第4話 好奇心は猫をも。
「次はふくらはぎの方を頼むよ」
白く柔らかな肌に手を添え、凝った筋肉をほぐすようにゆっくりと力を込める。
するとモチのような弾力性によって手が押し返されるのを感じる。
ベッドの上にバスタオルを巻いた状態でうつ伏せになり、全身のマッサージを受けておられるお方は僕の師匠である大魔法使いシニー様だ。
そしてそのマッサージの施術を行うのは、シニー様の結界に大穴を開けてシニー様の御手を大変煩わせたうつけ者であるこの僕だ。
「君は料理だけでなくマッサージの才能もあるのか、王都の名高いエステに行った時よりも心地いい」
「そんな才能いりませんよ…」
僕が開けた結界の穴を修復する為にかなりの労力を費やしたらしい。
(結界術は専門外だとシニーはぼやいていた)
そしてその疲労した身体をほぐす役目を僕が
「あの派手な暴発を見せられた時はどうしたものかと頭を抱えたが、最近マシになってきたな」
「流石にあれだけ練習すればコツくらいは掴めますよ…」
私はハヤテに毎日十時間のスパルタ猛特訓を二週間行った。
その結果、ハヤテは炎球を創り出す魔法
『
コツか…果たしてコツで済ませられるモノなのか。
私の目から見てもハヤテの成長スピードは凄まじい、これまで魔法に触れたことすら無かった子供だったというのに。
◇◇◇
私はハヤテの生い立ちを知っているわけではない、だがそれが生優しいモノでなかったことは想像に難くない。
その点で私はいつの間にかハヤテに自分を重ねていた。
前までは彼の中に潜む陰が、日常の中でも時折り顔を出していた。
しかし近頃は年相応の明るさを見せている、そろそろ良い頃合いかも知れないな。
◇◇◇
「そうだ、伝えていなかったが明日は出かける、だから一日家を空けることになるな」
なにやら珍しい魔物のツノ?が街で競売にかけられているとかでシニーは約一ヶ月ぶりに家を出るらしい。
「私と一緒にいれなくて寂しいか?」
不意にうつ伏せから振り返ったシニーが僕の目を見て問いかける。
シニーは表面だけを見ると冷静、冷淡な人間に思われるだろう、しかし本当はそうではない。
本人すらそう思っていないかも知れないがとても優しい人間だ。
だからこそ僕はシニーにあまり迷惑はかけたくない。
それに昔から一人には慣れている、一日くらいはどうってことない。
「もっと修行して帰ってきた頃には師匠を超えてるかも知れませんよ」
「ふふっ、そうだな…」
ハヤテの精一杯の強がりに対してシニーは優しい声で相槌を打った。
◇◇◇
朝目覚めてから隣を見たがそこにシニーはいなかった、いつもは僕の方が早く起きるのに。
一人きりの朝も随分と久しぶりだ。
洗面所で顔を洗い、朝ごはんにホットケーキを焼いて食べた、いつもの癖で二人分の生地を用意してしまったから昼ごはんもホットケーキになりそう。
朝のルーティンを終えた後で謎の退屈感に襲われた。
一人ってのはこんなにも面白くないモノだっけ…
何となく暇を潰せるモノを探すために家の中を見渡した。そこでふと目に入ったのは扉だった。
前みたいに一人では外に出られないことは分かっていたが何となく扉を開いてみた。
相変わらず扉から外の様子は結界に遮られて何も見えない。
しかしここであることを思い出した、演習場への行き方だ。
シニーはいつも指で空を四角に切って『解錠』と唱えていた、もしかしたらこの扉でも使えるんじゃないか?
◇◇◇
できてしまった…
すんなりと開いた扉から外の景色を眺めた。
石畳みで舗装された道、煉瓦造りで色彩豊かにペンキで塗られた家々など、扉の先にはテレビで見たヨーロッパのような街並みが広がっていた。
思わず外に飛び出して辺りを見渡した。
人通りが多く、道を行き交う人達はみな元の世界の人とは違う服装をしている。
ゲームでよく見るような、腰に剣を携えて鎧を身に付けた冒険者の様なグループもいる。
恐らくあの人は魔法使いなのかな…?
「何だあの子供、キョロキョロしてるけど」「もしかして迷子?」「この街には人攫いが出るってのに一人は危ねえぞ」
物珍しさについつい周囲を観察していたらいつの間にか、不審に思った周りの人達に迷子扱いをされ始めたため慌ててとその場を立ち去った。
とりあえず人の目を避ける為に歩いていたら、いつの間にか街の路地裏へと辿り着いていた。
薄暗い路地には大通りとは一転して静まり返っており、道端にはゴミが散乱して腐敗臭を垂れ流し、その上にはネズミの群れとハエが
はやくここから立ち去った方が良さそう…
一刻も早くこの気味が悪い場所を離れようとしたその時、空気を切り裂くような悲鳴が聞こえた。
第四話 完
五話は明日か明後日までには公開します〜
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