15 未知の樹壁へ
大樹の中心――天までそそりたつ巨大な
ニックを助けるためには、ここから断崖絶壁ともいうべき大樹の幹を、たったひとりで降りていかなければならない。
アンナは細い枝に足をかけ、まじまじと大樹の下をのぞきこんだ。
ここからさきは、完全に未知の領域だ。
巨大な垂直の
さいわい、アンナがギリギリとおれるほどの
ただし、ひとたび足をふみはずせば、奈落の底へまっさかさまだ。
「……やってやろうじゃない」
気合いをいれて、目もとにしたたり落ちてきた雨水を手ではらう。
覚悟はすでにできている。
アンナは、ゆっくりと両手を壁面へはわせ、しんちょうにせまい
* * *
それは、想像していたよりも、ずっと困難な道のりだった。
壁面には、さまざまな植物が根をはっていて、そのからみあった枝葉を、ひとつひとつナイフで切り落としながら、アンナはさきへすすんだ。
夜中の悪天候にくらべると、すこし風はおさまっていたが、強い雨がなおもザァーザァーと降りしきっている。
雨でぬれた足場は、とてもすべりやすくなっていた。
視界も悪く、すすんだ道がたまに途切れたり、通れないほど先細ってしまうので、そのたびにもときた道をひきかえし、新たなルートを探さなければならない。
そうやって行っては戻り、行っては戻りをくりかえしているうちに、アンナはだんだんと意識がもうろうとしてきた。
無理もない。結局あれから一睡もしていないのだ。
しかしそれでも、アンナはニックを助けたい一心で、けんめいに足を動かした。
「……まってて、すぐに、すぐにいくから」
荒い息をはきながら、頭上を見あげる。
遠くのほうに、ちいさなしげみがゆれていた。おそらくアレが、最初に降りてきた地点なのだろう。
アンナは落胆した。
ずいぶんと時間がたったはずなのに、まだこれっぽっちしか進んでいないのかと思うと、もどかしいあせりがわいてくる。
「……いそがなきゃ」
いまごろニックは大怪我をして、苦しんでいるかもしれない。
根の国で、恐ろしいめにあっているかもしれない。
いやな想像がつぎつぎと浮かんで、アンナは不安でいっぱいになった。
しかし、はやる気持ちに反して、じょじょにまぶたは重くなり、視界が白くかすんでいく。
「――わっ!」
ふいに、太い枝を切り落としたとたん、足もとのしげみがごっそりと崩落した。
あやうく落ちかけたところで、とっさに頭上の枝をつかみ、からくも難を逃れる。
「……あっぶない」
アンナは、冷や水をかけられたかのように、さーっ、と背筋を凍らせた。
足もとには、
アンナは震える手に力をこめて、なんとかもとの場所までよじのぼった。
「……なにやってるの、わたし!」
アンナは大きく頭をふった。
しっかりしなきゃ、と心では思っても、すでに体は限界だった。
このままでは、ニックを探しだす前に、自分が命を落としてしまう。
「……すこしだけ、……すこしだけ、休もう」
アンナは、風よけに使えそうな
そして、そのまま倒れるようにうずくまると、たちどころに泥のような深い眠りへ落ちていった。
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