百才の勇者は引退して奴隷商人になる

バイオヌートリア

第1話 魔王の封印と王都凱旋

「勇者レイショよ戻ったか」

「申し上げます!勇者レイショ及びその一行、ただ今帰還いたしました!」

「うむ、では戦果を聞こうか」

「はっ!申し上げます!臣は魔王を弱らせましたが倒すには至らず、次善策としての封印に切り替えました。

封印は成功しており、魔法陣に魔力供給のある限り封印は有効になるかと愚考致します」

「うむ」


 ……

 俺の名はレイショ。

 いまでこそ百才の勇者などと祭り上げられているが、元々はヴィゾン騎士爵家で厩番うまやばんとして雇われ、馬とともに寝泊まりしていた元奴隷の男だった。

 厩舎に馬を盗みに来たモンスターを手持ちの道具で退治して以降、戦闘の才を見出され、騎士爵の騎士団での訓練に参加する運びとなった。


 徒弟として、騎士団の下っ端として功績を積み、小隊長となった頃、騎士爵邑の川下の村の皮なめし工場のある場所で警護にあたっていた。

 なめした後の革は防具に使などとても重要な資源なのだが、なめす工程は汚れ仕事なのでこういったあまり深くない河川の下流にある田舎の村で職人と働き手の奴隷を集めて行われるのだ。


 そんな警護任務に就いたある日、宿として部屋を借りている教会で謝礼代わりに無料でスキル鑑定をしてもらえることになった。

 本来なら寄進した者しかてもらえないのだが、この教会は多くの孤児を抱えており謝礼が出せなかったのだ。

 田舎では謝礼が現物支給なのはよくあることだと、その時は気にしてはいなかったのだ。


 実はこの教会にあらかじめヴィゾン騎士爵が寄進をしており、配下の部隊を数年に一部隊ずつスキル鑑定させていたのだそうだ。

 一度のスキル鑑定に十人で金貨十枚程度、俺の年収五年分もの寄進が必要だと言うのに、それを隠したまま部下たちのスキル鑑定をさせていたのだ。

 本当にヴィゾン騎士爵は部下にコストをかけて大事にされる奇特なお方であるものだ。


「今回の部隊は部下の皆様も優秀ですね。以前いらした兵士の皆様の平均的な身体的ステータスはCでした、スキルも同じくCくらいが多かったですね。ですが、今回の皆様は身体的ステータスがBランク以上の方も多く、中にはAランク剣技スキル持ちの方も居ました」

「本当に良い部下に恵まれました。

それにシスター・カルネ。貴方のような素晴らしいシスターにも」

「いえそんな……さて、最後は隊長さんですね」

「はい、お願いします」


 シスターカルネは、鑑定スキルBのシスターだ。

 スキルの詳細までは調べることができないが、相手のステータスが見えるというところまでの能力である。

 Aランク以上であれば持っているスキルの名前と詳細、AAランク以上であれば成長可能性も見ることができる。


「すごいですね。筋力も俊敏も魔力もAランク、家政スキルに至ってはAAA+ですよ。

あ、でも騎士団だと家政はあまり役に立たないかもしれませんね」

「いやいや、野営することもありますので家政を持っていて損になるものではありません。

作戦中においしい食事も提供できます。

食の豊かさは部下の士気に関わりますからね」

「ふふ、そうですね。

おいしいご飯はモチベーションに繋がりますね。

あと、戦闘系スキルだと……剣技、魔術系各種スキル、治療がA+ランク、教化や鼓舞、指揮等が既にAAランクですね。

教化とか教会が一番欲しがるスキルじゃないですか。

王都で司祭も夢じゃないですよ。

それに私、初めて見ましたよAAランク以上のスキルなんて」


 スキルランクであるが、Aランク以上は基本的に職業選択の優先度が高くなるほどに優遇されるものだ。

 それ故に、平民でも商家などは金を工面してスキル鑑定を行うこともある。


 ちなみに、同じAランクでも個人でスキルの熟練度に幅があるため、A、AA、AAAにそれぞれプラスとマイナスを付けた計六段階がある。

 ただ、便宜上プラスマイナスを省略する場合もある。

 A-ランクとA+ランクの差はスキルの使用経験や自身のスキルで受けることも可能だからだ。

 ただし、A+ランクとAA-ランクには明確な違いが出てしまうらしい。


「というか、多過ぎませんか?Aランク以上だけで十五近く、Bランク以下を入れると四十くらいありますよ。

この爵邑を管理されてるヴィゾン騎士爵並みですよ」


 このスキルは最終的には百を超え、俺はそれ故に百才と呼ばれた。

 勇者引退時はまだ三十歳のため、行く先々で百才には見えないと笑われたものだ。


 さて、話に出たヴィゾン騎士爵は俺と同じく元奴隷の相方とのコンビで成り上がった一代貴族だ。

 元々この土地にいたレイモンド子爵の軍に従事し、相方とともに魔族の大侵攻を食い止めた功績、その強さと貢献度からレイモンド子爵の領地に村を貰い、騎士として重宝されている。


 そのため、このレイモンド子爵領では奴隷がそこまで冷遇されておらず、俺達も働き次第では名字と財産を築く事が可能だ。

 もちろん、百人隊長レベルも夢ではない。


「あ、鑑定もありますね。騎士でも司祭でも選び放題ですよ……スキルの数が異常すぎますし、私では詳細がわからないスキルもあります。

都会の教会に立ち寄られたら詳しく見てもらった方が良いかもしれませんね。

確認したスキル一覧と紹介状を出すのでお待ち下さい」


 紹介状があれば寄進無しで上位鑑定スキル持ちに、所持スキルを再鑑定してもらえるのだそうだ。


 数年後、中隊長になった俺はレイモンド子爵の護衛任務でヴィゾン騎士爵とともに王都に向かい、スキル鑑定を改めて行ったところ、この時点でAランク以上が約五十あり、戦闘系のスキルはすべてAA以上であった。


 思えばこれが俺が勇者と呼ばれるきっかけだったのだ。

 異常に奴隷に優しい騎士爵ヴィゾン、奴隷の可能性を知る男レイモンド子爵、高ランク鑑定の機会をくれたシスターカルネ。

 その恩義に報いるために俺は勇者になり、そしてその恩を裏切るかのように俺は魔王を封印した。

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