第20話 戦火の兆し2
メイドから各貴族に怪しい動きはある物の、誰とつながりが有るかを掴めたとの報もなく、ただただ各地の騎士団を鍛えるだけの日々が続いたある日、密偵メイドの貸出期間間近でようやく怪しげな報告を受け取り予想が現実となった。
「キルデス騎士爵がハンゾウ公爵領で訓練中……いよいよ、佳境って感じだな」
「そうじゃな、密偵には引き続き調べてもらうとしよう」
「そういえばトルメ以外は全員延長で借りて貰える事になったか」
「あぁ、スレイ男爵家のメイドも料理長もかなりレベルアップしたから引き続きラフィットは借りたいそうじゃ。
トルメは明らかに密偵と分かる動きをさせておったのと、費用負担の面から一人に絞ることにしたらしい」
「ということで、帰還いたしました。ご主人様!」
「人目がないからと気を抜くなよ、トルメ」
膨れっ面のトルメは俺のベッドに飛び乗って脚をパタパタさせている。
「えー?いいじゃないですかぁ?だってこのベッドで愛を深めあった仲じゃないですか〜」
「夜伽の訓練な?愛なんか深めとらん」
「そんな〜?トルメの事は遊びだったのですか?」
「そもそも、お前
そう、トルメは何を隠そう男で、種族はエルフだ。
AA-クラスの変身スキルと隠蔽スキル、その他いくつかの上級スキルを持つ、女装趣味のある男なのだ。
元々低身長で女顔なのを良いことに、首から下の体だけ女体化している。
「だって、女の子の方がおしゃれできるもーん」が口癖のような奴だ。
最高レベルの鑑定が使えなければ、性別がバレることはほぼ無いだろう。
自分より小さなものに変身するのは難しいが、倍程度のオークに化けるのは可能らしい。
可愛くないから大きくなるのは嫌なのだそうだ。
「男じゃないって、トルメの性別はダブルだよ。それに、男性器付き同士の純愛っていうのも王都では流行っているらしいよ」
「上級貴族だけな。政略結婚が辛くてそちらに流れることも多いらしい」
「田舎貴族じゃだめかー」
訂正、ダブルセックスらしい。
人間の半陰陽と違い、自分の意志でどちらも完全に機能する雌雄同体らしいとのこと。
だからか、ダブルは皆変身スキルを持ち、使わない方の生殖器を十年単位で隠して好きな性別として使うのだとか。
「さてと、トルメ。お前には今から新しい任務として、新任密偵メイドの教育係を任命する。
実践で使えた技術使わなかったが役に立ちそうな技術を教えてやってくれ」
「アイアイサー。じゃなくて……コホン。承りました。御主人様」
この変わり身の早さは一級品だな。
だからこそ、密偵として使いやすい。
「あ、ところで。『夜伽の実習』もヤッていいですか?」
「良い訳ないだろ。『トルメに命ずる、レイショの許可なき性欲の発散を禁ず』」
「はひ……仰せの通りに」
魔力を込めて命令すれば、ほぼ逆らえないのが奴隷紋の恐ろしいところだ。
自害など本人が嫌がる命令の場合、強い反発の意思があり魔力を十全に使えるものであれば紋を破ることも可能だそうだが、実例は聞かない。
借金奴隷や犯罪奴隷でもない限り、多くが奴隷の子供や戦災孤児、自由に生きるという概念すら知らない者たちだから逆らうという意識がそもそも強くないのだ。
トルメみたいに王都に行く足程度の感覚で奴隷商人を使う者であれば可能かもしれない。
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ある日のハンゾウ公爵領の森にて──
「キルデス卿。こちらが全盛期以上に仕上げたヴィゾン騎士爵ゾンビであります」
「ふむ、生前のような迫力は見受けられないが……」
「これからですよ。おい、魔剣・バーグを持ってこい」
そこに力自慢のトロールが
握りを確認した瞬間に、剣を持ってきたトロールを後方の大木ごと両断した。
「なるほど、全盛期以上とはよく言ったものだな。では……」
キルデスは自らの大剣
「その実力、試させてもらおう!」
キルデスは速攻とばかりに大上段からまっすぐ叩きつけるような斬撃──必殺の『城塞砕き』を叩き込む。
かつて一人で砦を半壊させる時に使ったキルデスの現役最強の剣技。
ヴィゾン・ゾンビはそれを片手でいなすと、飛び上がり前転からのかかと落としをキルデスに放つ。
それは読めていたとばかりに、キルデスが受け止めると、身の軽さを利用して更に高く飛び上がる。
上方にある木の枝のしなりを利用して、ヴィゾン・ゾンビは超高速の突きを放つとキルデスの剣に止められ、距離を取る。
「ふう……実力は確認できた。明日からは此奴と斬り合って高みを目指すことにする。
が、生前と比べると体重が軽い、もう少し重みを増して生前に近づけろ、今日は終いだ」
キルデスは刃こぼれの増えなかった
(この剣に傷を付けられぬようでは駄目だ。今の此奴を倒しても強くはなれん……)
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「大変です!レイショ様」
「ナギ、どうした?今日はヴィゾン騎士爵の命日だからお参りに行く日だったろう?」
「はい、実はメイドにて事前にお墓の掃除と合同慰霊祭のと準備に向かったのですが、ヴィゾン騎士爵他数名の元武人たちのお墓が何者かに荒らされていました」
「なんだって?」
ヴィゾン騎士爵の墓がある領墓には、光魔法による結界が張られていてモンスターの襲撃やアンデッド化を防いでいたはずだ。
敵のネクロマンサーに強い騎士や魔法使いの遺体を取られると大変なため、盗難対策は万全となっていたはずだ。
王族など高貴な身分では荼毘が一般的であるが、騎士爵や武人は万が一の場合の予備戦力として土葬し、有事にはネクロマンサーと契約することに生前に同意している者たちばかりだ。
「光魔法の結界が破られていたのか?」
「いえ、結界は正常に動いているようです。安置スペースの奥にトンネルが見えましたので、地下経由で盗んで土か魔法で穴を埋めたのかと……。
すぐ発見されないように偽装されていましたので人の手によるものかと推測されます」
ここ数日の長雨の際に、地面に雨が染み込み偽装のために詰め込んだ土が流され、地面が陥没したために墓石が崩れており、確認のために掘り起こしたところ、棺が空になっていたとのことだ。
俺は取るものもとりあえず、剣とマジックバッグだけを持ち、領墓へと直行した。
領墓は三つのエリアから構成されており、集合墓地の庶民墓、戦火で討ち取った敵のうち敵国に引き取られなかった非貴族を収める慰霊墓、そして今回問題の起った貴族・英雄墓だ。
「これは酷いな……」
ヴィゾン騎士爵の墓を中心に数人の英雄たちの墓が荒らされていた。
その中には武功のある有力貴族の墓もあり、ネクロマンサーの手駒、またはゾンビにするために盗まれたのはほぼ明白であった。
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