第3話 開業許可証

 それから半月、改めて王宮に呼び出されて褒章が確定した。

 目録もムセイと交わした草案の通り契約と相違ないものだった。

 表向きと裏の契約書にも瑕疵はなく、双方納得した上でサインし、マジックバッグに放り込んだ。

 旧ヴィゾン騎士爵邑とその屋敷は前倒しで下賜いただいていたが、それに加えその周辺の森の権利、及び奴隷商人の開業許可、褒賞金で金貨五百枚(ざっと近衛騎士の年収二十年分の金貨)の手形だ。


 現金で貰うと扱いが大変だから、手形にしてもらった。

 この手形と身分証があれば近くの街の銀行から現金を引き出すことが出来る。

 それから俺自身の口座や商人としての法人口座に振り分けることになる。


 表向きは奴隷商人として、裏では王家直属の諜報機関として、俺のセカンドライフは動き出した。



 王城を出た俺が始めにやったこと、それは挨拶回りだ。

 各地の貴族に手紙を出し、アポイントメントを取って顔合わせをする。

 そして、元勇者の力が必要であれば騎士として馳せ参じると顔を売った。

 手土産で金貨百枚ほど使ったが、先行投資だから仕方あるまい


 その後、馴染になった奴隷商人達に顔を合わせ、同業者としてやっていくことを宣言した。

 その関係で彼らの商品の中から、俺の鑑定スキルを使って良さげな奴隷を何人か購入した。

 顔見知り中にはお祝いで何人か奴隷をプレゼントしてくれる気風きっぷのいい商人も存在したので、そいつ等は儲け話に誘うために、後日で行われる決起パーティに招待することにした。


