第7話 メイド教育第一陣修了

 防虫ポプリは量産が簡易だったので、村で売り出したら値段の安さと香りを楽しめるということで衣服の目的だけでなく部屋の消臭や食料の子の防虫などで即日大ヒット、ポプリのセットは近隣の村にも広がり、村の一大産業となりそうな勢いだ。

 更に、子供たちに針子の仕事の訓練もでき、孤児院の運営費用にもなるとシスターからも好評をいただいている。


 これだけ需要があるのから量産体制が整えば、この辺境を中心にポプリの価値は上がるだろう。


 それと同時期に基礎教育セットが出来上がり、それを使って基礎教育をやり直すと、読み書きのできなかったシノたちノーキャップ組メイド達も全員文字の読み書きが出来るようになり、計算も……掛け算は怪しいが足し算は十分使えるレベルになった。


 三ヶ月目には奴隷への教育が出来るレベルにまでは育ってきたから、ここからが本番とも言える。

 この教育セットを教会にも寄進することで、学校に満足に通えない孤児やそこに集まる庶民階級でも教養が上がると期待される。


 寄進への布石として、まずはシスターカルネに話を通す。


「シスターカルネ。この度はシスター長への就任おめでとうございます」

「ありがとうございます。

ようやく修行者の期間が終わって結婚が許されましたが……もうこの年齢だと相手が見つかりませんね」

「それはお互い様ですよ。

私も勇者を引退したのに女っ気がなくて仕方ありません」

「でも、たくさんのメイドさんに囲まれて居るのでは?」

「彼女達はメイドですからね。

基本的には主と恋愛関係や結婚は致しません」

「そうなんですね。なら、わたしも立候補できたりするのかな」

「シスターカルネさえ良ければ、いつでもお待ちしていますよ」

「相変わらず口が上手いですね。

それで、ご相談というのは?」

「えぇ、こちらの教会に併設されている孤児院の教育を手伝わせていただけないかと……」


 それから、俺は基礎教育セットを見せながらメイドたちのことを話した。

 便宜上、奴隷として雇っては居るが読み書きと家政、計算の基礎の教育者として育てていること、その一環で子ども達へ実際に教育をして人に教える教師としての素養を養うことなどを盛り込んだ。


「それは願ったりかなったりです。

シスター適性のある人も志望者も多くないですし、お給金も出ないからお世話係の候補も少なくて、お手伝いいただけると助かります」

「では、その方向で話を進めさせてもらいますね」


 この頃になると屋敷の掃除などの監視のヘッドキャップ組一人に二人ずつのノーキャップ組でチームを数組作ることで、屋敷の仕事はほぼ回せるようになってきたので、ルーティンで休みや教会の手伝いに向かわせた。


 更に貴族への対応を学ばせるため、俺は騎士礼装、ポッドはドレスを着て主人とお客様を扱う訓練に切り替えた。

 あと一ヶ月もすれば貸し出して恥ずかしくないメイドになるだろう。


 別に本格的に素質があり、密偵として扱うラフィットやトルネ達五人には、通常業務に加えて別プログラムを課してある。

 家政をしながら、俺とポッドがたまに漏らす意味深な話しをメモして夜に報告に来る訓練、それと一部の生活魔法の訓練だ。


 密偵がバレたり間違っていれば罰則として翌日スカート丈を五センチ詰め、合っていれば褒美として五センチ伸ばしてよしというものだ。

 トルメは何度かわざと失敗して膝上十五センチを維持していた。

 何が気に入ったのか、手芸の修練中に自作のミニスカメイド服を作り、うちでは採用してない動物の耳の付いたヘッドドレスを自作していた。

 あれは完全に趣味だな。


 そして、いい感じに家政と子供への教育ができるレベルに達した十人の奴隷を商人に返すことにした。

 彼女らにはメイド服の返却を願うため王都で好きな服を買って貰い、着替え数着と基礎教育セットと教育指導要領のメモ、多めにポプリ修了祝い代わりに持って帰ってもらい、元いた奴隷商人に帰還してもらう。

