第18話 御前試合の成果

 キルデス騎士団は、宮廷魔導士による治療が終わるとキルデス騎士爵の屋敷までの帰路に着いた。

 戦闘を行った後はキルデス四天王含む全軍で本日の戦闘の反省会を行うのが日々のルーティンとなっている。

 全員が座禅のようなポーズで瞑想をしながら、本日の戦いの反省点を述べ勝てるようにシミュレーションを行っている。


 反省点が見つかれば実際に人の形を模した丸太に向かって木剣で打ち込みを行ったり、乱捕り稽古を行ったりして自身の武を修正する。


 キルデス本人も、破砕・黒龍ハサイ コクリュウの初めての刃こぼれを見て己の未熟さを呪い、ひたすら剣を振っていた。


「キルデス様。荒れていらっしゃいますな……」

「ゴブリンシャーマンか……失せろ。

俺は貴様らの誘いには乗らん」

「いえいえ、話だけでも聞いていただければ幸いなのです。

我々は、遂にヴィゾン騎士爵の遺体を手に入れました」


 素振りを続けていたキルデスは、手を止めてゴブリンシャーマンに問いかける。


「どうだ?ヴィゾンはまだ剣を振るえそうか?」

「そこはレイス共が憑依してステータスを補い、外骨格としてスケルトンを配置することで全盛期以上に仕上げますよ」

「うむ、そうか。準備が出来たらまた声を掛けよ。

ヴィゾンとはまた斬り合わねばならぬ」

「仰せのままに」


 ゴブリンシャーマンが転移で消えると、キルデスは騎士団に向かって新たな指示を飛ばした。


「者ども!次なる戦場を発表する、目標は王都!国落としを行う!

そのために一度ハンゾウ公爵の誘いに乗り!公爵領にて修行を行うこととした」

「「「「「おおおおおおおお!」」」」」


 キルデスは戦いの中でしか生きられない。ふさわしい戦場を用意できるものであれば、戦う強者さえいれば誰にでも力を貸す。そういう男であった。



 さて、一方レイショ陣営でもメイドの研修兼ディナー兼反省会が行われようとしていた。


「で、お前さんよ。どうじゃった?キルデスは造反を企て、王家に挑戦すると思うか?」

「あぁ、その件だが……最初は裏切る気はなかったと思うよ」

「最初は……?つまり、心変わりしたと?」

「どうかな?ポッドは聞こえていたと思うが、奴は俺とヴィゾン騎士爵の不二流の剣術に勝てないのが悔しいらしい」

「そうじゃな。聞こえておった」

「つまり、今日の斬り合いで明確に決着がつかなかったことで、俺ともう一回戦うために謀反陣営へ取り込まれることを決めた可能性が高い」


 ステーキを食べ終わり、ナプキンで口元をポンポンと拭ったポッドが、驚いたような顔で尋ねてきた。


「そのくらいのことでか」

「そのくらいの事が重要なんだ。武人というやつは」

「なんか、ワシの部下のガリヤみたいじゃな。

アヤツも力に溺れ常に強者を求めておった」

「そうそうガリヤ、アイツも序列は低めなのに四天王並みに強かったな。

そうだな、多分キルデス卿はガリヤと同じなんだ。

ガリヤも勇者いう自分にふさわしい好敵手との戦場を提供されていたから魔王軍に居た。

それがなければ今度は離反してポッドの命を狙っていたと思うよ」

「なるほど。既視感の正体はそれか」


 副メイド長のシノが次の料理を運んできた。


「白身魚のポワレ・ハーブソース添えでございます」


 それを一口運んでから、シノに質問をする。


「ほう、表面はカリッと中はフワッと仕上がっているな。盛り付けも美しい。シノ、これを作ったシェフは誰だ?」

「はい。白身魚のポワレは同期のナギが、合わせるソースと盛り付けは新人のトルテが担当しております」

「ソース担当はあの白ブロッコリーか。

ふむ、味付けはいいが塩分が少し強くて白身魚の味を邪魔しているので素材を考えてもう少し抑えること。

あとはハーブの切り方を復習してくれ。力任せに切って混ぜているから雑味がでている。

しかし、盛り付けは満点だと伝えてくれ」

「仰せつかりました」


 トルテは村娘から志願してきたメイドの一人だ。夢は……王都で貴族との結婚だったか?

 美術品に対する審美眼が強く、屋敷にある壺にも「これはせいぜい銀貨二十枚の安物、それに修復の跡がありますからせいぜい売値で銀貨五枚。金貨三枚の価値はありません」と即答してみせたほどだ。


 この屋敷の中では、芸術の素養はポッドについで二位、俺より高いくらいである。

 絵を描くことも得意で、ポプリの使い方説明の絵や貴族に売り込むためのメイドのチラシは作成などには、彼女の絵が使われている。

 鑑定スキルで分からない美術工芸の価値を言い当てるから商人にとっては、喉から手が出るほど欲しがるであろう優秀な品評家なのである。


 白ブロッコリーの由来だが、野菜である白ブロッコリーは別名ブーケ菜と呼ばれており、花嫁の持つブーケにそっくりな野菜なのだ。

 その白ブロッコリーを持ち、未来の旦那様の絵に向かって結婚式の予行演習をしているらしい。

 というか、貴族とみればとりあえず求婚していたし、俺も求婚もされたが断った。トルテはそういう女だ。


「トルテにはデザートの制作なんかもさせてみるといい、思いつきで物凄いデコレーションを開発するかもしれん」

「かしこまりました。手の空いている時に試作をさせます」

「そうしてくれ。開発時の失敗作は皆で食べて構わない。素材を惜しまないように」


 一礼してシノが下がり、食後酒の準備を始める。


「さて、話を戻そう。キルデス卿は放っておいてもいずれ裏切っていた可能性が高い。

なにせ、もう大規模な戦場もなく、命を賭けて斬り合う楽しいおもちゃもあまり居ないんだ」

「そこで、久々に血湧き肉躍る好敵手であるお前さんが現れたと」

「そうだ、俺ともう一度死ぬまで戦える方法は?」

「逆賊側に就いて、王国相手に戦争を仕掛ける……か。

そうすれば、王国臣下である貴様は矢面に立たざるを得ぬ」

「そういうことだ。今回の戦いは結果としてそれを早めただけで、元々発生したリスクを得味覚化しただけだ。

それと、襲撃の時期が読みやすくなるだけ準備は楽になった」

「時期が読めるじゃと?」


 魚料理が下げられ、運ばれてきたソルベを口に運ぶ。

 村で最近始めた果樹園の果物を使っているが、これはまだまだだな。

 技術指導によって名物になることを願おう。


「あぁ、春の建国祭さ。キルデスが敵についた後にある最も大きな行事だよ。

ポッドは建国祭は初めてだったかな。

せんじは中断されていたが、今年は終戦後初めてのお祭りだからと盛大に行われる。

オーシス王国内外から貴族と要人が集まる」

「そこを包囲して斬り込めば国の中枢だけでなく、諸外国との関係もが終わるな。

なるほど、効率の良いクーデターだ」

「あぁ、だからこそこれから忙しくなる。

また家を空けるから、その間は頼んだぞ」

「心得た」

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