「では!勇者レイショもとい新人奴隷商人レイショの旗揚げに!乾杯!」

「「乾杯!」」

「それで?レイショよ。儲け話ってなんだ?」

「それはだな……その前に。サイレンス、ブラインド。

よし、みんな今から話すことは極秘中の極秘だ。

知った後に手は引けないし、口外したら最悪命を取りに行く。

それでも良いやつだけ残ってくれ」


 数人しか居ないが取り敢えず同意だけ取らないとな。

 やはりだが誰も退席しない。

 肝の座った奴らしか呼んでないから当たり前か。


「レイショよ。貴様の性格を知り尽くした我々に脅しは効かない。

ここで逃げるようなやつは最初から呼んでないだろう」

「思えばこの十年、貴殿の無茶やわがままは相当聞いてきましたからな。

そのおかげで奴隷たちの栄養状態は良くさせられるわ、湯を用意して清潔にさせるわ」

「うちのキャラバンには医者まで常駐だからな。

本当に金ばかりかかって大変だった」

「まぁ、そう言うな。そのおかげで奴隷たちの売値は何倍にも伸びて、結果的に儲かっているだろ?」

「まあな。付加価値って奴がこんなに金を生むとは思わなかったよ。

んで、次は何をして儲けさせてくれるんだ?」


 命より金。

 金が金を呼ぶなら多少のコストは被るのがコイツらだ。

 ダーティな仕事人はこうでなければな。


「俺はこれから私設の諜報機関を立ち上げるんだ。いわば情報屋だな。その諜報員として、奴隷教育してから諜報員として使う計画を立てた」


 ここではムセイに話した内容を少しアレンジして話した。

 メイドや騎士を貸し出して、領地ごとの小競り合いなどの兆候を掴む。

 そして、貴族の小競り合いやコマとしての犯罪奴隷や戦闘奴隷を欲している情報を得たら、ここに居る他の奴隷商人に情報を流して効率よく売りさばくという感じだ。


「なるほどな。魔族との戦争が終結し、各地の小競り合いも減り始めた。

これからは人間同士の戦乱の時代だ」

「転移で国中どこでも行けるお前の方がその手の情報は早いのは道理だな」

「教育もあるから始動は先になるが……まずは俺の領地教育施設を作り貸し出しを始める。

ゆくゆくは王都に小さいながらも奴隷貸し出しの窓口を作って派遣する予定だ」

「紛争が始まりそうなら、いっそ両方に売れば二倍儲かるな」

「死の商人か……だが悪くないな」


 本当に金のにおいには敏感だしもう儲ける方法をもう考えているのか。

 こいつらは敵に回さない方がいいな。


「あぁ、情報料は金でもいいし、なんなら良さげな奴隷を安く提供してくれるなら勉強させてもらう」

「ついでと言っちゃなんだが、レイショよ。

教育済みの奴隷メイドが出来たらうちにも貸してくれ。密偵じゃなくてもいい」

「あぁ、そのくらいは構わんよ」

「助かる。産まれながらの奴隷は家政が出来なくてな。

読み書きと計算、礼儀作法、料理、掃除、洗濯まで出来たら銀貨五十枚は付けられる」


 銀貨十五枚で大体男爵家に仕える騎士の一ヶ月の給与程度だ。

 ちなみに、銀貨は一〇〇枚でおよそ金貨一枚分になるから、手当込みで年に金貨二枚くらいになる。

 両替レートは日々変わるからおよそではあるが、この国内に限っては銀と銅の産出が安定しているから、下の通貨はあまり大きな変動はない。

 代わりに金は希少なので他国に比べて金貨一枚の価値が高い。

 そのせいで銀貨支払いの機会が増え、持ち運びに苦労するからと、王家は独自の中間通貨の大銀貨(約銀貨十枚分の価値)を作ったりもしている。

 他国との貿易が活発化するからこれからは金相場も乱高下しそうだが、今はまだそこまでに至らない。


 買取なら騎士の給与三ヶ月分となると結構な額になるため、富豪以上しか買えないが、月賦も効くため見栄を張って奴隷を買い、支払いが滞って借金奴隷になる小金持ちもいる。


「家事手伝いができないなら、マジで娼館に卸すくらいしかなくて安いんだよな」

「そこに気付いてくれたか。

お前らのところはとにかく、俺と付き合いのない奴隷商人は奴隷の扱いが悪いからな。少なくとも人間として働ける場を作ってやりたかったんだ」

「フン、貴様の理想論に興味はないヨ。

だがね、一山いくらで買った奴隷が、『育てるだけで金の卵』になるならやるだけさ」

「教育すれば高くなる。

しかし家庭教師は貴族様に教えること出来る人間くらいしかいないから足が出るし、逃げ出す可能性があるから学校なんかに通わせるのも難しい」

「教会も俺等には厳しいからな。

だからといって暗殺ギルドに頼むと必然的になんだかんだ密偵にバレ、監視される。

だから安全な『お前が教育したメイド』を教育者として貸してほしいのだよ」


 そう、暗殺ギルドに関わりたくない商人は多い。

 実際はスラムなんかに睨みを聞かせるために暗殺ギルドやその街の裏組織に場所代は払っているが、それ自体は警邏も脅されて払っただけだと黙認している。

 しかし、仕事の依頼となると別だ。

 それが暗殺等ではないトラブルの解決や家庭教師であっても、関係者として取り調べを受ける。


「そう言うだろうと思ったさ。

と言うか、今日貰った女が二人ずつなのはそのための投資だろ?

一人やるから一人は教育してから返せと」

「あー、いやいやそんなつもりは……あるに決まってんだろ」

「よっしゃ、決まりだな。

教師に使えるレベルにするなら数か月かかるが、必ず返す。

貰った方は俺の私設密偵として仕込むぞ」

「構わんヨ。それすら金を産むのだからネ。

せっかくの女だ。たっぷり産んでもらおうじゃないか、金の卵をネ!」


 ということで、奴隷商人達との契約はその場で結ばれた。

 お互いが持てるようあらかじめ二通ずつ用意した契約書を読んでもらい、相違がなければサインと魔力割印を施した。

 契約者二人の魔力までは偽造が難しいため、よく使われるのだ。

 割り印を合わせて魔力を少し注げば真偽がハッキリとする。


 それからはただの宴会だ。

 飲めや歌えやで金貨一枚と銀貨を五〇枚も使った。

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