 みんな、国中で宣伝してくれよ。


 そして、ラフィット、トルメを筆頭に、シノやナギ達ノーキャップ組が全員ヘッドキャップ組となった。

「よし、よくここまで育ってくれた。

生まれの卑しいものでもキチンとしたメイドになれると君達は証明した、俺はそれがとても嬉しい」

「ありがとうございます。ご主人様」


 そうして全員に真新しい髪飾りと髪を梳かすための櫛、あとは基礎教育セットとポプリセットをプレゼントしてから、貸し出しメイド達には奴隷紋を施すことにした。

 奴隷紋は専用のインキに主人の体液を付与して繋がりを作るが、使う体液は血でも唾液でも問題ない。


 貸し出す奴隷の多くは一般的な胸元に奴隷紋を刻んでいく。

 インクを塗って魔力で焼き付ければ完成だし、これによって正面から見ただけで奴隷だと分かるのだ。

 ただ、密偵として送り込む場合、万が一密偵行為がバレるた場合に拷問されかねないし、無理やり奴隷紋の解除されてしまう可能性もあるから偽装を施すため、スパイの五人は夜に別室に呼び出した。


「密偵組集まったな」

「はい、ラフィット以下五名揃っております」

「君達は昼間、胸元にダミーの奴隷紋を焼き付けた。俺の血が入っていないダミーの奴隷紋だ。

これから刻むものが本当の奴隷紋となる。

ダミーとは別の場所に刻ませてもらうので、一人ずつここに寝てくれ」


 彼女達は順番に並び、俺の目の前にあるソファーに寝そべってもらう。

 彼女達はもう俺の奇行程度では質問すらしない。

 女性用下着だけの俺を見ても驚かなくなるほどに、完璧にメイドに順応していた。

 ……これは趣味ではなく、そういう貴族につくことがあるからと買って来たものだ。


「横になったら力を抜いて口を開けてくれ」


 そうして上の歯の内側いわゆる口蓋部分にポッドと同じ新型奴隷紋を書き込む。

 舌から口の中を覗かない限りバレることはない。


 そして書き終わった後にラフィットの口を自分の口で塞ぎ、舌の先で奴隷紋に触れながら魔力を流し込んで焼き付ける。

 この奴隷紋の凄いところは強固さだけでなく、俺の転移のマーカーになること、精神異常などの耐性も高まることだ。


「旦那様……お戯れはおやめ下さい」

「すまないな、この新型奴隷紋には二人分の体液を高密度で混ぜ合わせるから口の中や、傷口を作ってお互いの唾液や血を混ぜるしか無いんだ。

血は感染症が怖いからキスが一番確実で早いのだ」

「事情は理解しました。しかし、初めてでしたのよ」

「そう言うな、潜入したら夜伽とかするんだぞ?」


 後ろからトルメが話しかけてきた。


「旦那様、そう言えば私達は夜伽の訓練は受けておりませんね。ついでだから、そっちの初めても貰ってもらえますか?」

「しかし、初めての方がいいって貴族も居るからな……」

「そのために旦那様の高ランクヒールが有るのではないですか。

我々の体表の傷が消せるなら膜の再生くらい可能でしょう?」

「それはできるだろうが……」

「そうと決まれば旦那様のベッドルームに移動しましょう?

これから毎晩研修ですからそのつもりで」


 やれやれ……嫌がるかもとやって来なかったが誰もそんな気配は見せないな。

「そもそも、知らない上に愛してない男が初めてなんて吐き気がしますからね。

旦那様なら何回でもやりたいくらいですよ」

「それはうれしいが、まずは奴隷紋を全員に刻む。

トルメ、次はお前だぞ」

「はー……んぐっ」


 と言って、不意打ちでそのまま唇を重ねる。

 口にインクを含めば筆で書かなくても作れるのがこの奴隷紋のいいところだ。

 じゃないと、不意打ちで魔王を奴隷になんか出来るものか。


 そうして五人ともに奴隷紋を刻んでからそのまま夜伽の訓練を始めた。

 最後に全員にヒールをかけてその日は眠りについた。

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