第21話 激闘②ー魔剣創造ー
アヴァロンは特殊な剣を操る。これまで必要とされる状況に合わせた剣を8種類創造してきた。魔力を練り、武器として具現化する。
世界にはアヴァロンを含め数体の天使が存在するが、それぞれ固有の能力を持ち合わせている。
強敵や過酷な状況を打破する為に創造された魔剣。その他に「とある天使」により創造された二振りの剣含めると10本の剣を所有している。
レイが纏っている鎧も同じ方法で錬成されている。濃縮された魔力は実態を成し物質化する。アヴァロンの能力は「創造と次元」、一度創造された剣や鎧はこの次元空間に保管されている。レイの意識の存在もこの空間に由来する。
アヴァロン自身は創造を得意とするが、他者が創造したものであっても同様に扱うことが出来る。世界のどこかには、武具の創造を司る天使も存在するという。
それぞれの魔剣や鎧には更に特殊な能力が付与されている。
歴戦を誇るアヴァロンがその戦いの中で必要性を見出し想像した武具や防具だ。
ゾラとアヴァロンは180年前に遭遇しているが、その時はこのように敵対する存在ではなかった。当時ゾラはこの世界の人間だった。幼少の頃から魔力の才能が際立っていた。神殿の長女と生まれた彼女は、あらゆる者を治癒してきた。怪我に苦しむものを放ってはおけず、人の枠を超え、動物や昆虫すらも治癒していたのだ。時に神官として冒険者と共に魔物の討伐にも参加した。
その治癒能力は人間における頂点を極めていた。彼女の奇跡を求めて参拝者は絶えることなく、彼女はひたすらに癒し続けた。
彼女は慈愛に満ちていた。大抵の病気や、怪我、例えば四肢の欠損があってもまた生やすくらいの癒しも可能でああった。万能を極めた彼女の力、それを利用する者も当然に現れる。彼女は世間知らずだった。癒しの日々が続いていた。
そんな中ある事件が起こる。
彼女の慈愛の心が憎悪に変わった。
当時の悲惨な事態が聖女たる彼女を堕天使とならしめたのだ。
ゾラは斬撃を得意とする訳ではなく、特筆すべきはやはり「毒」だった。ゾラの皮膚が青白く紫がかっているのは、常に毒と共存しているからだ。
治癒の力は先天的なものだが、毒は後天的に身に着けた。
ゾラはかつてこの世界の女神とも称えられる聖女であったが、ある事件をきっかけに、自害を試みる。その時の方法が「毒」だった。様々な毒を摂取した。しかし、彼女の元々の強靭さや天からの加護、鍛錬を重ねてきた持ち前の治癒力で死にきれなかったのだ。毒を飲み、もっと強力な毒を探し、また飲む、何度も何度も繰り返すうちに、あらゆる毒耐性を得てしまった。
そして、死ぬに死にきれないその想いが彼女を堕落させたのだった。
憎悪と復讐に染まったゾラへと。
彼女は一つの結論に達した。
『私は死ねない・・・ならばいっそ原因となった者達を皆殺しにしよう・・・』
その瞬間、彼女は堕天使へと昇格したのだ。
アヴァロンは解毒効果を付与した魔剣を想像した。11本目の魔剣。レイの体内に植えつけられた毒を解析し、その毒を解毒するだけでなく、その他の種類の毒へも解毒作用をもたらすものだ。一見すると白銀の細いレイピアのような形状をしているが、よく見ると特殊な形状をしている。針が螺旋状に、蔓のように巻かれ、先端が二つに分かれている。また、柄の部分が手の甲と一体となっている。甲の部分が更に細かく細く分岐し、血管と繋がっていた。一つの針は解毒を、もう一方は接毒を目的としている。
『・・・ネイリングと名付けよう。』
ゾラはあらゆる毒耐性を、レイはあらゆる解毒体質を、対を成す能力を付した魔剣ネイリングを創造したのだ。
ゾラはアヴァロンがこのような能力を有しているということは知らない。状況的に拮抗している今、これがアドバンテージとなる。
