#12

 持ち帰った手土産を腹いせに朝食代わりにし、やりきれない気持ちで翌日を迎えても、彼女は会社に顔を出す事は無かった。


 何度もメールを打つのを躊躇って、毎日未送信のメールだけがフォルダに件数を重ねる。僕が何も行動を起こせないまま時間が過ぎても、蜃気楼のように消え去った彼女は理由ひとつ教えてはくれない。


 上司に尋ねても一向に返事の無いまま過ごした一ヶ月弱……僕はどれだけこの石に縋っただろう?


『ラブラドライト』──石言葉は『思慕』『記憶』『調和』。


 月と太陽を意味するこの石は、真逆であって良く似ている僕らにピッタリの比喩だった。そして、何より──『再会の石』という大仰な異名を持つこの輝石が想い合う人々を引き寄せるらしい。


 ──もう一度だけ、彼女にあえたなら……。


 その真摯で一途な願いが届いたのか、早くから出社していた上司は和かな表情で部署の社員に笑いかけた。


「長期休暇中の彼女だが、偉い元財閥の坊ちゃんと結婚することになったらしい……そんで、そのまま退社する予定だ。あー羨まし……所謂『寿退社』ってヤツだな」


 ホレホレと上司が手に持っていたファイルから封筒を取り出すと、「名前書いてあるから自分で持ってけよー」と机に並べる。


 確かに彼女に会いたいとは思ったけれど、こんな再会なんてあまりにも無惨で非情じゃ無いか。


 僕は滲んだ視界を誤魔化すように、前髪を深く下ろした。泣いてない、泣いてなんかいない……と自分に言い聞かせながら。

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