第15話 御前試合1
閑話休題
あれから数週間、スコット達に目立った動きはない。
レイスを取り込んでスレイを洗脳した後に、レイスはもう離脱したのだろうか?
何はともあれ動きもなければ証拠もない状態で断罪することはできない。
魔族と通じているということはあるが、それを今咎めてしまってはその裏にある計画などを探る手立てが無くなってしまう。
さて、訓練に向かおうか。
最近では生活指導も含めて二か月近く騎士団で寝止まりしているのだが、最初の頃に比べても相当にいい練度まで仕上がってきているのがわかる。
「よし、みんな集まってくれ」
そして訓練の終わった兵士たちを自分の前に整列させて、技能訓練期間の終了を注げることにした。
「号令から整列まで五分以内……。素晴らしい練度まで育ってくれた。俺から教えることはもうない。
同じ鍋の飯を食い、同じように汗を流し、同じ野営地で寝泊まりしたお前達のことを、魔王討伐時の仲間のように頼もしいと感じているほどだ。
日々このまま研鑽を重ねてくれれば、王都騎士団並みの素晴らしい騎士団になっていけるだろう。
これにて、貴殿らの研修を修了しようと思う!」
「総員!レイショ指導官に敬礼!」
ほとんど音ズレもない完璧な敬礼が送られた。
それからは希望者全員に修了の証として、盾の裏にサインをして回った。勿論、転移紋を仕込んである。
特に優秀になったタッパ達には、旅の途中で使っていた思い出の剣をプレゼントしたり、損傷した武具を修理したりと和気あいあいとした雰囲気の中、俺は見送られて帰路についた。
そして屋敷に帰ってからは、ポッドと何故か来ていたムセイと、久々にお茶をすることになった。半分は報告書のやり取りだが。
「送り込んだメイド達から報告書が届いている。
どこもきな臭さは隠しているがそろそろボロが出始めたようじゃな」
「うむ、短期的に密偵を送り込んでもこうはいかなかっただろう。
長期的に意識の外に置かれやすいメイドとして送り込んだ成果だな」
「しかし、信じられんぜ?マヨコーン公国との内通に、魔王軍残当との接触、オマケにレイスを使った洗脳か」
信じられないというか当然の帰結というか、ムセイが怪しいと睨んだ貴族はヒトメッチャ・キルデス騎士爵以外全員が何らかの不正などに関わっていたようだ。
今のところスレイ本人は関与が不明ではあるが、秘書のスコットが主体的に動いているのは間違いない。
証拠をつかむまで密偵を潜ませておかざるを得ないという状況になった。
「そういやぁ、キルデス騎士爵だけ今のところ怪しいところが見付からないんだよな」
「枢密院側の密偵の目を誤魔化せるほど器用な男とは思えないのだが、今のところ動きはなさそうだな」
「ふむ、なら直に乗り込んではどうじゃ?お前さんよ」
「直接乗り込む……か」
「あぁ、聞いた所によるとキルデス騎士爵は、ほとんど屋敷に戻らず戦地を飛び回る戦闘狂というではないか。
模擬戦という形でお前さんと斬り合えば何か漏らすのではないか?」
「一理あるな。レイショならあの騎士団と一人でやり合っても死なないだろう?」
「しかしなぁ……」
キルデスと斬り合うとどっちもただでは済まなそうなんだよなぁ。
それにどういう理由で戦えばいいのか皆目見当もつかない。
「サーチやヒールならワシは制限なく使える。
一、二撃ならこの体でも耐えられるから二人で参戦しよう。
それに、キルデス騎士爵が謀反陣営に雇われていたとしても、模擬戦の結果しばらく鍛え直しで断ったり負傷にて弱体化させたりできるかもしれん」
「そうだな。ではムセイ。
審判員として適当な武人を選んでくれ。
危ないと判断したら中止命令かけてポッドに止めさせるから」
「そうしようか。王様が元勇者の力を見たいということで御前試合を組んだとすれば、誰も止められはしないだろう。
そうさなぁ……場所はバシメサ平原の軍事演習設備にしよう」
「そこで御前試合か……ルールは任せる」
「よし、決まりな」
というわけで、二週間後にキルデス卿との模擬戦が組まれることとなった。
場所は岩が露出していてところどころ風化した岩の残るバシメサ平原。
平原と言っても草はないメサ台地の一つだ。
その平原部分が決戦のバトルフィールド、もとい模擬戦のバトルフィールドになっており、前の演習で破壊されたオブジェクトや岩が、そのままフィールドギミックとなり毎回違った感覚の模擬戦が可能という、王国内でも随一の過酷な演習場となっている。
更に小高い台地の上には観覧席も用意されているから、必要があれば見学もできるように改造され、御前試合行うことの多い高名な演習場でもある。
「本日は宜しくお願いします」
「ふん、貴様が勇者か。ものすごい圧力だ。我が血肉もびりびりとその強さを感じておるわ」
デカイな……二メートルは優に超えていそうな体躯、百キロは軽く超えていそうな重厚感。
そして、彼の趣味は闘争……もとい、強者を斬ることである。
「それでは、戦う前の最終確認です」
今回は御前試合、死者を出してはいけないが手を抜いてもいけない難しい試合だ。
多くの貴族も列席しているため、それなりの数の王都騎士団が随行している。
御前試合とには、きちんとしたルールが課されることになる。
御前試合のルールは以下の通りだ。
ひとつ、陣地の旗を取られたら負けとする
ひとつ、命を取ってはならない
ひとつ、得物(武器・肉体)が破損したら退場とする
ひとつ、審判には従うこと
ひとつ、試合後の逆恨みをせぬこと
ひとつ、観客を巻き込むような攻撃の禁止
ひとつ、開戦前の魔法の事前詠唱は禁ず
つまり、殺さなけば何をやってもいいが、ゾンビ行為の禁止とフィールド外に影響を出したら負けというシンプルなルールである。
「今回の御前試合の内容はフラッグ戦でございます。両者よろしいですか」
「フラッグ戦か。つまり、攻撃に優れる俺が有利ということだな。
残念だったな、勇者よ!」
「そっくりそのままお返しするよ」
「しかし、貴様部下はそのメイドだけか?我々をバカにしているのか?」
「いやいや、これでも過剰戦力だと思っているよ。こいつも俺に負けず劣らずの戦士でもある」
「大層な自信だ!期待しておこう!では後で会おう」
そして、準備時間として三十分の猶予時間の後、試合が開始された。
俺はその間、旗を守るポッドの淹れたお茶を楽しんでいただけだが。
「お前さんよ。そろそろ開始じゃぞ」
「あぁ、分かった。取り敢えず二十分以内に終わらせてくる。それを過ぎたら、済まないが援護をしてくれ」
「はよぅせんと紅茶もクッキーも食い尽くすからな」
お互いが陣幕にフラッグを安置したのを審判員が確認した上で試合開始と相成った。
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