第20話 激闘①ー神格化ー

レイの意識はどこかに隔離されたようだ。

自我はあるが、自分の身体の内側から傍観している状況になった。

優しく包み込まれるような空間を感じる。暖かく、柔らかな空間。

形容しがたいがまるで母の子宮の中に居るようだ。


眼は開かれている。いや、実際開いているのか?

視野は正常だが、客観的な映像が浮かび、まるで臨場感あふれる360°VRを体験しているようだ。

体の制御が効かない。指先を動かす指示を脳が出しているにも関わらず、指先が微動だにしない。金縛りにも似たような感覚。普通、脳の指示と身体の動作が連動しない場合、恐怖するが、そのような感覚は無い。


先ほどの声が再び語りかける。


『レイ・・・私は汝の天使として守護する者・・・名をアヴァロン』


『いつ以来か・・・このように語り掛けるのは。』


『目の前にいる敵はゾラ・・・汝を死なせるわけにはいかない・・・代償は伴うが・・・私が汝に代わり・・・ヤツを葬ろう・・・』


『「汝」なんて、古風な言い方だ。しかし、なぜだろう、突然話しかけられても違和感を感じない、昔からの友人に久しぶりに会ったかのような感覚だ。』


(前にも語り合ったことがある仲ということか?)


『・・・なぁ、アバン、勝てそうか?』

アバン?自分のセリフが何かおかしい。


『・・・勝たねば、我の使命を果たせぬ。』


『・・・そっか・・・じゃあ任せるわ。』

やはり言動がおかしい。


『御意。』


体中がから力が漲る。細胞の一つ一つが天使の意思によってその閉ざされた門を開いたかのようだ。水門が開かれそこから無尽蔵の水が流れ出るかの如く、内なる魔力が溢れ出てくる。今までに味わったことのない感覚。まるで別の生き物に生まれ変わるようだ。レイの意識が存在する閉ざされた空間からもすべてを感じることができる。


僕が僕ではなくなる・・・・。

いや、それでも僕なのだろうか。

記憶の片隅にある母のビーフシチューが何故かふとよぎった。


レイの髪が金色に輝き、長髪となる。

輝くエメラルドグリーンの瞳と相まって、まるで別人のような容姿となった。


なんだろう、どことなく母の面影がある。


『神格化(しんかくか)』それは一定上の魔力を保有し、何らかの条件が重なることで発現する事象。天使はその存在自体が神格化したものであるが、もともとレイを守護していた天使がレイに憑依することで強制的にレイに発現させた状態にとなった。


この世には「格」というものがある。格の枠組みを超えることを昇格というが、神格化は神に近い領域に達する現象を言う。神とは何か?これは答えるのが難しいが7つの世界を統べる者達とでも言おうか。この世は神々の盤上の上に成り立っている。


「その姿・・・今でも鮮明に覚えているぞ・・・・」


ゾラが襲いかかってくる。

しかし、今はその動きを目で捉えることが出来る。神格化した状態ではあらゆる能力が飛躍的に上昇する。動体視力も以前のそれの比ではない。


ゾラの攻撃が身を動かすことで避けられる程度の速度となった。アヴァロンの思考が流れ込んでくる。先ほどの光の防御壁(シールド)は大量の魔力を消費するらしい。その為、常時展開するものではない類の能力のようだ。


『汝、我が動きを追体験し、糧とせよ。』


『・・・ああ、きっと再現してみせるよ。』

自分の言動だが、何を言っているのかよくわからない。


(ならんかの模範とせよってこと?)


ゾラが高速で襲い掛かってくる。息をつく間のない連続攻撃だ。

きっと神格化してない者やその領域に近しい者以外にとっては、訳のわからぬ残響と舞い上がる風のように感じるだろう。


ゾラの攻撃が当たらない。凄まじい身のこなしだ。自分の身体とは思えない。

神格化した状態は別次元の存在のようだ。


レイの精神は隔離され、自身の身体に干渉することはできなかったが、一連の出来事の一瞬一瞬を現実のものとして体感できた。


『チッ、埒が明かないね。ならば・・・』


ゾラは一旦距離を取り、何かを念じているようだ。


周囲に黒く細かい粒子が浮かび上がる。一粒一粒が濃い魔力を含んでいる。

更にそれらが結合しより大きな光の球体となり、ゾラの周囲取り囲む。


四肢を広げて、ゾラはその粒子の全てを吸収する。


ドクン!とゾラの体が躍動する。一瞬筋肉が肥大し血管が隆起し、再び元の状態にもどった。


頭の中で声が響く

『・・・よく見ておけ・・・あれは、魔法の真髄だ・・・』

『・・・一時的に、魔力を増加することができる・・・』


アヴァロンが教えてくれた。魔力を体内にどれだけ取り込めるかにより魔術師としての技量を測れるらしい。内からと外からの魔力、そしてそれを維持する器のバランスが求められるらしい。


