#5

 まぁ、恋に理由なんてない。


 想い出に浸るのも程々に、僕は結婚式に参列する為に最低限の準備を進める。


 ──そりゃぁ綺麗なものを見れば誰だって心を奪われるし、ましてや感じの良い美人のお前には、腐るほど男が群がるだろうよ。


 今日は寿退社予定のお前が主役。


 これから先は二度と会うことが無い、と清々した気持ちを抱えながら結婚式に渋々参加する僕は、今まで付き合った中で最高に性格の悪いお前の為に柄にもなくお洒落なスーツに身を包み、普段はボサボサの髪をワックスで整え、寝ぼけたような顔を引き締めながら伸びた無精髭を剃り、お前が好きだった高価な香水を首元に散らして準備を進める。


 鏡で確認しつつ身なりを整えた僕は悩みに悩んだ末、普段は全く開けない小物入れを開けて小さな箱を取り出す。


 その箱には、もはや渡す相手を無くしたシンプルなプラチナの婚約指輪と、大きさにして小指の半分程、残酷なまでに美しいドロップカットのラブラドライトが輝く、片耳しかないイヤリングが嘲笑うように顔を覗かせる。


 別に名残惜しくて出した訳じゃない。


 酷く薄情な女がブーケトスしたタイミングで、この憎らしいイヤリングを投げつけてやる。


 まずまずもって嫌な記憶を呼び起こす忌々しい代物、それも片方しか無いなんて使い道の無い物はもっと早く処分すべきだったんだ。

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