第2話 魔王封印の褒賞と悪だくみ
さて、過去の話はいったん置いておこう。
俺はオーシス国王陛下に冒険と魔王封印の詳細を話した。
これまでの旅の内容も、大きな事件があるたびに報告していたので、実際は魔王城突入から封印までの内容を一部だけぼかして伝えた。
「討伐ではなく封印なので、褒賞に関しては少々ランクを落とさざるを得ない」
と言われたが、一時的にでも平和をもたらしたと言うことで勲章と褒美が与えられることとなった。
「さて、魔王も今はいない。そうなると勇者としての任を解かざるを得ない。
しかし、貴殿らのような個人でも一個師団並みの突出した戦力を野放しにするのは国としても損失となる。
故に男爵位などを与えて国に貢献してもらうか、王城仕えとして召し抱えるのが通例となっておる。
好きな方を選んでほしい。無論、他の褒美でも相談次第だが許可する」
過去の勇者たちには領地を貰える男爵や辺境伯を拝命して領主になったもの、宮廷魔術師として後進の育成を行う者、騎士団では受けられない王都近辺以外のモンスターの討伐をメインとする冒険者ギルドを設立したもの等もいる。
仲間たちも例にもれず、宮廷魔術師や男爵位を拝命したいとの申し出をした。
俺は……
「臣は旧ヴィゾン騎士爵邑を頂きたく存じます。
臣自身の出身地であり、思い出も多い土地でございますれば、亡きヴィゾン騎士爵に代わり自身で管理させえていただきたく存じます」
「しかし、そこは仲間の戦士スレイに与えられる男爵領の一部ではないか?
褒賞には少ないのではないか?
もう少し大きな領地でもよいのだぞ」
「恐れながら申し上げます。
臣は爵邑を拠点に奴隷商人を開業したいと考えています。
そして、スレイ男爵に仕える騎士爵として、村を管理する村長として、そしてこの国での奴隷たちの地位向上を主とした奴隷商人になる予定です」
王城はざわついてしまう。
元勇者が奴隷商人になるという例はない、それに騎士爵を持つ奴隷商人などいない。
異例中の異例なのだ。
「何ゆえ奴隷商人を開業したいと申すか」
「はい、王はご存じのことでございますが、臣は元々奴隷の身でございました。
しかし、ヴィゾン騎士爵に見いだされ、良き仲間を得てここに勇者として凱旋いたしました。臣の仲間には元奴隷も多数居ります」
そう言って後ろに控えるスレイらをひと目見た。
スレイも元は借金奴隷として売り出されていたが、俺の鑑定スキルで才能を見出して手に入れた男だ。
「臣の仲間にも臣が仲間にするまでは衣食にも困窮する良い生活は送れていないものもございました。
しかしながら、今では貴族の軍団長や先ほど爵位を拝命したものもおります。
生まれの卑しさにより隠れた才が埋もれては損失ゆえ、その才能を見出し我がスキルにて鍛え上げ、必ずや国王様ひいてはこの国のためになる人材に育て上げたく存じます」
「あくまでも国のためと申すか……だが、貴殿らは生まれの卑しい者でも勇者たり得ると証明している……。
うむ、即答は難しいゆえ、政務官ムセイよ、勇者レイショと話し合い仔細を報告せよ」
「承りましてございます」
そして、謁見は解散となり、謁見の間に入れなかったメンバーである俺の侍女を連れ、政務官との打ち合わせに移動した。
「そんで?レイショそれにお前何始める気だよ?
っていうか、隣の女は何だ?隠し子か?」
こいつは政務官のムセイ。
レイモンド子爵の四男で、ムセイが家出中に出くわしたとある事件を解決した際についでに助けてから懐かれた。
悪いやつではないが、レイモンド子爵家まで行く途中でリッチーを倒すのに連れ回したり、モンスター退治を手伝わせたりしたら、もともと才能のあった聖属性魔法と看破スキルがAA-まで育った。
そのおかげで審議官を経て王宮勤めの政務官にまで大出世を遂げていた。
「こいつは封印した魔王のプリンセス・オブ・ダークネスの
さて、こいつはどうでもいい。
これから俺が作ろうとしているのは今の意味での奴隷商人ではない。
専門職の紹介予定派遣業、ジョブトレーニングを積んだ……」
「待て、呆れて反応が遅れたが、その少女が魔王の残滓だと?
