5 森のゴンドラ

それから、ふたりは試行しこう錯誤さくごをくりかえした。


ニックによると、本格的なブレーキは複雑で、すぐにはつくれない。

そのため、ポムの実をつつむあみのほうに、衝撃をやわらげるクッションをつけることにしたのだ。


クッションの材料については、アンナがひらめいた。

ちょうどいまは、わたぐもタンポポという、巨大なタンポポのわた毛が飛ぶ季節で、風見台かざみだいの近くにそのぐん生地せいちがある。


このわた毛は、ポコロ族のおふとんや、まくらにも使われている、ふわふわな素材で、ポムの実を守るクッションにはピッタリだ。


ふたりは、せっせとタンポポのわた毛をあつめ、網全体をおおった。


思いつきは成功し、ふたたびゴンドラを出発させても、衝撃でふたりがふり落とされることはなくなった。

そこからは、ロープが途切れるたびに、滑車かっしゃを次の枝へと移動させ、順調に枝道えだみちを進むことができた。


途中でちいさな川をこえ、なだらかな坂をのぼり、背の高い草のしげみをとおったが、木の上をいくゴンドラは、それらすべてを眼下がんかに見おろしながら、風のように森を駆け抜けた。


そしてついに、ふたりは、その瞳に赤い屋根のわが家をとらえた。



「ついた! ついたよアンナ!」


「やったあ! やったわニックー!」


ゴンドラが風をきる音にまけないように、ふたりはさけんだ。


家の前の庭では、おばあちゃんが干しイチジクをとりこんでいる。

それを見たふたりは、同時に、大きく息をすいこんだ。


「「おばあちゃ~ん! ただいまぁー!」」


とつぜんの大声に、おばあちゃんはびっくりした様子で、木の上を見あげた。


直後、大樹の実とふたりをのせたゴンドラは、出発地点である若いコナラの木へとぶつかり、数秒ゆらゆらとゆれたあと、その役割を終えてしずかにとまった。


「おばあちゃん、見て見てー!」

「ちょ、ちょっと、まってよアンナ!」


枝から華麗かれいにジャンプして、地面へとおりたったアンナ。

そのうしろでは、ニックが不器用な足どりでみきにしがみついている。


そんな対照的な孫たちと、頭上につるされた大きなポムの実を、おばあちゃんはたいそう驚いた表情で、交互に見つめた。


「おやまあ……! わたしは夢でも見ているのかねぇ」

「えへへ、すっごいでしょ!」


こんな短時間で、ポムの実を丸ごと運んできたのだ。

まちがいないく大収穫である。


アンナは、ここまでがんばってきた一部始終を、はやくおばあちゃんに話したくてたまらなかった。

しかしそれを邪魔するかのように、おなかの虫が、ぐぅ~っとなった。


「……あ」


そういえば、そろそろお昼の時間だ。

アンナは恥ずかしそうにおなかをおさえると、チラリ、とおばあちゃんへ視線をおくった。


「あらあら、まあまあ……」


おばあちゃんはおかしそうに笑って、うなずいた。


「さっそく、この実を使ってケーキを焼きましょう。ふたりとも、手伝っておくれ」


「「やったー!!」」


アンナとニックは、声をそろえてハイタッチした。

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