第5話 吐き出せた思い


「リーテン王国の東隣には、アンカード王国がありますよね」

 私がそう話を切り出すと、皆うんうんと相槌あいづちを打ってくれる。


「3ヶ月ほど前だったと思います。ジョン王子は『俺に浮気されたらどうする?』と、私に尋ねてくるようになりました。それに対し私は、ジョン王子ご自身の評判を下げることになってしまうので、控えたほうがよろしいかと、と返しておりました」


 私は一度ふぅっと一息つき、再び口を開く。


「しかし、私の返答が不満だったのか、彼は今度は『もう1人と婚約するって言ったらどうする?』と聞いてくるようになりました。それは特にダメな決まりもありませんでしたし、私はそれならばよろしいのでは。と返します」


「それがまたジョン王子の中では不満であったのだな……」

 と、ヨゼフ国王陛下。


「そうなのかは分かりませんが、その後どうやらジョン王子は国王の許可なく、アンカードのエイダ王女と婚約をしてきました。彼がおかしな発言を繰り返すようになってきたのはそれからです」


「悪魔がどうのこうのってやつか?」

 と、クラウス。


「そう『本当に悪魔召喚の儀なんてやったのか』とか『俺のこと愛してたんじゃないのか』とか『何で裏切ったんだ』……と言うようなことを毎日のように聞かれました」


「うざ……」

 クラウスは嫌そうな顔をしている。


「一体誰からそんなことを? と聞くと、決まって『風のうわさだ』と答えます」


 皆はやれやれとため息をついている。


「そして、エイダ王女は、私とすれ違う際にわざと転んで私のせいにしたり等、どうやら私にイジメられている風を演じているようでした。そもそもリーテン国王の許可も得ず勝手にリーテン城で暮らし始めたため、居心地も悪かったのでしょうね。きっとジョン王子に色々と吹き込んだもの彼女なのでは、と私は思っています」


「シェリーを追い出して唯一無二の存在になろうとしたのですね……」

 と、アルフォンス王子。


 私は彼に対しこくんとうなずくと、最後にこう付け加え、頭を下げた。


「リーテン王国との良き関係のためにと皆で私を送り出してくれたのに、こんな形になってしまってごめんなさい……」


「シェリー! お前のせいじゃないだろ?」

 クラウスはすぐにそう言ってくれた。ヨゼフ国王陛下もそれに続く。


「クラウスの言うとおりだ、シェリー。お前は何も間違ってはいない」


「ですが……確証はありませんので。もしかしたらこの国の評判を落としてしまうかもしれません」


「そのことなんだが、一度先方に暗駆あんくを送り込もうと思っておる」

 そのヨゼフ国王陛下の発言に皆驚きを示した。


 暗駆あんくとは、我が国の影で色々と情報を掴んできてくれる裏の精鋭部隊、つまり間者かんじゃたちだ。


 国王陛下が彼らを動かすのはただ事ではない。


「父上、一体どういうことなのでしょう?」

 と、アルフォンス王子。


「うむ、次は私が話す番であるな」


 皆国王陛下の次の言葉を待った。


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