#7
挙式も近付き、豪勢なホテルに併設されたチャペルへと参列者が案内される。
白で統一された洋風な空間と、大きなステンドグラスの窓から差し込む太陽の光が幻想的なその空間の真ん中には、余りにも無情で大きな十字架が立てられていた。
僕は祭壇に向かって左側の1番後ろの席にゆっくり腰を掛けると、ポケットからイヤリングを取り出す。
本当に地味な色なのに、中に黒の点々が散らばった透明の雫の表面は滑らかで、ふとした瞬間に青や黄色、はたまた金に銀……と虹のように浮かべたその石は、神秘的なステンドグラスにもよく似てる。
──お前は、どんな顔をして此処を歩くのだろう?
真ん中に敷かれた白のバージンロードをいろんな感情で塗り潰してやりたい気分の僕が忌々しく祭壇を見つめていると、挙式を知らせる鐘が冷徹に鳴り響いた。
定刻通り始まった催しは大きな扉の向こう側から現れた厳荘な面持ちの牧師と、それに続いた新郎の入場に始まり、僕はせいぜいお前のカモになった哀れな新郎の間抜け面を拝んでやろうと、参列者と共に立ち上がって手を叩く。
悠々としたナイスガイは少し鼻の下を伸ばして満面の笑みを湛え、僕はその事実に何故か酷く胸糞が悪くなる。
しかし、彼は僕の感情なんて知る由もないままゆったりとした足取りでバージンロードを歩いて祭壇の右側に立つと、今まで歩いてきた道を振り返えって扉の向こうを見つめた。
「お集まりの皆様……只今より結婚式を執り行います」
一連の流れを見届けた牧師は、咳払いを一つしてから静かに結婚式の開式を宣言する。そのまま牧師の口から新婦の入場が案内されると、一同の視線は扉の方へと向かう。
──綺麗。
後光のように差す光を纏った花嫁は、この世界で一番麗しかった。
透き通る肌の魅力を最大限に自慢するような、広くデコルテが開いたオフショルダータイプの大人っぽいドレスを着たお前は、薄いけれど表情がハッキリと読めないベールを顔の前に下げてバージンロードをウエディングステップで歩く。
僕の知らない新婦の皮を被り、僕の前を粛々と通り過ぎる瞬間、お前は一度だけ眉を下げて悲しそうな視線を寄越して口を結んだ。
──あぁ本当に……なんていけ好かない女なんだ。
僕では無い誰かの手を今まさに取るくせに、僕の感情を乱雑に掻き回す魔性の女。
お前が真っ直ぐに祭壇を見ていない事に気付いたのか、新婦父が鋭い視線をこちらに向ける。一瞥と言うにはあまりに重々しく、それでいて嘲笑うかのようなその目付きはあの時と何も変わらない。
瞬間湯沸かし器の様に感情が昂った僕は、無意識のうちに唇を噛み締めると、僕は折角整えた顔を歪ませてお前との日々を思い起こす。
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