けられるから、話さないなら吐くまで苛め抜くだけだ。

アルター・エゴ!吐くまで相手をしてやれ」

「お、おい。拷問での自白が証拠になると思っているのか」


 さてと、面倒なことになったな。

 スコットは泳がせて情報だけ抜くつもりが、本人を捕らえてしまった。


 さて、遅くなったが本題のゴブリンシャーマンに会いに行き、ヴィゾン騎士爵の遺体が盗まれたことを悟られたと報告する。

 予定通りといった感じで焦ることもなく、ただ『もうバレましたか』位であった。

 遺体の現状を確認したところ、ホムンク=ワダ子爵家に持ち込まれてホムンクルス技術を使ってゾンビとして蘇らせるようだ。

 戦力として読み返らせるならネクロマンシアで遺体を蘇生して動かせばいいのに、わざわざゾンビにか……。何をする気だ。


 ホムンク子爵はワダと名乗る過去の勇者の末裔だ。

 なんでも、異世界?のミノ?とか言う国から来たらしく、ミノの発明王として名を馳せた刀工の一族で、様々な革命的道具も発明したようだ。

 ホムンクルスもその一つであるが、改造を施した肉体とは別に脳みそを用意する必要があり、戦時中は数多の奴隷が肉体を改造され元英雄の脳を移植されて犠牲になったコマにされたことから、いまでは国の許可なしに作成を禁止とされている。

 俺は憤る気持ちを抑えながら、その場を後にした。


 スコットが居なくなった穴を埋めるため、アース・アルター・エゴをスコットに偽装してスレイ男爵家に潜り込ませることにし、その旨をラフィットにも伝えて監視対象をスレイ男爵近辺のみに切り替えた。

 スコット宛の情報ならアルター・エゴから筒抜けになったから、これからは楽ができるといいな。

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