第11話 炎の化身イフリート

「スミス所長!!!!私たちも加勢します!!!!」

遅れて到着した兵士達が、敵に突進する。


「ダメだ!!下がっていろ!!!」

スミスが叫ぶが間に合わない。


「うじゃうじゃと雑魚が出てきたわね。アタシは興味ないから、ポチやっておしまい。」

ゾラは使役しているイフリートをポチと呼んでいる。


「ガガガ」

イフリートは頷くと、その巨体をゆっくりと動かし始めた。

足を引きずるように一歩ずつ、その重量により、舗装された地面がひび割れ、舗装石がめくれ、地面があらわになる。体から吹き出ている炎が揺らめき、火の粉が散っている。異常な熱を感じる。正に目の前に動く火山があるようだ。

イフリートの軌跡は明確にメビウスの地に痕跡を残していった。


「イフリートが動き出したぞ!!標的を絞れ!一斉攻撃だ!」


飛びかかろうとした兵士を、イフリートの振りかぶった剛腕があらゆるものを粉砕する。

腕は強固な岩石で構築され、衝突した武器を粉砕。武器を持つ兵士の腕を粉砕。体を粉砕。グチャグチャと体があらぬ方向へ曲がっていく。体内から噴出した血はが熱で蒸発すると異臭を放った。戦場の匂いだ。イフリートが腕を振るたびに確実に一つの命が消失する。その連続。


威勢よく飛びかかった兵士達に旋律が走る。踵を返して逃げようとしてももう遅い。

今度はイフリートに掴まれてしまう。その腕力で握りつぶし、まるでリンゴを絞るように片手で、体をメキメキと潰し、血のジュースが滴り落ちる。握られると、目が飛び出て、穴という穴から行き場を無くした臓器がドロとぬめり出す。

戦いの現場で幾度となく死を見てきたマザーズ団員でさえ、これほどむごいものを見たことがない。


メビウス側は主戦力の団員が既に別世界へ出発した後だった為、残存兵士は下級準団員や訓練生が中心で構成されていた。彼らでは何の戦力にもならかったのだ。


唯一、レイの対応の為に残った、スミスとアリスが上位に属する。ジャイは序列13位、ピートは14位(最下位)、ヒョロとブッチャは準団員だ。マザーズ団員になれている時点で一般兵とは別格なのだが・・・


戦力差は歴然だった。


「出発直後だから団員への伝達手段もない。助けは来ない。『マリア』も無干渉に違いない。・・・頭を使えスミス・・・考えろ・・・」


いつもほおけているスミスだが、この状況下では流石に真剣そのものだ。


「アリス!『合成魔法』で束縛する!」


(あれは確か、イースのブレインの関係者と・・・誰だったかしら。)


合成魔法とは本来一つの属性で発現させる魔法を二つ以上の属性と掛け合わせて新たな魔法を発現させるものである。合成魔法は単純ではなく、訓練だけでも成しえるものではない。どちらかというと生物としての相性が求められる領域の魔法となる。


アリスの水とスミスの植物魔法をかけ合わせた合成魔法は、生命力を強化し、イフリートの体中に大樹を巻き付けた。スミスは植物を生成することができるが、通常であれば、鉢に収まる程度の植物が限界だが、アリスとの合成魔法では魔力量の総量が増え、かつ水の力で生命力を加速することができ、このような大樹を生成することが可能となる。火vs木&水、つまりイフリートの灼熱とは相性が悪いがアリスの水魔法で熱を沈下させつつ上手く行使した。


イフリートの体中から湯気が立ち上っている。大樹を巻き付けるがその歩みは止まらない。丸太程の直径がある大木がバキバキと折られていく。力で制することは不可能に思えた。取り巻く炎とアリスの水魔法の駆け引きが行われているが、かなり分が悪いようだ。イフリートの業火を沈下させるほどの水力は今のアリスでは発現させられない。


「ブチ、ブチッ!!」

身体の関節部を束縛しようとしていた大樹が音を立てて引き千切られる。千切られて破片になったスミスの樹木が無残に焼却されていく。炭と化していくその樹木を観察していると、早く燃始める部位とそうでない部位が存在することに気づいた。


