#8
僕らの交際年数が長かったのには、少しく訳がある。
彼女は由緒あるお家柄の一人娘。
その大事な虎の子を、ご両親が何処の馬の骨とも知れない僕に易々と譲ってくれる筈が無い。
お互いの事をよく知る為にも、ご両親には内密にして双方の家へお泊まりを重ねるようになり、それから二人で部屋を決めて一年ほど同棲した。
一緒に時を重ねる中で驚いたのは、僕らがあまりにも似たもの同士だった事。表情や仕草、考えてる事や笑うタイミング、何にお金と時間を掛けて、何を嫌がるか……。
生まれ持ったその感覚があまりにも酷似しているせいか、僕はいつからか『二人で一つ』だったような錯覚さえ起こす。
「ねぇねぇ、ツインレイって知ってる?」
二人掛けのソファに座ったままお風呂上がりの僕に飲み差しの缶ビールを差し出した彼女は、ニコニコと楽しそうに笑う。
「ソウルメイトみたいなやつだろ?」
生ぬるくなった缶ビールを喉に流し込んだ僕は、「占いなんて信じない」と彼女同じように笑う。
「そうそう……でも、ソウルメイトは魂が似たもの同士みたいな感じで、ツインレイは元々一つだった魂の片割れっていう意味があるんだって!」
楽しそうに喋る彼女は僕の手から缶ビールを引ったくると、最後の数滴まで飲み干した。
「魂の片割れ……ねぇ」
少し考えてから言葉を反芻させた僕は、僕だけの特等席である彼女の隣に座って美麗な彼女の横顔を見つめる。
「何?」
「僕達、そろそろ一つにならない?」
さっきまでおふざけ半分で目を細めていた彼女の瞳が、満月のように丸く光る。口を金魚みたいにパクパクと開閉した彼女は一瞬にして頬を上気させたまま僕を注視した。
「それって、挨拶に来てくれるって事?!」
「ん」
「すぐにお母さんに電話するから!……嘘だって言っても取り消さないよ」
「おう」
あまりの彼女の驚きようを見て、途端に恥ずかしくなった僕は声を細めて口元を隠した。
しかし、お構いなしに顔いっぱいを喜びで満たした彼女が目元に涙を薄く浮かべ、僕にピッタリ抱き付いたまま「好き」と顔を僕の胸に埋めて呟く。
そのあまりにも愛らしい姿に堪らず彼女の背中に腕を回した僕は、「僕も」と彼女の絹みたいな髪に顔を寄せた。
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