第10話 騎士団訓練

 それからは訓練用の片手剣とカイトシールドを装備させ、隊ごとに素振りをさせた。

 その中で素振りの型の崩れている兵士には正しい振り方と、力の入れ方のコツを伝授していく。

 指導は剣の持ち方、盾の持ち方、振り方に受け方を多岐に渡るため、時間はかかるが一人ずつ指導していく。


 それを全員にほどこしていく間、見学も仕事だと言って直立不動のまま見てもらう時間も作る。

 これも訓練の内だ、人の動きを見ることは防御時や自分の方の直しに使えるのだ。

 式典の間なども動かずにずっと立っているという時間もあるため、今のうちに慣れてもらう。


「今日の訓練はこの辺りで終わろうと思う。

慣れないことをしたから疲れもあると思うが、きちんと装備を手入れして充分に体を休めてくれ。

さて、俺に何か質問はないか?誰でもいいぞ」


 そういうとちらほらと手が上がったので、その人には前に出てもらって質問をした。


「失礼します!一番隊新人兵士のタッパと申します。

自分は槍兵の志願なのですが、今日は何ゆえにショートソードの型を訓練したのでしょうか?」

「いい質問だ。それは複数の武器を状況に応じて使いこなせることが有利となるからである」

「それは理解できます。しかし、ショートソードと槍では振り方なども違います」

「では逆に聞こう。槍が使えるのはどういう状況だ?」

「はい、主に平原などで魔族などと対峙した場合です」

「うむ、しかしそれは広い屋外でのことだ。

そして、魔族は魔王封印とともに活動が不活性化している。

つまり君たちは、今までの隊魔族の戦い方だけでなく、『対人』を意識した訓練が必要となる」


 タッパと言った若手の兵士だけでなく、全員がハッとしたような顔になる。


「対人であれば室内、特に廊下などの狭い場所で戦う場面も増える。

その時に長物の槍だけで戦うことは不利となることが多いだろう」


 狭いところで長物を使うと突き以外の行動がほぼ封じられるから、太刀筋が読まれやすいのだ。


「その点、今日の装備であれば狭い通路でも十全に効果を発揮できるだろう。また、槍が壊れたり重い獲物を持ったりすることが困難な疲労状態でもショートソードなら振れる状況も多い。

弓やハンマー、斧も同じであるショートソードほど屋内では役に立たない。

だからショートソードには絶対に慣れてもらいたいのだ」


 それからもいくつかの質問に答えて、今日の訓練の合理性を感じてもらった。

 いつの間にか後ろに来ていたスレイも、「俺も昔ショートソードを叩きこまれたよ。でも斧が便利すぎて鈍っているかもしれない」と呟いていたな。

 だから稽古を含めてタイマンで一試合したが……うん、まだ衰えてはいないな。


「明日からは装備無しでインターバル走をして、その後に装備をつけて他の武器の修練とする。

部屋に戻ったら柔軟をしっかりと行うこと!それでは解散!」


 その日、夜は泊まって行けと言われたのでメイドのゲスト対応の為の訓練相手をしつつスレイと談笑をしていたところ、執事を名乗る男が挨拶にとやってきた。


「所要で屋敷におらずご挨拶が遅れました。

スレイの秘書スコットでございます」

「レイショ紹介するよ。コイツはスコット。

前任のコセイ男爵時代からこの屋敷に仕えている秘書だ。

この男爵領周辺に顔が利くので重宝している」

「音に聞く百才の勇者レイショ騎士爵に騎士団を指導いただけるとのこと、幸甚の極みでございます。

これまでは私が騎士団の管理をしておりましたが、なにぶん武家の出ではありませんので新兵の指導は各隊長に任せきりで難儀していたのです」

「そうなのですね。

隊長や一部の古強者とそれ以外の兵卒では練度に差があると感じていましたが、手が回っていなかったのですか」


 魔族との戦争で相当数失ったのだろうな……そもそも、コセイが予算を絞っていたのか修練場すらボロボロだったようだが。


「しかし、ご安心下さい。私は騎士爵をいただく際に後進の育成も可能な限り尽力するようオーシス国王陛下より王命を頂いております。

その第一歩としてかつての仲間であるスレイ男爵に騎士団の育成を手伝わせてほしいと志願した次第です」

「それに、メイドさんも未熟なメイドの指導員としても借り受けている。

兵士と違ってこっちは経験者がかなり少ないからな」

「なるほど、道理で見たこと無い新人の割に身のこなしが洗練された者が居るのですね」

「ちょうどいいから紹介しよう。ふたりとも、こちらへ」


 そう言って、ラフィットとトルメを呼ぶ。


「顔合わせは終わっているかと思いますが、改めてご挨拶を。

弊家の貸し出しメイドのラフィットとトルメです」

「トルメでございます」

「ラフィットと申します。男爵家に置いていただく間は直属のメイド同様に扱っていただければと存じます」

「とは言え、貸し出しである以上、正式には私の管理下にはありますので、念の為盗みや逃亡を図らぬよう奴隷紋を付けて管理はしております。

メイド服に隠れて分かりにくいため、代わりにレイショ騎士爵家の家紋を刻んだ指輪を右手につけております」


 そう言って、右手の薬指に付けた通信の指輪を見てもらった。

 これで顔合わせは終了だ。


「左様でございますか。お心遣い感謝いたします」


 あとは俺の部屋に案内されて横になるふりをした。

 自室のベッドの中にマジックバッグから取り出した転移の魔法陣の書かれた布を広げる。


 用意していた人形をベッド仕込み自分自身に睡眠の魔法をかけ一時間ほど寝る。

 これは密偵メイド達にも教えた魔法で、一時間の睡眠で二、三日眠らなくても活動できるようになる魔法だ。

 反動は解けた後に丸一日寝るほど辛くなることだが、潜入やここぞという時の戦闘の前には重宝する。非番を調整すればデメリットも問題ないはずだ。

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