(アリスのもともとの魔法属性は火だが、イフリートを滅却するほどの業火は出せない。苦手だが訓練中の水に頼る他ない。もう少し訓練の時間があれば。)


スミスは術式を操作し、細かい蔓をその大樹から生やした。関節部の奥深くに侵入し、外装ではなく内部からの束縛を試みた。イフリートは無数の岩石が筋肉のように構築され体をなしている。体を覆っている鎧のような岩は特段特殊なものではないように見える。細かな蔓がその岩石のつなぎ目にそって這わされた。関節部は比較的火力が弱い、アリスの水の効力も見込めた。効果はあったようで、足と腕の動きが徐々に不規則になってきた。


ギギ、ギシギシ・・・・

イフリートの歩みが止まる。

全員がこの機を逃さなかった。


「イフリートの動きが鈍くなっている今一斉攻撃しろ!」

下級準団員や訓練生は各々の武器や魔法で一斉にイフリートを攻撃する。

がダメージが入らない。


ここぞとばかりに、ジャイ達漆黒三連星が攻撃を仕掛ける。


「いくぞ!おめーら!!ジェット・ストーム・アタックだ!!」


ジャイを先頭に、ヒョロ、ブッチャが縦一列になり、高速で駆け出した。順に攻撃を繰り出す。

・・・今はその連携不要ではないだろうか。


3人の主武器は全員が斧だ。術式が付与されているのだろうか武器自体に魔力の波が見受けられる。魔力が足りない部分は自慢の腕力で補っているようだ。


振り下ろした斧の刃先が、岩石に食い込む。ジャイが切り口を与え、続く2人が連撃でさらに傷口を広げる。


流石に漆黒三連星は他の兵士達と比べれば攻撃力が高く、攻撃個所を集中したこともあり、足の一部分が欠けた。


ゾラが加勢する気配は無かった。今は空中に浮き、この状況をただ傍観している。


(その程度ではポチの身体に致命傷を負わせることはできやしない。たとえ炎を帯びなくてもその躯体はゴーレム。・・・さて雑魚はどうでもいいけど、あのメガネのブレインは捕獲したいところね。それと、内部の歴代のブレインも。・・・ああ、流石にあそこはマリアの領域か、まっ全部と言わず一つでもいいけど。)


合成魔法による拘束でスミスとアリスは攻撃に転じることができない。イフリートの動きを封じ込むのに精一杯だ。ピートはタンク職のような存在で、攻撃力は下級兵団以下の力量だ。ジャイ達の力では致命傷を与えることはできない。


「く、火力が足りない。」


イフリートの動きに蔓が耐えられず所々でぶちぶちと引きちぎられる。

イフリートが体をいったん丸め、魔力を高めている様子だ。体から迸る炎がさらに高温になり、炎が先ほどよりも噴出した。せっかく関節部に絡ませた蔓をも炭に変えそうな勢いだ。


「アリス、一旦解除し攻撃に移るぞ!」


二人が魔法を解除した瞬間をイフリートは見逃さなかった。

一旦身を縮め、大きく仰け反った後、青い灼熱のブレスを吐いた。


反応の遅れたスミスを灼熱のブレスが襲う。

口から放出されるその火炎放射、青いブレスはイフリートの技の中でも最も火力が高い。炎の柱が形成されている。

大樹は当然炭と化すし、生き物であれば通常であれば一瞬で消炭だ。


アリスは持ち前の高速移動で横に回避できた。


しかし、


スミスは守りの魔法が間に合わず、直撃を受けた。


「先生!!!!!・・・・」


直撃を避けた、アリスのスーツが熱を帯び焼け始める。空かさず水魔法で対処するが、視線をスミスから離すことができない。


数秒の間ブレスが浴びせ続けられる。周りにいる誰しもが死んだか致命傷との共通認識を持った。


助けられる者はおらず、ブレスの終焉をただ見つめるだけだった。


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