そんなもん連れてきて大丈夫なのか?」
「大丈夫だ。ポッド、舌を見せてごらん」
そう言うと隣にいた魔王の残滓は、自分の舌を見せる。
「不本意だがこの通りだ。
まったくこんなことをする勇者は初めてだぞ」
「これが最新型の奴隷紋だ。
魔王の残滓ですら解除できないほど強固に縛っている」
「相変わらずぶっ飛んだことしてんな。
取り敢えずこの娘の件は秘匿なんだろ?」
「そうしてもらえると助かる。
魔王は魔力を吸いだしてから封印したから、ポッドにはほとんど力は残っていない。
せいぜいリッチーロード程度の力しか出せないから安全だ」
「リッチーロードなんて普通は街ひとつ一人で落とせる過剰戦力だぞ」
「たわけ。せいぜいアンデッド数百体だぞ。
ワシは百万を超える魔族を従えて顎で使っていたのだ。文字通り桁が違うわ」
ポッドは口は悪いがそそくさとお茶を入れながら返事し、メイドとしての姿勢は崩さないという器用さを見せた。
「戦闘系のスキルは何もかも俺の許可がないと使えなくしているし、無理矢理解除したら自爆するし、俺に通報が行われる大丈夫。
今だとただの力の強い女の子だよ。まぁ、魔王に性別があるとは知らなかったが」
「さよけ」
左様かで済ましてくれるところが、ムセイの良いところだよな。
俺を信頼しすぎているフシはあるが、そこはまぁありがたく受け取っておこう。
「話の続きだ、俺が今からやる奴隷商人は正確には専門職の職人の貸出だ。
この国にはまだこの業態は存在しない。
便宜上、奴隷商人となるが、ゆくゆくは庶民や下級貴族の子爵の教育と派遣までを請け負う予定だ」
「へぇ、面白いことを考えたな。
売り先が教育をするのではなくて、教育をしてから送り出すのか」
「あぁ、大規模なパーティの時とか子爵家だと配下の男爵家からメイドや護衛を借りるだろ?
しかし、力不足で粗相をすることも度々見てきた。
だからこそ、訓練されて使い勝手のいいメイドなどはそこに商機があると見ている」
「にしてもよ。この世界で奴隷の扱いなんて知れているだろ。どうやるんだよ」
「あぁ、普通に買い取られると損をするばかりだ。だから貸し出しにする」
「貸し出し?」
ここで俺の考えている制度をムセイと共に形にする予定だ。
「奴隷は俺の徒弟とし、短期間だけ貸し出すことにする。
相性が良く徒弟が望めば、長期貸し出しに移行する。
長期貸し出しをしたものはひと月に一度程度、俺か看破スキル持ちが借主を面談し様子を見る」
「ふむ、それで?それがどうオーシス王国の役に立ち国王に貢献できると」
「計画としてはこうだ」
俺は概要を説明した。
まずは身分の低い男爵家の護衛や騎士、メイドとして派遣を開始する。
一から教育するより安価で身だしなみの整ったメイドや、既に一線級の戦力に仕上がった戦士が借りられるなら引く手数多だろう。
場合によっては総合的な家庭教師としての需要もあるかもしれない。
男爵に始まり、子爵、伯爵、ゆくゆくは王宮まで俺の徒弟は食い込んで行く予定だ。
しかし、このメイド達は働くだけではなく、一部は密偵としても育てていく。
派遣メイドなどに慣れていない領主たちは、自身で雇用した騎士やメイドと同じ扱いをしてしまう可能性が高い。
そうなれば、王家への謀反や悪政、内部の紛争の兆候を掴むことも出来るだろう。
そこに勅命を持った俺の徒弟軍や王都騎士団を派遣して攻め落とし、忠誠心の高い下級貴族を中級貴族に引き上げることで国全体の引き締めが出来る。
「というわけさ」
「ふむ、面白いな。しかし、レイショよその計画は穴もいくつがある」
「そうだろう。だからムセイお前の出番なのさ。
政務官と言う立場なら計画の穴を見つけて埋めてくれると思ってな」
「そこまで織り込み済みかよ。相変わらず食えないやつだな」
「それはお前もだろう?事あるごとに友達権限で何度も呼び出してくれてさ。
レイショの扱いならムセイに任せておけという立場を確保した。
お互い都合がいいから俺もそれに乗った」
「そう、この状況は必然的というわけさ」
それからはムセイと穴埋め作業が始まった。
国営の諜報機関の新設、秘匿役員へのレイショの推薦、及びムセイ長官の就任に始まる悪巧み……。
それらを含めた奴隷管理体制と料金プランの策定だ。
「最低七日、一ヶ月毎の契約更新が初期プランだな。
二年目以降は三ヶ月更新で更新時に面談。最長三年で契約満了後に雇用または契約破棄。
今日の継続は
契約中はレイショの奴隷として貸し出しのため、契約外で傷付けたり辱めたりした場合は損害賠償を行う……。
うむ、細かくなるが草案としてはこれでいいだろう」
「あぁ、三年まるっと借りるより途中で雇用したほうが安い位の金額で貸せば、本当に手に職をつけたい奴隷たちは三年のうちに雇用してもらえる。
その上、四年目以降は借りられないとすれば、買取も増えるだろう。
密偵として育てた者達は雇用を希望せずに帰ってきてもらい、次の密偵を送り込むサイクルを作る。
これで誰が密偵かを分かりにくくするのだ」
ようやくペンを置いたムセイはにやりと笑う。
「本当にいい性格しているなお前」
「そっちこそな」
「まさか旅の間に新型奴隷紋を作らせて、状態異常耐性の高いリッチーやドラゴンまでテイムではなく奴隷として扱っていたとは」
「だが、魔術にたけた当代魔王の残滓すら解除できないんだからこれはなかなかの物だろう?」
「やり過ぎもやりすぎだぞ。
よっし、王様に提出する裏の草案は後で清書しておく。
それと、会議にかけるための表向きの草案もな。
今回は王家直属の諜報機関だから議会の年寄り共にも悟られたくない」
「まぁ、念の為目を通す権利はあるだろ?
お前が俺を裏切るとは思わんが……念の為。
お互い不利にはならなければ問題ないから、気楽にやってくれ。長官」
「はいよ。諜報機関長」
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