20 再会

嵐が過ぎさったようなしずけさは、とうとつに、少女の歓声によってうち破られた。


「やったぁーーー!!」


「わぁっ!?」


アンナは、はじけんばかりの笑顔で、ニックに飛びついた。


「ニック、ニック! ニックーー!!」


ようやく会えた弟の名前を、なんどもなんどもよびながら、力いっぱい抱きしめる。


「会いたかったわ! 本当に本当に、無事でよかった!!」


はなれていたのは、ほんの数日だというのに、もうずいぶんと時がたってしまったような気分だった。


「……苦しいよ、アンナ」


もごもごとくぐもった声がして、アンナはハッ、と手をはなした。

やや困り顔のニックが、まぶしそうに目を細めて、こちらを見あげている。


「ご、ごめん! 痛かった? 怪我はない? そういえば、あんな高いところから落ちて、どうやって助かったの?」


話したいことが、次から次へとあふれてとまらない。

そんなアンナの様子に、ニックは苦笑しながら、頬をかいた。


「マントを、パラシュートがわりにしたんだよ。いちかバチかだったけど、嵐で風が強かったから、うまくいったんだ」


アンナは、ぱちくり、と瞳をまたたいた。

あんな危険な状況で、よくそんな冷静な判断ができたものだ。


「やっぱり、ニックは天才だわ」

「……アンナこそ傷だらけじゃないか。まさかとは思っていたけど、本当に大樹を降りてくるなんて、ムチャがすぎるよ」


ニックは眉をさげて、心配そうにアンナの手をとった。


断崖絶壁を降りてきたせいで、アンナの指さきはボロボロだ。

それだけでなく、結晶の刃で切れた腕や背中からも、うっすらと血がにじんでいる。


しかしながら、アンナはそんな怪我など気にした様子もなく、ニッ、と歯をみせて笑った。


「こんなのかすり傷よ!」


その言葉のとおり、アンナはあっけらかんとしている。

それが気にくわなかったのか、ニックはますます眉間にシワをよせて、唇をとがらせた。


「あのねぇ、ぼくは心臓がとまる思いだったんだよ?」

「……えっ、どうして?」

「アンナのオカリナが、すぐちかくで聞こえたからさ」


アンナは、ぽかん、と口を開けてかたまった。

そういえば、たしかに今日の朝、樹壁じゅへきうろでオカリナをかなでた。


あの時の音色が、まさか本当に、ニックのもとまで届いていたとは……。

アンナはようやく、ニックがなにをいいたいのか気がついた。


「……それで、助けにきてくれたのね」


彼が駆けつけてくれなければ、アンナはきっと、あのまま大蛇に食べられていただろう。


「ありがとうニック。助けにきたつもりだったのに、逆に助けられちゃったわね」


ふがいないなぁ、と頭をかくアンナに、ニックはそっぽをむいたまま、ぼそりとつぶやいた。


「……まあ、きてくれたのは、うれしかったけど」


素直じゃない弟の、せいいっぱいの言葉に、アンナはちいさく「ふふっ」と笑った。


「それにしても、よくあんな作戦ひらめいたわね」


ニックの頭のよさにはいつも驚かされるが、炎で大蛇を撃退するなんて、アンナにはとても思いつきそうにない。


いまさらながら感心するアンナに、ニックは、

「あれはぼくのアイデアじゃないんだ」

と、首を横にふった。


「あれは、おとうさんとおかあさんに、教えてもらったんだよ」

「……え?」


そういって、ニックはポケットから、古ぼけた本をとり出した。

それは、あの秘密の部屋でふたりが見つけた、両親の冒険手帳だった。


おもむろにニックはたちあがると、うながすように、アンナへ手をさしのべた。


「アンナ、きみに、見せたいものがあるんだ」

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