第12話 布石の効果
儲け話の布石として用意していた教育用奴隷は概ね好評で、彼女らの教育した奴隷たちの中には富裕層市民の妻になったり、小さな商店の経理担当として役職を与えられたりと人生を好転させた奴隷も居た。
十軒の奴隷商人を回ったが、いずれでも基礎教育セットとポプリも注文が入って今日だけで金貨一枚程度の儲けになりそうな勢いだった。
村に帰ると、在庫を増やすために村の職人に教育セットとポプリの追加発注をした。
ついでだからレイショ騎士爵の焼き印やスタンプを作って貰い、レイショ領の特産品として売り込む商品には焼き印を焼き込んで回った。
戦後で徐々に平和を取り戻しつつある現在、子供は増えることはあれ減ることはないからな……教育需要はかならず来るさ。
そして各地の奴隷商人を回っていると、俺が奴隷商人になる時に儲け話に乗ってこなかった奴隷商人が話しかけてきた。
「あぁ、レイショさん。ちょうどよかった。
最近ボンド達一部の奴隷商人の滅茶苦茶羽振りがいいんだが、何か知らないか?
と言うか、多分レイショさん絡みだろう?」
「あぁ、そうだな俺絡みでとても簡単で金がかかるが儲かることをしている。
ボンド達はな、俺の言うことを聞いて奴隷を大切に扱っているから売値が上がるんだ」
「具体的に教えてほしい、情報料なら出す」
よし、これを待っていた。
こいつにもまずは奴隷を健康で清潔に保つことを教え、それから教育係を付けて読み書き計算と家事全般ができる奴隷を貸していると教えた。
「それで売値が五倍から十倍か……本当に?」
「では、例え話をしよう」
そういって村特産のリンゴを二つ取り出すと、相手に見せた。
「この林檎にいくらの値を付ける?」
「そうだな、両方とも銅貨四枚かな」
「では、こうすればいくらの値を付ける?」
それから俺はテーブルに林檎を置き左手に盛った林檎をハンカチで磨き上げ、右手に持っていた林檎に泥を付けて並べた。
「なるほど。中身が同じ林檎でも、磨いた方なら銅貨六枚出せるが、汚れた方は一枚でも買わないな」
「そうだろう?清潔に保っただけでも奴隷の価値はいったん上がる。
さらにここに付加価値を付けて、アップルパイやジャムに加工すればその価値は銀貨一枚程度にまで上げることが可能だ。
この付加価値が、読み書き計算に家裁などのスキルだな。
奴隷の売り先が羽振りのいい冒険者や商家に代わるんだ。
更に今では、跡取りのいない老農家や食堂なんかの養子や商家の嫁候補などにも需要がある」
「そこまで価値が変わるなら、もはや今までの奴隷ではないな。
ふむ確かにもうかりそうだ。
よし、じゃあうちにも教育奴隷一人欲しいのだが、借りたあとどのくらい教育すれば売れるレベルになるんだ?」
「毎度。教育なら一般の家事ができるレベルなら二~三ヶ月かな。
ただ貸し出し奴隷が今不足してるから、教育係に出来そうなやつを借りてうちで教育ののちに返すことになるがいいか?
それまでに風呂とトイレをきちんと整備しておくんだぞ」
「分かったよ。高い先行投資になるが、リターンが見えているとやる気が出るよ」
彼のキャラバンからも教育奴隷と、うちの補充メイドを仕入れてきた。
その他に数軒回って同じような契約をしてから、教会によってお金と教育セットを寄進をしてから教会にある転移の魔法陣で奴隷ごと家に転移をする。
数人預かった奴隷に部屋をあてがい、シノとナギに風呂に入れさせるようにいいつけてから、部屋の使い方などを教えるように頼む。
ポッドに報告に行くとようやく一回目の定期連絡ではない緊急連絡が来ていた。
「お前さんよ。トルメから連絡が来ておるぞ」
「よりによってトルメからか。手紙にはなんと?」
「スコットの独り言を確認。
『今夜、事に及ぶ、順調、新魔王様』最小限の情報だけ伝えろと言っても、マジで簡易文書じゃな。
にしても新魔王?ワシはまだ死んでおらんぞ」
「そうか、スレイではなくスコットが黒幕か。
俺が居なくなって気を抜いたんだろうな。
ところで、魔王が封印されても新魔王は誕生するのか?」
「普通はせん。お主も知っておろうが、魔王はとあるスキルを持って産まれ、配下を増やすことで名乗れる特殊な役職じゃ。
お主の勇者と同じようにスキルを持ち、時間をかけて周りに認められて初めて魔王になる」
ポッドはよほど気に食わないのか、食べていた試作品のドライフルーツをばりばりと砕いてからベッドに腰を下ろした。
「魔王・勇者のスキルはレアすぎて一代に一人しか発現しないと言われておるし、仮に発現しても強さを示す機会がなければ意味を成さん」
「俺も戦える環境にあって初めて意味を成した。
奴隷のままならスキルの持ち腐れだったもんな」
「だから、魔王が封印されても新魔王は産まれないのだ。
勝手に名乗っている愚か者が居るだけじゃ」
「後はそれが誰か突き止めるだけだな」
さて、そろそろ日が沈むからと追加注文分の製品ができたら連絡をもらえるように言いつけ、スレイの家に戻ろうとした。
「あ、ちょっと待って。村の職人から、若手とかにも文字や計算の教育させたいとの話があってな」
「それについてなんだが、教会に学校を併設してみてはどうだ、子供たちは昼間、職人は夜に読み書き計算を教える」
「それで行くのが安定かの。しかしそうすると屋敷を回すメイドにも余裕がなくなる。
だから、今日連れてきたメンバーの基礎教育を終わらせてからじゃな。
貴族対応訓練は……ワシがちょっとは教育できるが、お前さんほどではないからなぁ」
「そこは気にしなくていい。今日のメンバーの多くは奴隷商人に返す奴隷今日いう用の教師として借りてきたからな。
まずは教育係と一般メイドから育てて、適正次第で対貴族教育も施して貸し出しにする。
あと、村からメイドに志願したいという女性がいる場合は、そっちで面接して雇ってもいい」
「あぁ、承知した。では気を付けて言って来いよ」
その翌日は村での用事を済ませてから、スレイ男爵家の部屋に転移してこっそり外に出て、表門から帰宅した風を装った。
翌日は騎士団の指導をいつも通り行うのだが、基礎トレーニングはもう隊長たちで行えるようになってきているので、指示はおまかせして一般兵卒と一緒にトレーニングをすることにした。
騎士たちの装備は若干軽量の革鎧の上にチェインメイルだが、俺は魔王討伐時に着ていたフルプレートメイルでかなり重く、馬に乗れる限界重量だと思われる。
それを着て最後尾から先頭まで追い抜き周回遅れにまでしたて度肝を抜いたのだが、「筋力Bでも鍛えれば君たちが今着ている鎧でこの位の体力は付く」と説明したらみんなやる気になったようだ。
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