第6話 地下の底から
「な、なあ大丈夫か?」
ズキズキと痛む左頬を押さえる僕に、黒い猫耳の生えた獣人の少女ラミィが聞く。
そう、さっき男に噛み付いて投げ飛ばされていた子だ。
「ごめん、助けれなくて…」
せめてラミィを逃すことができていたら…時間が経つにつれて悔しさが心の内から染み出してくる。
「いや、私が巻き添えにしちゃったのに何で謝るんだ」
ラミィは真っ直ぐな瞳で僕を見つめてそう言う。
でもやっぱり悪いのは何もできなかった自分にしか思えない。
そう落ち込む僕にラミィが励ましの言葉をかける。
「この街で人攫いなんて珍しい話じゃないのに、助けようとするお人好しなんて始めてだぞ」
治安はなかなかに終わってるらしい。
「それに私はこんなだから、案外慣れっこなんだ」
そう言ってピョコピョコと動く耳を指差す。
獣人はどうやら高く物好きに売れる為、狙われやすいらしい。
僕とラミィは今、この冷たく薄暗いジメジメした牢の中に入れられている。
おそらくこの牢は地下にあるのだろうか、小さな窓すらここには無く、光源は壁に掛けられた蝋燭の灯のみだ。
「出よう、ここから」
そう言ってラミィは立ち上がって僕に手を差し出した。
そうだ、グダグダと後悔の言葉を頭で並べる暇があったら前に進もう。
僕はラミィの手を取り立ち上がった。
現状、僕たちの脱出を妨げているこの錆びた鉄扉。
僕の魔法で壊せるかもしれない、だけど今は発動出来ない。なぜならば…
「その腕輪のせいで魔力が散るんだろ?」
僕の両腕に付けられた腕輪を見てラミィが言う。
「それは魔法使い用に作られた拘束具で魔法が出せなくなるんだ、買ったらかなり高いはず」
『
魔法を唱えるが指先にパチパチと火花が散るだけで炎球を形作れない。
「その腕輪、外せる…」
僕が火花を眺めていると、横でぼそっとラミィが呟いた。
「ほんとに!?」
この腕輪には鍵が掛かっていて手で引っ張ったくらいでは外せそうに無いが、一体どういう方法なのだろうか。
「だけど、あんまり見るなよな…」
ラミィは大きく息を吸ってから唱えた。
『一点獣化』
代表に毛がワサワサと生え始めると、ラミィの顔が獣に近づく。
そして腕は完全に、別の生き物のものになった。
「恥ずかしいから見るな!」
顔を赤くしたラミィは手で僕の顔を覆い隠した。顔の表面に肉球のプニプニを感じる。
ラミィは両手で腕輪をガッと掴むとゆっくりと力を込めて左右に引っ張った。
すると腕輪が飴細工のように変形し始め、ものの十秒もかからず腕輪は破壊された。
そしていつの間にかラミィは元の姿に戻っており、獣を思わせる外見は猫耳だけになっていた。
「あれ、なんか姿が」
「これは長く持たないんだ、私は人間の血が濃いから」
「とりあえず早く出よう!」
『
腕輪を外してから魔法を発動した、今度はしっかりと指先に炎球が作り上げられた。
ドンッ!
錆びた鉄扉は攻撃に耐える事が出来ず、鍵が壊れてゆっくりと開いた。
まあまあな音が鳴ったけど誰かが駆けつけてくる様子はない。
牢を抜けた二人は通路を壁に沿って歩き始めた。
通路には他に四つの牢屋が並んでいたが、今は中に人が居なかった。
この施設は点々と蝋燭が灯っているだけなので視界は非常に暗く、壁に手を当てて歩いているため移動速度が遅くなる。
それに何より…
「ちょっと、そんな掴まれたら
「そ、そんなこと言われたって仕方ないだろ…!」
「大きい声出さないで!」
ラミィが暗所を苦手とするようで、後ろから袖を引っ張っている。
「でも変じゃない?こんなに静かで人気がないなんて、牢の見張りもいないし」
確かにそうだ、こんなに広いアジトならそれなりの人数がいそうなのに一人も見当たらない。
「あ、階段だ」
長い通路を歩き続け、ついに地下からの出口を発見した。
「こんな暗いとこから早く出るぞ!」
カツン、カツン
ラミィが急かしてハヤテの背を押している時に、階段の上から足音が聞こえた。
暗くてよく見えないが、この場所にいるということは少なくとも僕達にとって良き存在では無いだろう。
「クソ、なんで俺がガキの様子見に行かねえといけねえんだよ…」
ぶつくさと不満を垂れながらこっちへと向かってくる。不満の内容からして、やはりあいつらの仲間で間違いなさそうだ
地上に上がる道はおそらくここだけだ、逃げる為にはここで戦うしかない。
「お、おい!なんだお前達!どうやって牢から抜けたんだ!」
目の前に現れた二人に下っ端の男は動揺して
『
「おい、ちょっと待て—」
暗く狭い階段に一つの火が灯り、そしてその後に大きな爆発音が響き渡った。
男は階段から上に吹き飛ばされ、そのまま扉を突き破った。
「よし、早く上がるぞ!」
ラミィは暗い空間に耐えきれず、我先にと階段を駆け上って行った。
しかし、階段を登り終えた先でラミィは固まった。
「あ、まずい」
僕も急いで階段を駆け上がった。
破られた扉の先には広い部屋があり、飛んで行った男の仲間が全員、こっちを見ていた。
テーブルには酒やつまみが並んでおり、宴を開いていたみたいだ。
「僕達はお邪魔なので出ていきますね、なので皆さんはそのまま続けてください」
そう言ってラミィの手を引っ張って出て行こうとするが、出口の前には男達が立ち塞がる。
「やっぱりダメか…」
どうやら穏便には済まないみたいだ。
第六話 完
この作品が面白いなって思ったら星、いいね、コメントよろしくお願いしますマジでお願いします!
僕のアカウントをフォローしていただけたら作品の更新状況とかが分かります!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます