第79話 予想外の展開とre:STRAT

江田千聖です。

今日で、Autumn Stageも最終日

「気合い入れていくよ!みんな。準備は良いよね!」

キャプテンの有紗さんから喝を入れられ、いよいよ来たな!って思う。


沙耶に誘われてっていうか、勢いで参加するようになってから毎日が楽しくて。

先輩メンバーに教わりながら、ここまで出来るようになったのも沙耶のおかげ。

ありがと!沙耶


私たちのチームDOMINATEは、すでにStage首位通過を決めている。

「だからと言って手を抜くな。相手はどんな手を使ってくるか解らない。

 何としてでも勝ちに行く。いいね!」森井コーチの気魄が伝わってくる。


第1、第2ゲームは余裕で勝利。

ところが・・・Team RESULTと対戦した第3ゲーム

序盤からリードを許す厳しい展開に・・・

「ヤバい・・・優実が・・・」

チームのムードメーカー優実さんが激しくチェックされ、

得意のレイアップが決まらない。そればかりかファウルがかさみ・・・

相手チームにフリースローを与えてしまう。

「マズい・・・」

「優実!代わろ!」

スピードスター華さんに代わってリズムをつかむかと思われた。


だがRESULTのキャプテンが

「キミたちのプレイスタイルは徹底的に調べさせてもらったよ」

「もう諦めな、ふふふ。勝ち目はないわ!」

そのキャプテンは有紗さんを徹底マークして動きを止めていた。

まったくリズムに乗れないDOMINATE


それでも美青さんが気魄のこもったプレイでチームを引っ張る。

「絶対負けない!」先行するRESULTに食いついていく。


終盤

沙耶の2pで1点差に追い上げる

(もう少し!がんばろう!みんな)美青さんが目で訴えている。


シュッ!パサッ・・・ようやく同点に追いついた。

「千聖!」こんな時に私が?だけど悩んでいる場合じゃない!「行きます!」


美青さんからのパスが私に!


相手がチェックに入る直前に2pを放つ・・・


だがそれはリングに嫌われ、そのリバウンドを奪われた直後、

RESULTのエースにダンクを決められ・・・


ブザーの音が。


【全勝対決は昨年の覇者Team RESULTの勝利です!】

RESULTのメンバーは抱き合って喜んでいる。



言葉少なくコートを後にするメンバー・・・


事務所へ戻ると「おかえりなさい!」とバイトマネージャーの大原愛ちゃんが。

「どうしたんですか?」「ううん・・・なんでもないよ」



「そうですか・・・残念でしたね。でも,Excitement Tour'Sが最終目標ですよね?

 ならここはまだ通過点ですよ、次頑張りましょう!!」

前向きな愛ちゃんに比べ、メンバーの表情は暗かった、それは私も同じ。


シャワーを浴びて、ロッカールームで着替えていると

自然と涙がこぼれてきた・・・


「千聖?どうしたの」

「ごめん、ごめんね、みんな・・・」


「あなたが謝る事じゃないよ。大丈夫みんなそう思ってないから。ねっ、みんな」

「大丈夫よ。私たちの力が足らなかっただけ。だから泣かないで千聖」


すると美青さんがツカツカっと近づいてきて・・・


バシッ!

ほほを叩かれた。


「ちょっと美青!」

「美青さん!どうして?」

「やめなよ美青!」


美青さんの目には涙が溢れている。


そのまま美青さんは歩いて事務所を出て行ってしまった。


「千聖?大丈夫?」


ミーティングルームの自分のワーキングチェアーに座り、ボーッとしている。

いつの間にか沙耶が入ってきて、椅子に座って私の顔をジッと見つめている

その沙耶の目にも涙が・・・


「ごめんね千聖、こんな目に会うとは思わなかったよね、誘った私の所為よ」

「そんなこと無いよ沙耶・・」と言い終わらぬうちに、

沙耶の美しい顔が目の前に、そしてまたもキスされた。


「千聖、知ってる?」

「えっ?」

「練習生だったあなたをメンバーに加えて!って言ってくれたのは美青さんだって」

「えっ?美青さんが」

森井コーチやキャプテンの有紗さんは、まだ早くね?って思ってたらしい。

だけど私、結構練習積んでいたんだ。それを見ていてくれたらしい美青さんが

是非!メンバーに入れましょう!って言ってくれたというのだ。

「私も、華さんから聞いたんだけどね」


そうだったんだ・・・知らなかった。美青さん・・・



学校では一軍女子の沙耶の傍へ近づく事さえできないけど、

この時ばかりは違って、目の前に沙耶がいるというだけで安心できるのです。


次の日

「おはよう千聖」

「・・・おはよう」

「元気ないね?あのこと考えているの?」


しばらく学校で授業中でも、あのときのことを思い出してしまって・・・

うつむく毎日が続いていたんです。


でも、何か自分の中が変わっていくような感じというか、意識が芽生えてきた。

そんな雰囲気が有るんです。解りますか?この気持ち。


放課後は毎日、校庭のバスケコートでシュート練習を繰り返していました。

もう絶対外したくない、せっかくのチャンスを逃したくない、そう思えるように

なって来たのです。




次の日曜日

だれよりも早く事務所に。

まだ誰も来てない・・・と思ってたらバイトマネージャーの愛ちゃんが来てました。

「千聖さん、早いですね?今日は」


練習の時に着ているTシャツじゃなくて、きちっとユニフォームを着ました。

なぜって?ゲームに出ている雰囲気で練習した方が気分がアガるからです。



バッシュのひもをキュッとしめて・・・


屋上のコートへ。


誰もいないコート。

まだ朝の気だるい空気が流れる時間、だけど私は違う気分。


沙耶と初めて来たとき、美青さんたちが練習しているのを見て、

(うわぁ・・・こんな激しいの・・・出来るのかなぁ)って思ってたけど、

先輩方と練習していくうちに、慣れというのか、だんだん出来るようになる自分が

楽しかった。それは今でも変わらない。


シュッ・・・パサッ・・・

ダムダムキュッ・・・ガサッ


やっぱり楽しい。バスケットボールがこんなに楽しいんだって改めて思います。

やってて良かった!!


「あれっ?千聖?」

美青さんと華さん、紗英さんがやってきた。


「おはようございます!」



「千聖、この前はごめんね」

「いえ、ありがとうございました!ダメって思っていた自分の気持ちを

 奮い立たせてくれたんです、あの時。だから・・・」

「そう思ってくれたんだね、千聖はもっと出来ると思ってた。

 だからあの時、自分の所為だと泣いていたあなたを、立ち直らせたかった

 それだけなの。ごめんね」


美青さんというホントに気配りが出来て、相手の気持ちに寄り添って優しくて

そしてなんといっても、チームのかなめでもある美青さん。

こんな私にも優しく声をかけてくれる人がいるというだけで、ホッとできる。

心が落ち着くのです。


「よかったね千聖」

「沙耶・・・ありがとう、わたしでもやれば出来るって証明してくれたあなた

 感謝してもしきれないよ」

長身の沙耶が腰をかがめて私に

「そうよ、あなたは私の大事な友だちだもの。ねっ!」と言ってキスしてきた。



「あらあら、私らはおじゃまだったねw」

コートにはすでにメンバー全員そろっていたんですけど・・・


森井コーチから、

「この間は残念だったけど、来週からExcitement Tour'Sがスタートする

 気を引き締めて勝ちに行こう!解った?」

「はいっ!!!」


ふと、隣に立っている沙耶を見ると、美しい顔でほほ笑んでいた。


第79話 完









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