堕天使の中にも情報通は居る。だが、大概彼らは協調性がない。これは絶対的な個としてそれぞれが独立しているからに他ならない。しかし、戦闘において敵対する相手を知り、対策を練ることは必須。圧倒的な強さ故の落ち度であろう。
アヴァロンはこれまでもそうだが、常に対になる効果を付与した魔剣を創造してきた。更にそこから状況を打破するために予測分析し、結果的に打破できる強力な武器とした。つまり今回も、もう一段進化させることを想定に入れていた。
毒と共に長らく生きてきたゾラにとって、この解毒の剣での斬撃は致命傷となる。
これまで相対してきた敵は例外を問わず即死だった。ゾラにとって他の天使級と戦闘することは初めての経験だ。一方、アヴァロンは違う。天使として遥かに長い時を過ごしその中で幾度もの戦闘を経験した。
二人は一呼吸置いたあと、再び臨戦態勢に戻った。
レイは魔法力を足に集中させる。特に蹴り出す右足に。
地割れと共に一気に蹴り出す。その瞬間地面が割れ隆起し、衝撃波でその欠片が後方へと弾かれる。一蹴りでゾラとの距離を一気に縮めた。
魔剣の先端がゾラの腹部を狙い加速する。
ゾラは無論その軌道を追える域に到達しているが既に負っている腹部と脚のダメージの影響が大きい。現在の速度はレイの方が数段上の領域だった。
ゾラは回避不可能と判断し、爪を強化、両手の爪を前面構え縦のように塞ぐ体制を取った。まるで鉄壁、爪の間隔は無くなり強固な盾の装いだ。
レイは剣を突き刺す構えで前方に向けていたが、魔剣の先端がその爪の盾に触れた反動を利用し、とっさに身を屈める姿勢に変え直前で軌道を変えた。
レイの体がくるりと宙を舞う。
ゾラはその急激な攻撃軌道の変化に追いつけない。
背後にレイの左足が着地したと同時に先ほどの突進力で見せた魔力の推進力を発揮し、一撃を加えた。
アヴァロンが創造した魔剣が背後からゾラの腹部を突き刺す。
貫通まで至らなかったが、腹部半ばまで剣先は到達し、ゾラの臓器を破壊した。
空中で身を翻し、ゾラの左腿を土台に蹴り上げ、後方へと下がり、元居た位置まで戻った。
蹴られたゾラの太ももは衝撃をまともにくらい、骨が砕け、内出血が裂けた筋肉から溢れ出た。筋繊維が裂け、内部が露出している。
「ぐ!!!おのれぇーーーー!!」
ゾラの口から血が溢れ出す。腹部の傷の周辺は堕天使とかしたゾラの表皮から人間の頃の表皮に徐々に戻りつつあった。毒が堕天使として力の根源であるのだろう。
ゾラの強化の源であるその毒を解毒し、その効果を消滅させつつあった。
アヴァロンの創造する魔剣は相対する敵や状況のアンチ能力を付与するものだ。ゾラにとってはまさに天敵となる武器。攻撃を与えれば確実に弱体化できる。
ゾラもその事実に気づく。
『チッ今更ながら「あいつ」の忠告を聞いておくべきだったか・・・』
『このままあの剣で切り続けられれば、確実に死ぬ・・・』
『素早さではアイツに勝てない・・・』
『ダメージが大きい、治癒が間に合わない・・・』
『・・・刃が通らないほどの硬化が必要だ・・・・』
ゾラ自身もこの極限の状態で進化を遂げる。
ゾラの爪が異常に伸び、まるで生き物のように、そう、それこそ蛇のようにうねり始める。爪だけではない。皮膚が鱗のように硬化されていく。それらが幾重にも重なり体を覆う。そう、まるで龍だ。龍という存在はこのアルスには居ない。イースにも当然いないはずだが、レイにとってはまるである物語で出てきた竜騎士のようにその姿は映った。
そして、長く伸びた爪は体中に巻き付いた。
極限まで硬化された爪と鱗で鎧と化したのだ。
『・・・・龍装衣(ドラグメイル)・・・とでも呼ぼうか』
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