自然界は魔力に溢れている。もちろん場所によりその濃度は異なるが至るところに存在している。魔力とは言い換えるならば自然エネルギーとでも呼べるものだ。ゾラの周囲に現れた黒い粒子は自然界の濃縮された魔力、ゾラはそれを自ら魔力と掛け合わせ構築し、膨大な自然界の魔力を体内に取り込んだのだ。


感じ取ることができる。見た目に大きな変化は無いが、内包する魔力量が格段に跳ね上がった。


ゾラの主な武器はその鋭い爪。ゾラの右の指の爪が形状変化していく。より長くそしてそれらが結束し束となる。鋭く強固に。その細胞ひとつひとつが硬質化し、全体としてレイピアのような形状となった。


ゾラの前傾姿勢になり右腕と一体と化したの針を突き出す。

そして、先程まで視野が捉えていた姿が消え、その針がレイ左肩を突き刺した。


シールドはオートで展開されるようで、割れた光のシールドの破片が飛散した。

その上で、神格化した魔力により生成された鎧をも突き抜け、レイに負傷を負わせたのだ。


針は肩を貫通し、30cm程は突き抜けていた。

ゾラは一旦、離れ、再び距離をとった。


右腕にあった針は消え、通常の腕の状態に戻っているではないか。


肩に突き刺さった針はそのままの状態であった。

まるで蜂だ。針を残したままにしておくことで、なんらかの効果があるようだ。


ゾラは針を自在に切り離し、再生成できる。

既に右腕から新たな針が出来上がっている。構築は一瞬だ。

更に見た目でわかる。先ほどよりもより硬質になっている。


「ぐっ!!!!!」


レイは吐血する。針が刺されたところからの出血も止まらない。

アヴァロンが同時に治癒を試みていることがわかるが、その治癒力を超える負傷が断続的にダメージを与えているようだ



『・・・これはまずい・・・毒か・・・・』



そう強力な毒がその針には仕込まれていたのだ。

ゾラの武器は爪だが、殺傷能力は高くない。この毒が最大の武器だ。

ゾラの毒は猛毒、自然界には存在しない独自のブレンドだ。どんな生き物も即死する。


『さしづめ、嬢王バチってやつか・・・』


体内に侵入したその毒が左肩から蝕まれていっていた。

紫色から黒に徐々に変色していく、左腕に力が入らない。


『もはや猶予はない・・・・』


ゾラがやっていた魔法の真髄と呼ばれた技を今度はレイが行う。

今度はその技を内側から感じ取ることが出来る。


自然界に溢れる精霊に呼び掛けているのだ。


『・・・力を分けてくれないだろうか?・・・』

声が聞こえてくる。複数の声だ。中性的な声に聞こえる。


『いいよ』

『しょうがないね』

『どこかでお礼してよ』

『アバンは昔っからこうだよ。うふふ。』


精霊は光の玉となり、揺らめき始める。ミツバチが花粉を集めてくるように、そこら中に転がっている小さな光を集めて少しずつ大きくなる。

精霊同士も呼びかけあって、さらに仲間を連れてくる。どんどんその輪が広がってゆき、視認できる程に膨れ上がる。


レイの体から、枝のような光線が周囲に放たれる。その枝が一つ一つの光の球体と結び付き、それらを引き寄せそして吸収していく。


『・・・レイよ・・・天使は「願う」、堕天使は「脅す」・・・結果が同じように見えても、過程は異なる。よくよく覚えておくことだ・・・』


光の粒子は青白く輝き、収束しそして体内に取り込まれた。


レイは感じた。これはゾラのものより強大だと。


レイの身体を中心に、光の輪が構築される。

それが幾重にも重なり、まるで孔雀の羽を彷彿とする光の陣がレイの周囲に展開される。


『・・・汝覚えておけ・・・・これが我が真骨頂・・』


『魔剣創造』

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