6 おばあちゃんのケーキ

「それでね、ニックったらすごいのよ!」


正午になった。

キッチンには香ばしい匂いがただよい、丸太のテーブルには、見たことがないほど豪華ごうかなごちそうがならんでいる。


ふたりが大好きなパウンドケーキに、香ばしいパイ、焼きポム、宝石のようなコンポート。


とても家族三人では食べきれないほど山もりのお菓子たちに、アンナは頬がゆるむのをとめられなかった。


「ニックは発明の天才ね!」

「よしてよ、アンナ。おおげさな……」


興奮ぎみに話すアンナの横で、ニックが照れくさそうに、口をもにょもにょさせている。


「あら、本当のことじゃない。ニックのアイデアがなかったら、いまごろ、こんなに大きなケーキは食べられなかったわ!」


そういって、アンナは幸せそうに、ポムの実のケーキへとかぶりついた。

しっとりとした軽い口どけの生地に、とろけるような甘い果肉が、ゴロゴロとぜいたくにちりばめられたパウンドケーキは、まさに絶品のひとこと。

そのサイズは、いつもの三倍は大きい。


「本当に、ふたりとも、よくがんばったねぇ」


ふいに、おばあちゃんがふたりを抱きしめて、かわりばんこに頭をなでてくれた。


「いつのまにか、こんなに頼もしくなって。もうすっかり、一人前じゃないか」


目もとをキュッ、としわくちゃにして、まぶしそうに微笑むおばあちゃん。

ふたりはむずかゆいような気持ちで、こっそり、たがいに目くばせをした。


「それにしても、ちょっとつくりすぎじゃない……?」


ほめられすぎて恥ずかしくなったのか、ニックがわざとらしく話題をそらした。


「たしかに、ちょっとハリキリすぎたかも……」


アンナもつられて苦笑いをする。

うず高くつみあげられたお菓子の山は、いまにもテーブルから転がり落ちてしまいそうだ。


保存食であるコンポートは別として、ケーキもパイも焼きポムも、二~三日で腐ってしまう。

それはあまりにもったいない。


「そうだわ!」


ふいに、アンナはひらめいた。


「村のみんなに、お菓子を届けてあげましょうよ!」


われながら名案だ。と、アンナはなんどもうなずいた。

おばあちゃんのお菓子は村でも人気だし、きっとみんな喜ぶだろう。

しかしそれを聞いたニックは、たちまちしぶい顔をした。


「え~、ぼくもうくたくただよ~」

 

なれない朝おきにくわえて、苦手な力仕事までしたのだ。

体力のないニックは、すでに一歩も家から外へ出たくない気分だった。


「嵐も近づいてきてるし、午後は家にいたほうが……」

「それよ!」


ビシッ、と、アンナはニックを指さした。


「嵐がきてるってこと、村のみんなにも知らせなきゃ!」

「……それはいい考えねぇ」


アンナの提案に、おばあちゃんも賛成してうなずいた。


「こういうことは、はやく知らせたほうがいいわ。家のことはおばあちゃんにまかせて、いってらっしゃいな」

「うん!」

「……えぇ~」


とんとん拍子に話がすすんでしまい、ニックはガックリと肩を落とした。

しかしながら、この流れをくつがえせるような反論も思いつかない。


嵐がくるまでまだ時間はあるし、ニックだって、せっかくのお菓子をムダにしたくはなかった。

そしてなにより、アンナは一度いい出したらきかないのだ。


「いくわよ、ニック!」

「……はぁ~、わかったよ」


こうなってしまったら、いつも弟は姉にさからえない。

ニックはしぶしぶうなずきながら、こっそりとため息をついたのだった。

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