第5話 無謀な勇気。

 

 この気味が悪い環境で人の悲鳴が聞こえ、僕の心臓が早鐘はやがねを打つ。


 明らかにやばい、逃げろ逃げろと脳が麻痺する身体に命令する。


 しかし人の内側にある勇気、良心か、はたまた厄介な好奇心が僕を悲鳴の発生地点へと進ませた。


 そして遂に現場へと辿り着いた。


 「おいまさかこんな所で獣人のガキが手に入るなんてな」

 

 「はなせ!はなせよ!」


 目の前でタッパの大きい男が薄汚れたローブを被った子供を無理矢理抱えている。


 「このっ、放しやがれっ!」


 激しく抵抗する子供が男の首元に噛み付いた。


 「いってえなテメェよぉ!」


 噛まれた男は痛さにたまらず子供を体から引き離すと、力の限り投げ飛ばした。

 子供はドゴンと大きな音を立てて壁に打ち付けられ、ピクリとも動かなくなった。


 「おらぁっ!舐めんじゃねえぞ!」


 男は倒れて意識の無い子供を蹴り上げた。


 その時、僕の頭の中に元の世界でのが蘇る。

 

 九十一回、これは物心ついた頃から実の父親に殴り、蹴られた回数だ。

 この世界に来て、もう思い出すこともないと思っていたけど…


 クズな父親と目の前の男の姿が重なって見えた、もはや見て見ぬ振りは僕には出来なかった。


 「おい、その子から離れろ」


 「ああ?誰だテメェ…」


 男の眼光がハヤテを鋭く睨み付ける。


 自分より遥かに身長が高く筋肉のついた男、過去のトラウマのせいか、体の震えが止まらない。


 しかし理不尽な目に遭う子供を見ると他人事とは思えない、それに今は理不尽に抗う為の力が自分にはあると言い聞かせて前を向く。

 

「てかお前、男か女どっちだ?まあその見た目ならどっちでも高く売れそうだなあ?」


 さっき道端で誰かが言っていたが、この男は人攫いで間違いなさそうだ。


 「また噛みつかれてもたまらねえから二、三発ぶん殴って分からせてやるよッ!」


 男はそう言ってハヤテに向かって突進する。対するハヤテは恐怖と怒りで荒ぶる精神を落ち着けながら唱える。


 『第一解放プラメイラ 点火イグニス


 走って向かってくる男に対して指先から創り出した炎球を発射した。

 

 「魔法が使えやがったのか—」


 不意を突かれた男に正面から魔法が命中した。ボォンッと炎球が爆発すると煙が立ち昇った。

 


 しかし煙がかき消えると共に、未だ健在である長身の男が現れた。


 「なんだ?派手な割に大したことなかったぜ?」


 攻撃に失敗した…!?ハヤテの脳内はパニック状態になった。


 『第一解放プラメイラ 点火イグニス』はモノにしたはずだった。


 しかし極度の緊張状態によって魔法が不完全な状態で発動され、炎球の威力は十分の一にまで落ちていたのだ。

 

 ならもう一回撃てばいいだけだ!ハヤテは焦りつつも再び魔法を唱える。


  『第一解放プラメイラ 点火イグニス


 指先にメラメラと燃え盛る炎球が出来上がった。

 今度は確実に魔力のこもったモノになった。


 「見かけ倒しの火の玉で何が出来るよ!」


 一度喰らって大した魔法ではないとたかを括った男は、撃ってこいと言わんばかりに両手を広げて向かってくる。

 

 なら遠慮なく撃ちこんでやる、後悔するなよ!


 炎球は男に向かって勢いよく発射された。


 ボンッッ!


 炎球は先ほどよりも大きく爆発した、今回は確実な手応えがあった。


 だがしかし、目の前にあったのは分厚い氷の壁だった。


 なんだ、これ…氷で攻撃が防がれたのか?


 「あまり俺に手間をかけさせるなよ」


 突如、僕の後ろから違う男の声がした。


 「わりぃわりぃ、サイケの防御がなけりゃ今頃消し炭だったぜ」


 目の前の氷の壁から無傷の男が現れ、僕の後ろの男に返事をする。


 脳が一斉に危険信号を出した、今自分は敵に挟まれているのだと。


 後ろを振り返ろうとした時に気づいた、冷たい感触と共に身体が動かせないことを。


 自分の首から下を見ると氷が体に纏わりついていた、おそらく後ろの奴の魔法なのだろう。

 

 『第一解放プラメイラ 点火イグニス!!!』


 氷の拘束を間逃れた右手の先に炎球を創り出した。


 「させねえよッ!」


 しかし炎球を放つ前に、目の前の男に接近を許してしまった。



 バキッ 



 「おいパイク、顔には傷つけるなよ、価値が下がるだろ」


 「わりぃ頭に血が昇っちまって」


 殴り飛ばされたハヤテは地面に頭を打って脳震盪を起こし、意識は朦朧としている為にもはや抗うことは出来ない。


 こんな、クズ共に負けるのか…僕は…


 ハヤテは悔しさを募らせるが、今は魔力をコントロールすることすらできない。


 「お前みたいなやつ…絶対に…灰にしてやる」


 精一杯の啖呵を言い切った後、ハヤテは気を失い地面に崩れた。



 「…炎使いで灰と言ったらあのS級を思い出すぜ」


 ハヤテの言葉を聞いたパイクはとある人物を想起する。

 

 「あぁ"灰の魔法使い"のことか、あんな奴が相手だったら今頃俺たちは消し炭さ」


 氷を扱う魔法使いサイケはそう言ってニヤリと笑った。



 第五話 完


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