第8話 世界の成り立ち②
「天使?なんですかそれは?」
天使という言葉を聞いて、よく神話などに出てくる白い翼をもった人間のような存在が脳裏に浮かんだ。その後、弓を持ったキューピットちゃんも想像されたが、こういう範疇のことなのだろうか。
悪い存在というイメージはない。
「天使は『守護者』とも呼べる存在のこと。天使の存在はある程度の魔力量を保有する者や一部の才能のある者しか認知できない。本来であれば君も見れるはずだが、異世界での生活が長かった君はコントロールできる魔力が低い。もう少し正確に言うと、その守護者が君の魔力を吸収し管理しているようだ。潜在的な魔力は相当のものだが。そのため君には認知することが出来ない。更に、天使の姿を視認できるレベルの者の数はおそらくこのメビウス内でも10名程度だろう。君もこの3日間でそのような人物に出会ったのでは?」
そういえば、ラウンジに行った時やガゼット団長にあった時に見つめられていたような気がするな。皆僕の肩の上あたりを見ていたように思える。ジャイはなんらかの気配を感じていたようだったが、確かに視認しているという感じはなかった。これがレベルの差か。
「はい、あったように思います。」
「アリスから団員との邂逅の話は聞いている。マザーズは現在14名で構成されている。ちなみにアリスは序列で言うと4位。君にちょっかいを出したジャイは13位になる。この序列は単純に『強さ』と捉えていいよ。マザーズは基本的に魔力に長けている人間の集団だが、その中でも視認できるのは上位5名くらいだろう。私はマザーズの団員ではないが、魔力には優れている方でね。視認できる。」
アリスは4位ってことはかなり上位じゃないか。強そうには見えないが、前に感じた魔力の揺らぎ、波動?では確かにジャイとは違っていて、静かさの中に力強さがあったように思える。
どこの世界でも弱者ほど噛みつくってことか。だが、ジャイは弱者には見えなかったが。以前、ネットで見たWWFの某プロレスラーに似ている。筋骨隆々で、目がギラギラしていた。そのプロレスラーは張りぼての筋肉を誇示し、ハリウッドスターとなっていた。実力はどうであれ、強そうに見えたことに違いはない。
「私の背後にその天使が立っているということですか?」
想像すると恐怖が込みあがってくる。得体の知れない存在が、身近に四六時中居るのだ。まさに背後霊のようなものではないか。
触れることもできず、見ることも、感じることすらできない。これは一重に恐怖だ。恐怖を払拭するためにももっと情報が欲しい。レイは身震いした。
「案ずることはないよ。君の守護者たる天使は『善』の側さ。魔力には善と悪の側面がある。これは表裏一体でね。『善』というのはその言葉のとおり、魔力で正しいおこないをすることに行使する存在という意味になる。メビウスも『善』の存在。仮に君の天使が悪であれば、即座に攻撃を加えている。・・・・もしそうならメビウスの全力を持って君を殺しているだろう。」
なんとえげつないことを笑いながら話すのか。この世界において生死とはより身近な話題のようだ。しかし、善と悪というのは非常に曖昧な境界線のように思える。よくある話だが、立場が違えばその立場に応じた正義が存在するのではないか。
そもそも善悪の概念は根源的には存在しないような気もする。
「善の側、悪の側というのはどちらかというと感覚的なものでね。長年魔力に触れていると分かってくる。それを視覚的に測定する構造物もある。ただし、偽ることもできないこともない。魔力操作に長けているものは、悪を善に見せることもできるんだ。ここメビウスの存在を考えると、慎重になることを分かってくれただろうか。」
(天使が憑いている。ということはレイ君は神から託された何らかの運命を背負っている。天使が自分の意で誰かの守護者になることはない。神からの命を受けているはずだ。どうやら彼が幼少の頃から、憑いているようだが、アルスへ跳躍したことと関係があるのだろう。跳躍自体も一人ではできない。能力判定時に彼の魔力だけでなく、血液、体組織のサンプルも手に入っている。あの因子はなんだ?これまでに、見たことがない。あの人に聞くのも良いかもしれないが・・・彼の出生、彼の親、探ってみるか・・・)
レイが不穏な表情を浮かべている。
スミスがしばらく物思いに耽っていると、そんなオーラを感じ取ったのか、ようやく気付いた。
「・・・ん?何か質問があればしていいよ?」
疑問点は沢山あるが、一番聞きたいことを聞いてみた。
「・・・その、、僕の後ろの天使はどのように見えているんでしょうか?」
「そうだね・・・」
「アリス、君にはどう見えている?」
「私には子供の頃に母から読み聞かせてもらった物語『聖獣様の遠吠え』に出てくる、獣によく似ているように映っています。」
「私も同じだね。瓜二つだよ。本当に運命を感じるね。時の歯車が大きく動いている。・・・ああ、『聖獣様の遠吠え』というのは絵本でね。君の世界にもあったろう。小さい頃に世界を教えたり、知恵を育むために作らている寓話だよ。もっともこの物語は歴史が古くてね。伝説に近いらしいけど。」
「それでは全く想像がつかないのですが・・・」
「あはは、それもそうか、レイ君はそんな話知っているはずがないからね。君も時間がある時に読んでみるといいよ。」
「そうだ、アリスはレイ君の世界を学習しただろう?似た生物はいなかったか?」
「そうですね、、、確かトラやライオンという生物が居たような。色や見た目は若干違いますが、それに近いように思います。とても凛々しい佇まいです。あと立っているのではなく、浮遊していますよ。」
「トラ、ライオンですか・・・・」
(ネコ科ってこと?)
なんだ、なんかかっこいいじゃないか。
強そうだし、守ってくれるということであれば、少し安心した。
「天使はその宿主を守る存在。君に悪意をもって危害を加える存在が居た場合、全力で君を守る。つまりさっきの話になると、場合によっては君とメビウスの戦争になりかねなかったかもね。」
またえげつないことを笑いながら言う。と思っていた瞬間、
シュッ・・・
レイの頬から血が溢れる。
スミスの指先が頬を指している。スミスから何かされたということか?
頬には横一文字に傷が走り、その後、軽い痛が走った。一気に心拍数が上がる。
ゴブリンとの戦闘が蘇る。『死』というものを肌で感じることは通常生活の中ではほぼあり得なかった。だが、この世界では違う。生と死、命の天秤は自然界において至極当然の概念であると。
天使=守護者が守ってくれるのではないのか??
頭が混乱する。何が起きた?少し加減が違っていたら頭部が真横に立たれ、絶命していたのではないか?ゴブリンと対峙した時以上に恐怖を感じた瞬間だった。
『人を信じてはいけない。・・・忘れていた昔からの教訓だ。』
腰に携えたレイピアに手をかけた状態で、アリスが安堵の表情を浮かべている。
レイピアが細かくカタカタと震えているように見える。これは彼女の恐怖か?
「・・・良かった。これで君はメビウスの一員だ。」
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