第74話 あなたが好きなの

優斗たちの3x3に加わった江田千聖。

校庭でメンバーに合わせてランニング、ダッシュ、ドリブルなどなど

基本的なトレーニングをしているのだが・・・

(う~~~ん、きつい・・・)

更衣室へ戻り、シャワーを浴びながら(やはり私にはムリかなぁ?)と考えていた。


「ちぃ、どうだった?毎日とは言わないし正式な部活動ではないから、

 辞めるも続けるも自由だよ」と同じクラスの大久保沙耶が言う、けれど・・・

(沙耶のプレイをもっと近くで見たい・・・)

「あ、え、ええ・・・もう少しやってみたいんだ」

「そう、じゃあ私といっしょに練習やろうよ」

(それは有難いなぁ・・・沙耶といっしょに)


「ねぇ沙耶、あの子どう?トレーニングには付いて来れてないみたいだけど」

「はい、紗英さん心配してくれてるんですね!でもやる気はあるみたいだから」

「それならいいんだけど、あまり無理はさせないでね」

「解りました」


卒業式が近づいた2月も末、冷たい雨が降っている。

「沙耶、おはよう」

千聖を見た沙耶は、「あれっ?マフラーは?寒くない?」

「ちょっと、寝坊しちゃってさ。いっそいで家出てきたの。うっかり忘れちゃって」

「じゃあ、これして行きなよ」

といって沙耶は自分がしていた赤いマフラーを千聖の首に巻いている。

「えっ?沙耶は?」

「うん私、ジャケットの下にジャージ着てるから大丈夫よ」

見ると確かに、学校ジャージを着て一番上までチャックをしている。

「ありがと沙耶」


寄り添いながら歩く二人。

「バスケの練習きつくない?」

「ううん、大丈夫だよ。あまり上手じゃないけどね」

「やる気があれば大丈夫よ。頑張ろ!」


沙耶のことが気にかかる千聖。授業中でも、沙耶のことが気になってしょうがない。チラチラと窓際の席にいる彼女を見ている。


「おい!江田、どこ見てんだ?」

と先生から言われることもしばしば。


それでも気になってしまう千聖

(いつもきれいにしてるなぁ沙耶って)

クラスの中でも、千聖も沙耶も比較的成績上位。でも・・・

男女問わず人気のある沙耶と違って、クラスカースト5軍に近い千聖とは

全くの別世界のように彼女には見える。


だがバスケの練習中は彼女を独り占めできるのだ。

(カッコいいなぁ・・・なんであんなにカッコいいの?)


練習も終わって帰り道

「一緒に帰ろうか?」沙耶が誘ってきた。

「うん」


並んで歩く沙耶と千聖

(手をつないじゃダメかなぁ・・・つないじゃお!)

そっと手をつなぐ千聖。

驚いた表情の沙耶。でもつないだ千聖の手をしっかり握りかえし、

ふと沙耶を見ると、千聖を見て笑顔を返してくれた。

(沙耶・・・)

長身の沙耶に寄りかかるようにして駅まで歩いて行く二人は、

後ろ姿だけ見れば男女カップルにしか見えなかった。



梨央・優斗・華の3年生トリオも卒業していった。

残ったメンバーは紗英、大地、沙耶、そして千聖の4人だけ。

「このまま続ける?大地」

「うん、ボクは続けたいな。紗英は?」

「沙耶と千聖はどう?」

「出来れば続けたいです。千聖どう?」

(どうって言われても、わたしは沙耶がいてくれれば良いんだけど)


続けたいと言っていた大地だが、その本音は解散してもいいかな?だった。

続けるにしても、美沙コーチがつき合ってくれるとも思えないと感じていた

大学バスケ部辞めたと言ってたけれど、本心は続けたかったに違いないと

感じていた。それは話の節々に垣間見えていたからだ。


「ホントは大学バスケ続けたかったんでしょ?」

「よく解ったね、でもいまはあんたたちの指導が楽しいからね、

 戻れって誘いも断ってはいた。でも・・・正直言えば戻りたいのはある」

「レギュラーにはなれなくてもベンチ入りできればコートに立てる可能性はある。

 勘違いすんな、お前たちのコーチはやるよ、それは心配しないで」


美沙さんにすれば最後のチャンスだし、戻ってかんばってほしいとは思う。

「解りました。よく考えておきます」


あくる日

「解散しよう」

「えっ?なんで?どうして!理由は!大地!」

美沙コーチとの会話のすべてを話した。「せっかく頑張って来たのに」

「そうですよ、千聖も彼女なりに頑張って来たんですよ」

「気持ちは解る、でもさ、美沙さんのことも考えてみなよ。

 自分の気持ちを押し殺してまでコーチとして頑張ってくれてるけどさ・・・」

「あなたは優しすぎるよ大地。解ったわ、一度解散ね。その後はまた考えよ。

 沙耶、千聖いい?」

「先輩がそう言うなら、寂しいですけど・・・」

 



学校からの帰り道で。

(解散するってことは、カッコいい沙耶の姿を見れなくなるってことかなぁ)

「ねぇ千聖」

「えっ」

「解散って寂しいよね」

(寂しい・・・でも沙耶と一緒の時間を過ごせなくなるってことだし)

「でも解散したとしても、千聖は私の大切な友達だよ」

(そんなに思ってくれていたなんて・・・嬉しい!沙耶)

「2年生になったら千聖と一緒のクラスになるといいね?」

「ええ!ホントに?」

「なんで、千聖に嘘つく必要ある?」

(マジで言ってる?)と沙耶の顔をまじまじと見つめる千聖。

「やだ!千聖ったら、あたしの顔に何かついてんの?」


「大好きだよ千聖!」

(ええええええええええええ・・・マジかぁ・・・)

「ホントに?私みたいな陰キャを好きだって言ってくれるの?」

「陰キャ?そうかなぁ、私はそう思わないけどなぁ」

沙耶の表情からは "うそ"をついている様には、全く見えない。



「じゃあね、きょうはここまで」

「うん・・・さよなら」

沙耶は手を振りながら駅の改札を抜けて行った。

後ろ姿もホントにカッコいい・・・


第74話




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