17 朝の光

次の日の朝。

まだうす暗いうちに、アンナは自然と目がさめた。


すがすがしいしおの香りが、少女の鼻をくすぐっている。

その香りに誘われるようにして、寝ぼけまなこをこすりながら、アンナはうろの外へ顔を出した。


「……わぁっ!」


晴れわたった朝焼けの空と、まばゆくきらめく大海原おおうなばらが、視界いっぱいにひろがっている。


「雨、あがってたんだ!」


アンナは思わずたちあがり、大きく息をすいこんだ。

重くたれこめていた雨雲は、もうすっかりどこかへいってしまい、すみきった風がアンナの頬をなでていく。


海は、もうすぐ手が届きそうなほど、ちかくまでせまっていた。

けんめいに歩きつづけた彼女の努力は、けっしてムダではなかったのだ。


「……すごい」


アンナは、目の前にひろがる壮大な海の迫力に、しばらくのあいだ圧倒された。


風見台かざみだいから遠くながめていた水平線とは、まるでちがう。

さざなみが白くたち、ここちよい波の音が、いくえにも重なって鼓膜こまくをうつ。


海が、こんなに力強いものだったなんて、アンナは知らなかった。


しだいに、東の空が黄金色に輝き、燃えるような太陽が昇りはじめた。


「そうだわ!」


アンナは手をたたくと、ポシェットからオカリナをとり出して、やさしく息を吹きこんだ。


「♪――」


高く軽やかな音色が、うちよせる波の音とまざりあい、不思議な響きをうんでいる。


「♪、♪――」


こうやってオカリナを吹くのも、いったいなん日ぶりだろう。

曲調がはずむにつれて、かたくこわばっていた心が、青い空へとけていく。


「♪――」


ニックはいま、どうしているだろう。

つらい思いはしていないか。

怪我はしていないか。

ごはんはちゃんと食べれているか。


このオカリナの音色は、大樹の根もとまで届いただろうか。


アンナの心に、さまざまな想いが駆けめぐった。


「――待ってて。もうすぐ、そっちへ行くから」


アンナは最後の旋律せんりつをかなで終わると、重たい足をふんばって、ふたたび大樹を降りていった。

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