#6
曰く因縁付きの代物を握って結婚式場へ向かう僕は、いつも以上にソワソワしていた。無論僕が人見知りである事も関係しているが、それを差し引いても何だか気分が落ち着かない。
大通りに出て拾ったタクシーの中でも、帝国ホテルばりの豪華な会場兼ホテルに着いて出席者の名簿に名前を書いている最中でも、はたまた同僚から同情とも嘲笑とも取れない視線を投げかけられても、僕の頭に浮かぶのは他でもない女──それがまた、酷く癪に触る。
こんな風に僕の脳内を図々しくも堂々と占拠するお前なんて、本当に大嫌いだ。
「ねぇ聞いた?新郎、元財閥の御坊ちゃんらしいよ〜」
またまた通りすがった女性社員は羨ましそうに他の社員に声を掛けると、それに呼応して「良いなぁ〜!」という歓声が何処からともなく上がる。
そう、お前みたいに素敵な人なら、いくらでも当てがある。少なくとも、僕みたいな冴えない男の隣に五年も立ってたなんて本当に信じられない。
苦虫を噛み潰したような苦々しい顔のまま、僕は勝手理想の惚気に浸る人並みを掻き分けた。
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