第10話

30分後、俺と美香さんも無事に解放されて、本日のヨガ教室は終了した。


俺は久美さんに密着しながら逝ってしまったので、シャワー室でラバースーツを綺麗に洗い、自分自身の体もしっかりと洗ってから更衣室を出た。


ジムの入口のベンチに久美さんが座って、スマホを触っていた。

ハイネックのセーターにレザーのタイトなミニスカート、ヒールの高いニーハイブーツを堂々と着こなしている。

傍にはブランドバッグとヨガ教室のスポーツバッグが置かれていた。

オシャレでヨガをして、日々を満喫しているいまどきのできる女性感がすごく出ていた。


俺は身長もそれほど高くなく、オシャレからはほど遠く、オタクで彼女が出来るとは到底思えない。

顔もごくごく標準的な顔。

自分と久美さんがヨガ教室で、出会わなければ会う事も話す事もなかっただろう。

ましてや、体を密着させるなんて事は。

あんなに距離が近かったなんて今でも夢のようだ、こうして離れて見ていると、まるで別世界の人間。

俺の普段の姿を見たら久美さんは軽蔑するかも知れない。

幸い俺はずっとラバースーツを着ているので、顔はバレていないし、名前もKで呼んでもらっている。

さっき、久美さんが伽耶くんと呼んだのはどう考えても聞き間違いでしかないと思った。


もしも、街中で久美さんと並んで歩けたなら、周りの男どもは俺に嫉妬するだろう。

しかし、そんな事は万に一つもない。


俺はヨガ教室の時だけでも夢を見続けたいと思い、久美さんの前を素通りした。


「伽耶くん、待って!」

そう言って久美さんは俺と腕を組んできた。

“え?なんで?俺、名前教えたっけ?それに顔を見せていないのに俺の事が分かったんだ?“

俺の頭の中はハテナだらけ、半分以上思考が止まってしまった。



「え、どうして?」

俺が言葉にしたかったのは、え、どうして俺だと分かったの?だった。


久美さんは俺の問いに対して、「一緒に帰ろうと思って待ってたんだよ」

と俺の疑問とは違う答えを返してきた。


ただ、万に一つはあった!

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