14 リュックサックと置手紙

降りしきる雨のなか、アンナはわき目もふらず、がむしゃらに走りつづけた。


暗闇のなかに、ぽつんとたたずむちいさな家へたどりついたころには、少女の手足は小枝や草村で傷つき、ボロボロになっていた。

しかしそんなことは気にもとめず、玄関へ駆けこむと、アンナは例の秘密の部屋へむかった。


大きなリュックサックをひろげ、目にとまった物をかきあつめ、手あたりしだいにつめこんでいく。


ニックのように、役だつ道具を選んで計画をたてるようなまねはできない。

アンナにできるのは、ただただ行動あるのみだ。


ありったけの荷物をかつぐと、子ども部屋へいき、すばやくぬれた服をきがえる。

動きやすいパンツに、丈夫なブーツ、雨具にもなる軽いマントをはおり、ベルトにはおとうさんのナイフをさす。

仕上げに、愛用のオカリナをポシェットへいれて、アンナはキッチンへと降りた。


ゆらゆらとした、ランタンのたよりない灯りに照らされたそこは、昼間楽しくパーティーをしたことがウソのように、しずまりかえっていた。


おばあちゃんはもう寝ている。

ぎしぎしと音がなる床に気をつけながら、アンナは食糧庫から干し肉や、のこっていたポムの実のケーキを手にとった。


「おばあちゃん、ごめん。すこしもらっていくね……」


かわりに、置手紙を書いていく。

朝おきて、孫たちの姿がなかったら、きっとやさしいおばあちゃんは心配して、大樹中を探してまわるにちがいない。


そうならないように、アンナはほんのちょっとだけ、手紙にウソをまぜこんだ。



『冒険へいってきます。かならず帰ります。待っていてください。――アンナより』

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