第14話 閑話 ポッドの回想

 ワシの名はプリンセス・オブ・ダークネス。

 元魔王とか魔王の残滓とか呼ばれておるが、今は奴隷紋の縛りのおかげでレイショのメイドとして仕えておる。

 The Princess Of Darkness のイニシャルを取ってポッド等という略称で呼ばれておる。……断じてティーポッドではないぞ。

 ちょっとだけワシがなんでこんなつるぺたすとーんな図体でメイドをしておるのかについて記録しておこうと思う。


 ワシの城で戦ったときな……レイショのスキルを鑑定した時に、ワシと同じスキルを持っているから瞬間的に気付いたのじゃよ。

 こいつが当代の勇者で、わしはコイツに負けるということに。

 だが、無駄だと分かっていても、戦いをから逃げるわけにはいかなかった。

 それが魔王マニュアルに書かれた我の役割だったのだから。


 昔々と言っても、二〇年位前じゃが、ワシが魔王に就任した時に魔王城の椅子の裏にとある本が隠されていたことに気づいたのじゃ。

 魔王マニュアル、それが歴代魔王に受け継がれてきた魔王の役割と振る舞いを記載したマニュアルじゃった。


 そこに書かれていたのは、四天王の選任方法、戦力の増強方法のコツ等の細かなことから、歴代の強い魔王と弱い魔王の違いまでたくさんじゃ。

 歴代でも強かったと呼ばれた歴代の魔王は、鑑定しても効果の分からない変なスキルを持っていたそうな。

 そのスキルとは、ワシも持っているスキルリンクと呼ばれるスキルじゃ。


 鑑定AAAでもスキルリンクの詳細は判定できないという異例中の異例。

 今のところ何なのかよくわからないスキルなのだという。


 ちなみに歴代勇者も皆スキルリンクというスキルを持っている。

 これがあるおかげかわからないが、勇者の強さは魔王を凌駕していることがほとんどらしい。


「魔王が勇者と戦って勝つためには、勇者に近づく必要があるのかもしれない。強さだけでなく、仲間との絆、絶大なカリスマなど、また最低限純粋な強さが必要だと思われる・・・・こと、思われる?じゃと?未確定要素を堂々と書くな。ノイズになるわ」


 そしてページをめくると、歴代魔王のスキル詳細が書かれている。

 確かにスキルリンクを持つ魔王は圧倒的にスキルが多い。

 ワシと同じく百を超えるスキルが、高ランクで並んでいる。

 スキルリンクを持たぬ魔王は、多くても戦闘系に偏った二十程度のスキル、それでも当時の魔王軍では最高峰の強さを誇れるのだ。


 しかし、スキルリンクは異常中の異常……最低でも百以上のスキルがあるのが普通じゃ。

 これは研究しがいがあるな。


「勇者もこれ持っているんじゃろ?捕まえたら徹底的に比較検証をしてくれようぞ」


 それからはスキルの研究に終始しつつ、軍事力の拡充に動いた。

 そして、ワシの強さに感心して屈服する魔物が多ければ多いほど、ワシの力やスキルが増すことが分かった。


 スキルリンクの正体は、『信仰心』それがワシの考える答えじゃった。

 それを実証するために、魔族領となっている森の中にある村や町に自分の像を作らせた。


 魔王の信者と像のおかげで信仰も集まり、段々とワシの演説に参列するものが増え、スキルもステータスも強化されていった。

 そしてスキルの数が百を超えたころ、充分な戦力が整ったとして世界に向けて宣戦布告をした。


 それから一年……ワシは勇者レイショに討伐され……いや、とある方法で魔力を封印され、奴隷紋によって身体能力も人間の限界値程度に制限された。


「勇者レイショよ。見事だ。ワシはもう立ち上がる力も残されておらんよ……」

「魔王よ。最後に言い残したことは有るか?」

「あぁ、そうだな。心残りと言えばワシとお前の共通スキルのことか」

「スキルリンクか」

「そうじゃ、魔王はそのスキルの詳細を知らぬ。それを知るために魔王をしていたともいえる」

「あぁ、それを知りたいなら俺の仲間にならないか?」

「仲間に?」

「そうだ。さすればいずれわかろう」


 そしてわしは知識欲に負けた。

 奴隷紋を刻まれ、魔王としての力を四天王の体に分け与えてから、勇者たちが封印した。


 分け与えた魔力は今も四天王とともに魔王城から離れた祠に眠っている。

 それを王都にいる宮廷魔導士たちが定期的に魔力を使って封印し、魔王としての力を使えなくしているのだ


 さて、昔話はここまでにしようか。

 それから一年ほど、未だスキルリンクの詳細は分かっておらんが、日々楽しく過ごしている。

 メイド仲間たちもできておるし、レイショとの激戦で失ったスキルや魔力を徐々に回復できている。

 理由は知らぬが、持っていなかった家政スキルがやけに伸びているが、メイドをするのにはとてもいいスキルだから気にしないことにしておこう。

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