第10話:スカイ&フロントライン

恐ろしいものを見た。

「おいヒイラギ!なんだあれ!」


とても言葉では言い表せなかった。

『くそ!迫水班はほとんど壊滅してるッ!』


それは一方的に、船を沈めていった。

『もう一隻やられた…!作戦失敗だ…!』


「おいどうすんだディーン!このまま作戦続行か!?」


『本部からはなんとも… いや今入電が入った』


「なんていってんだ?」


『イワン艦長が作戦中止、攻撃機はヘリの護衛の回れ、だと』


「ヘリだぁ?ざっけんな!今こうしている間にも味方は死んでんだぞ!?」


『コルト!だからこその護衛だ!ヘリで生存者を救出するつもりだ、ちゃんと理解しろ!』


「んだとぉ?このもやし野郎!」


ったく頭にきやがる!

『あ、待てコルト!隊を離れ—』


うっとしい野郎だぜ。まぁ無線を切っちまえば聞かなくて済むがな。とりあえず敵を倒せばいいんだろ?いいぜ、やってやる。ミサイルは全弾6発、ミスしなけりゃ6体は倒せる。

「燃えてきたぜ…!」


まず上に上がる、これでより広く戦場が見れるからな。にしてもひでぇ惨状だな… 船がもう4隻ダウンしてやがる。

「まずはあそこだな」


急降下して敵の上からガトリング砲で撃つ。轟音と共に放たれるそれは如何なるものも貫通する威力を持っている。ただ翼を攻撃しても意味がねぇ。狙うは—

「—心臓だ」


回収されたこいつらのデータは何度も目を通した、心臓の位置も把握済みだ。心臓を貫かれた敵は力を失い海に落ちていった。このまま垂直だと海にドボンなので精一杯にヘッドを上げる。その時にかかるGは相当なものだ。

「まずは一機…!」



戦艦、それは戦う船、ただ目前の敵を排除するための船。だが今、それは逆転された。一方的に敵の攻撃をなす術なく受けている。

「艦長!第三主砲大破しました!」


「艦長!ミサイル発射口との接続が切れてます!」


戦艦クー、艦長朱ヶ崎扇原あかげさき おうばら。彼は恐怖など知らなかった。士官学校で教官にイタズラをし、一期上の生徒には喧嘩をふっかけた。そんな時でさえ彼は恐怖しなかった。だが今、彼は恐怖している。それは死への恐怖でも敗北への恐怖でもない。それはクルーの死への恐怖だった。自分を慕い、従う者を死なせる恐怖だった。

「総員に通達、この船を捨てる…!」


これがクルーを救う最善策だった。

「もうじき救助艇やヘリが来るだろう、それを待つんだ」


艦橋は一瞬静まり返った、聞こえるのは警報アラートだけだ。そして振り返った朱ヶ崎扇原を見て再び慌ただしい艦橋に戻った。次々と重要資料を燃やしていった。そして一人一人艦橋を後にする。

「朱ヶ崎艦長!早く避難を!」


彼の名を呼んだのはは副艦長のキルケー・プレクだった。彼とは士官学校で同期だった。

「俺は後から行く」


「扇原さん… 」


「先に行く… 達者でな」


「…ええ、またいつか…!」


去っていくキルケーを見て安心した朱ヶ崎扇原は頭上の受話器を取った。

「こちら戦艦クー、これより… 単独行動を行う!」


『は!?何ってる?帰ってこい!』


「クルーの救助は任せた」


『…ッ!もう無理なのか?』


「ああ、この船ももう長くない、どうせ放っておいても爆破でゴムボートが沈む。俺がしてやれるせめてもの事よ」


『分かった… 作戦がある』


説明を聞いた朱ヶ崎は笑った。

「旗艦長はほんとスターウォーズが好きだな!よし、いいだろう!戦艦クー、最初にして最後の大仕事!」


『すまない、こんなことを押し付けて』


「いやいい!これで華々しく散っていけるなら本望よ!」


『ありがとう… 扇原…!』


「ふふふ、あんたらしくないぞ。さぁて、行こうか… 戦艦クー!」

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